第5話 汚名返上!? 新しい武器を得たメスガキ変身ヒロイン、巨漢ヴィランに反撃開始!
紅金牛太郎が暴れ回っていた都心部。その一帯はすでに至る所が破壊し尽くされており、何台ものパトカーが廃車と化していた。民間人の避難はすでに完了しているらしく、辺りは閑散としている。
「ぐっ、あぁっ……! な、なんて防御力なんだっ……! 俺達の必殺技は、あの時よりも遥かにパワーアップしてるんだぞっ……!?」
「散々暴れ回った後のあいつなら、俺達でも楽に倒せると思ってたのにっ……!」
そして、この事態を受けて駆け付けて来た「第2陣」のヒーロー達も、パワーアップした紅金には敵わなかったようだ。彼らは血反吐を吐いて死屍累々と戦場に横たわっている。紅金の消耗に勝機を見出し、漁夫の利を狙っていた彼らは規格外のパワーに叩き伏せられていた。
実際、紅金はこの時点でかなり体力を消耗している。しかしその点を差し引いても、双方の間にある力の差は歴然だったのだ。そもそもの力量差があり過ぎれば、「その程度」のことでは勝率に関わらなくなるのだろう。
「……力を増したのは貴様らだけだとでも思ったか。このスーツはROBOLGER-Xとの決着を付けるために装甲をさらに増設した、『BIGBULL-CHARIOT改』なのだぞ。貴様らの惰弱な攻撃では、傷一つ付けられぬものと思え……!」
倒れ伏したヒーロー達の醜態を見渡しながら、厳かな声色で呟く紅金。その屈強な肉体を固める赤と黒の装甲服は、以前よりもさらにマッシブかつ、攻撃的なシルエットになっている。かつて竜吾にへし折られた角の部分が、彼が味わった「屈辱」の重みを物語っているようだった。
この戦況が長く続けば、いずれはより精強な海外のヒーロー達や、軍隊が動くことになるだろう。その「数の暴力」に圧殺されるまで、紅金は力の限り暴れ回るつもりでいるようだ。所詮はどこまで行っても1人の人間。いつかは必ず斃れる。だが、だからといって彼を恐れて放置しているようでは、日本のヒーロー界は面目丸潰れだ。
「……ふ〜ん? それじゃあその言葉、そっくりそのまんまお返ししちゃいますね。図体だけのざぁ〜こなヴィランさん!」
「なに……?」
その最悪の事態を阻止するべく――紅金の前に、最後の刺客が現れる。ピンク色のバイクに跨り、この戦場に馳せ参じた人気最底辺の爆乳美少女スーパーヒロイン。RAY-GUN-SLINGERこと、辻沢風花だった。彼女は颯爽と「後期型」のレーサーバイクから飛び降り、紅金達の眼前に舞い降りる。
「……容易く破れる装備では、ないようだな」
彼女が普段着ている、ピンク色のレオタード状強化服。その上に装着された赤と白の増加装甲を目にした紅金は、仮面の下で鋭く目を細めていた。
花のように可憐でありながらも、その内側には鋭い闘志を秘めている。ハナカマキリを想起させる赤と白の鎧は、そんな風花の内面を物語るかのようなデザインであった。辻沢風花という人間をよく知っている竜吾ならではの、「遊び心」だったのだろう。重量感溢れる「新装備」を纏って現れた風花の姿は、それまでの軽装からは想像もつかない印象を与えている。
「お、お前……RAY-GUN-SLINGER、なのか……!? 何なんだ、その重装備……!」
「ふっふ〜ん、驚きましたか? 今まで散々私のことを馬鹿にしていたようですが……ついに私の時代が来たのですっ! あなた達はそこで指を咥えて見ていなさい、私が真の『No.1』に返り咲く瞬間をっ!」
「返り咲くってお前は一度もなってないだろ」
地面に横たわっているヒーロー達も、風花の「新装備」には驚きの声を上げていた。しかし相変わらずな彼女の言動には辟易した様子でため息を吐き、なんとも言えない微妙な表情を浮かべている。どんなにパワーアップしようが、中身は変わっていないようだと。
