第3話 路地裏にて相棒をGET
紅音は中央部に向かい、デリアの住む家もといフォンケール伯爵の屋敷へと到着した。屋敷の外観は伯爵ということもあり、それなりに立派で中庭も広く綺麗に整っているのが柵ごしでも分かる。そのまま屋敷の門番に彼女はフランクに話しかける。
「なぁおっさん、デリア居る?」
「誰だお前は? デリア様に何の用がある? 身分証を提示しろ」
目の前の珍妙な格好をした怪しい女性を前にして門番の男は警戒をあらわにする。
「あ? まぁいいか丁度仮免だがあるし、ほら」
と彼女は先程手に入れた仮免の冒険者カードを渡す。
「フム、
「おう」
と堂々と開かれた門を潜って屋敷の敷地内へ入り、そのまま屋敷の玄関まで来る。そこで扉を叩くと屋敷のメイドが出迎える。
「
「あ、はい……」
(こっちのメイドはアタシのこと分かるんだな。まぁいいやさっさと金貰って、ついでに冒険者登録の推薦も貰っとこ)
そうして彼女はそのメイドに案内されて、そのままデリアが待っている部屋まで行く。部屋にはデリアと護衛の女魔法使いがいた。
「待っておりましたわ。紅音様、さぁこれが
と、彼女は報酬金が入った布袋を紅音にを渡す。念ためにと紅音はわざわざ目の前で中身を確認する。
本来こういう場面で、中身の確認をするというのは相手を信用していないという非常に失礼な行いを平然と彼女はやってのけた。
「おう、確かに受け取ったぜ。あとついでにもう一つ頼んでも良いか?」
「えっ……まぁ構いませんわ。内容によりますけれど、それで何の御用ですか?」
「冒険者登録の推薦を出して欲しいんだけどぉ……いいか?」
「あぁそれでしたら、この者“トール”からの推薦を出しておきましょう」
とデリアは護衛の女魔法使いの事を言う。なぜわざわざ彼女を名指ししたのか少し疑問の表情を浮かべた紅音に対し護衛のトールが補足する。
「貴族の方が出すよりも、実力のある他の冒険者からの推薦の方がギルドに所属する他の冒険者からは聞こえが良くなるんです。理由は色々あるんですが特出している要因としては、実力もない悪質な冒険者が特に貴族からの推薦で入ることが稀に起きるからです。無論その推薦から全てというわけではありませんが、紅音様の今の格好的にそう思われる可能性を考慮してです。恐らく明日、ギルドへ訪れる頃にはもう仮免ではなくなると思いますよ」
どうやら紅音は異世界人から見ても珍妙な格好なため、その配慮だったようだ。
「ほーん、よく分からんが分かった。ありがとうな、じゃ!」
「! あぁもう行かれるのですか?」
と、デリアが呼び止める。もう少し話していくつもりだったのだろうか、少し声が弱まる。
「ん? あーまぁな、色々とここら辺を観ていきたいしな。悪いな、色々と世話になったわ! なんかまたの機会があったらよろしくなー」
と言いながら扉を閉めて彼女は去っていった。まるで嵐が去っていったかのような感覚がその部屋を満たしていた。
◆
そして紅音は街をほっつき歩いていた、無論建物の下見だ。彼女が手に入れた本に書かれている地図は大まかな世界地図とも言うべきものであり、事細かな地図まではなかった。それ故彼女は自らの足で酒場と賭博場に宿屋といった、街の構造をなんとなくで把握しようとしているのだ。
「うーん。パッと見じゃ分かりにくいなぁ。所詮は中世ファンタジー文化レベル、ユニバーサルデザインに欠けるねぇ」
そう理由の分からない文句を適当に垂らしていると、ふと食堂の方の薄暗い路地裏に怪しい人影(?)を見かける。何かがモゾモゾと動いている。始めは犬か何かと思いそのまま無視しようと思ったが、どうしても気になり様子を見に行くこととした。
「おい、そこで何してんだ」
彼女の言葉に
だが顔を決して合わせないような動きだ。その不気味さに不可解さを覚えながらも彼女は続ける。
「こんなゴミ漁ってどうする? 美味かねぇだろ。あと顔を見せないでこっち向くのやめろ、話ずれぇだろ」
「でも、多分顔見たら怖がるよ?」
と、可愛らしい女の子の声が聞こえる、どうやら獣の類ではないようだ。
「んなわけあるかよ、さっさとしろ。でないとその布ひん剥くぞ」
そうして女の子(?)はゆっくりとフードをめくり始める。するとそこから出てきたのはボサボサ黒髪短髪の女の子であった。がしかし、人間とは全く違う部分があった。
それは左目の部分が眼帯のように少し傾いた形の鋭い牙と長めの舌がある口になっていたのだ。よく見ると彼女の腕にも同じような口が大きさは異なるがいくつもある。それは彼女が紛れもない人外であることの証拠であった。つぶらな瞳をした右目が紅音を見上げる。
「ほーん……そういう感じね。で、何でゴミなんか漁ってんだ?」
と、少しグロテスクな外見。まさしく異形と呼べる者を前にしても彼女は特に動揺はしなかった。
その意外すぎる反応にその女の子は驚く。
「えっ……! お姉さん私の顔をみて何とも思わないの?」
