赤い実の成る頃
いときね そろ(旧:まつか松果)
赤い実の成る頃
木枯らしの吹く頃になったら薬作りのはじまりだ。
棘のあるカドリライの枝を山から幾束も切って、
毒を持つという赤い実をちぎって、一昼夜水にさらして、洗って、
鍋一杯煮詰める。
水は加えず、果実の水分だけで根気よく、根気よく。
煮崩れてきたら熱いうちに一度漉して、糖蜜を加えて、さらに煮詰める。
やがて水分が飛んだら集中して音が変わる瞬間を見極める。
ここが肝心だ。
重い鍋を草の上に下ろして、すくい取った中身を板に拡げる。
匂いに誘われて寄ってくる羽虫を払いながら待つこと半日。
根気よく煮詰めたカドリライの赤い実は、板の上で甘いかたまりになる。
一人でこなすには体力の要る仕事だ。
だが師匠は黙々とこの薬作りをこなしてきたのだ、何十年も。
今日からは私が受け継ぐ。
棘に刺され、毒に触れた私の手は醜く腫れた。けれど師匠の手とは比べるべくもない。
薬師の師匠は感謝こそされたが、その手はどれほど疎まれ笑われたことか。
――なに、知ったことじゃない。この薬はこの冬もその先も、おおぜいの村人の命を救うのだから。
師匠はそう言って、陰口を言う村人にも気前よく薬を分けてやった。
私は自分の手を見、木枯らしの中に、
だいじょうぶ。
今日からは私が受け継ぐ。
赤い実の成る頃 いときね そろ(旧:まつか松果) @shou-ca2
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