「そういうのはゾンビゲームで慣れてんだよ。……あ、ここじゃ分からねぇ事だったな。それで? 親とかいねぇのか?」
「えっと……ここでゴミ漁りしてるのは……ここでご飯を食べてていて…前に他の人に聞かれたこともあるけど、お父さんやお母さんの事はよく知らない。……この体のおかげでどんな物でも食べれるからご飯には困らないけど、そのせいで皆には怖がられるばかりだし……お姉さんが初めてなんだよ? 私のこと怖がらなかったの」
と、女の子は随分と気弱な声で話した。それよりも紅音はある言葉に引っ掛かる。
「ん? お前さっきぃ……何でも食えるって言ったよな? 味はどうなん? 美味いん?」
「えっ? まぁ……不味くはないけど、美味しいかな?」
と、その言葉を聞き紅音は確信へと至る。
(ほーん、そうかだったらぁ……言い方は悪いがゴミ箱として活用できるな。こりゃ便利な
と、彼女は心のなかで再びほくそ笑む。このような過酷そうな過去を聞いてコレだ、まるで人の心がないと言える。だがそれは彼女にとってお互いにWin-Winになれる秘策があったからだ。
「お前、名前は? アタシの名前は
「私の名前はグリル……どうして名前を聞くの?」
「そうかグリルか……グリル、アタシの“妹”になれ」
と、言い紅音は彼女へ手を差し伸ばす。
「……え?」
建物の影で暗闇に包まれた路地裏に大通りの紅音がいる方向から光が差し込んでくる。その光は紅音と重なり、後光となった。
普通ならばこんなトチ狂った提案を受け入れるはずもなければ、ただただ困惑しか産まない。しかしグリルからすればまさしくこの光景は神から差し伸べられた救いの手のようにも見えたのだった。
「いい……の?」
「いいも何もヘッタクレもねぇよ。ほら付いて来い、今の生活よりかはマシなると思うぜ。ていうかお前、その生活長そうな割に随分と髪短けぇな。…・・なんでだ?」
「う、うん。えっとまぁ……食べた!」
(食べたって……それにしてもこいつ
彼女はそう思い
彼女たちが向かった宿屋は冒険者ギルド直轄の宿屋だった。
「二名で頼む。あとコレ」
と紅音は宿屋の主人に冒険者カード(仮)を見せた。
「あーはい、一応冒険者の方ね、なら料金は通常通りだな。仮免だから先払いしてもらうよ。一泊六十セールね」
「はいはい。……ほら」
と、紅音は袋から銅貨を取り出して主人に渡す。
「はい確かに丁度、あとこれ部屋の鍵ね。右手の階段を登って右だからね」
紅音は部屋の鍵を受け取る。
「あっそ。んじゃ行くか、グリル」
「うん!」
そして彼女たちは部屋に入った。その部屋は実に質素で椅子と机が一つ、ベッドはギリギリ二人で寝れる大きさだった。壁には木製の小さな扉窓があるくらいだった。
「うげ、マジで質素やん。しかもベッド別じゃなくて一緒かぁ」
思っていたよりも辛気臭く、下手したら元の世界で住んでた家の方がまだマシかもしれないという感想がまろびでた。彼女の気持ちの落胆をよそにグリルが質問してくる。
「紅音お姉ちゃんって冒険者だったの?」
「え? ……あーまぁな、今日なりたてだけど。そうかぁ、アタシここからの生活考えなきゃいかんのかぁ。冒険者の仕事って具体的に何なんだ? この本に書いてあるとおりに動いてみたものの、よくわかんねぇな。異世界だしいっそ冒険でもしてみるか?」
ふと自分が自然溢れる台地の上で冒険をしている姿を想像してみる。しかしなんとも言えぬものしか頭で浮かべることは出来なかったために唆られはしなかった。
「いやアタシの性に合わんな……どうしたもんかねぇ。なんか楽に稼げるような仕事無いもんかねぇ」
そう言いながら彼女はベットに腰を掛ける。その時あることを思い出す。
「…あ、そうだ! 今一応金あるやんけ!! 取り敢えず今日は酒と肉だな! あとは……まぁ流石にこの本を手で持ち歩くのはもう嫌だ。カバンを買って……あとお前の服も要るな、流石にそのボロ服じゃあな。ま、そういうことは明日やりますわ……アタシはもう寝る、じゃ」
「えっ?! あ、うん……おやすみ」
そうして紅音はそのままベッドにうつ伏せになりながら寝たのだった。
すべての面倒事を明日の自分に丸投げして……。
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*今回の実績
相棒(灰皿兼ゴミ箱)を手に入れた。
グリルの好感度が150上がった。
デリアの好感度が3上がった。
トールの好感度変動なし
宿屋の主人の好感度変動なし
門番の好感度が21下がった。
ステータス
名前:グリル
種族:???
世界異能:無し
称号:無機有機物グルメ名人・サバイバー
魔法:無習得
耐性:精神攻撃耐性(中)
痛覚耐性(中)
耐寒・耐暑(中)
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