「よく見れば貴様……あの時の小娘ではないか。確かに前よりは良い面構えになったようだが……あれほど力の差を思い知らされた後で、よくこの俺の前に姿を現せたものだな。貴様如きに用はない、さっさとROBOLGER-Xを連れて来いッ!」
「んふふっ……そっちはしばらく見ない間に、脳みそまで筋肉になってしまったようですねぇ。これを見ても、そんなお間抜けなことを言ってられますかっ!?」
「なにっ……!?」
風花の新装備を目の当たりにしてもなお、紅金は彼女を歯牙にも掛けず、竜吾との再戦を望んでいる。だが、自信に満ちた笑顔を見せる風花が、強化パーツを装着した光線銃を持ち出した瞬間――目の色が変わった。
「……!? その銃身は、ROBOLGER-Xの……!」
そのシルエットの先端部は、紅金を打ち倒したROBOLGER-Xの熱光砲を想起させる外観なのだ。自身にとっての最大の壁。その象徴とも言うべき砲口を彷彿とさせる風花の新装備に、紅金は思わず目を見張っている。
「ふっふ〜ん、ようやく私の凄さが分かったみたいですねぇ。さぁ、刮目しなさいっ! これが生まれ変わった私の新装備……『RAY-GUN-SLINGER重装型』! この秘密兵器で、今度こそ私の真の実力というものをご覧に入れちゃいますよぉっ!」
そんな彼の反応に、風花は「ご満悦」な笑顔を見せていた。紅金に銃口を向け、エネルギーの充填を始めた彼女は背部の
踵部分からガシャンと展開されたアウトリガーも、強化光線銃を構える風花の身体を支えている。頭部に追加されているセンサーも、彼女の「照準」を
(んふふふっ……このスーツ、ちょっと凄過ぎません? 私もう、この世の誰にも負ける気しないんですけどぉお〜?)
そして、当の風花自身は――自らの勝利を確信したかのように、ここぞとばかりのドヤ顔を披露している。別に彼女が作ったモノでもないのだが。
「す……凄まじいエネルギーの波動を感じる……! 正直悔しいが、コイツはやってくれるかも知れねぇ……!」
「ぬぅッ……何という強烈なエネルギーなのだ! まさかROBOLGER-Xの熱光砲に匹敵し得る兵器が存在していたとはッ……!」
とはいえ、彼女の新装備が並々ならぬ火力を秘めているのは事実だ。銃口に集束されて行くエネルギーの奔流は凄まじく、彼女を中心とする強烈な波動が周囲に広がっている。その
「……」
「……」
だが、その充填は妙に長い。エネルギーの集束を始めてから2分近く経過しても発射体勢が完了せず、居た堪れない無言の時間が続いてしまう。最初は口々に風花の新装備についてコメントしていたヒーロー達も、すっかり静かになっていた。さすがに2分も経つと、そろそろ喋るネタが無い。
「……おい、一体いつまで掛かるんだそれ」
「5分くらいだって火弾さんが」
「アホかーッ! そんなにチャージに時間が掛かる武器を何で敵の真正面で構えてんだよッ! 普通そういうのは離れた場所で準備するモンだろーがッ! 邪魔してくださいって言ってるも同然だろそれッ!」
「だってだってぇー! ちゃんとテレビに映るところに出て来ないと私の活躍が皆に見えないじゃないですかぁー!」
「んなこと言っとる場合かぁーッ!」
ランキング至上主義に染まった、現代ヒーロー観の弊害であった。本来なら後方支援砲撃に活かすべきである新装備を、風花は相手の真正面で展開してしまっていたのである。その致命的なミスを糾弾する周りのヒーロー達に対し、風花は頬をぷくーっと膨らませて反論していた。まるで反論になっていないのだが。
「……お前はそういう奴だったなぁ」
装備の正しい使い方を本人が理解していても、その通りに運用するかどうかは本人の気質による。そこを失念していた竜吾は、テレビの前で頭を抱えていた。しかしその一方で、紅金は風花の「隙」を前にしても、敢えて攻撃しようとはせず、太い腕を組んだまま光線銃のチャージを静観していた。
「……良かろう。そのチャージが終わるまで待ってやる」
「ほら見ろ! BIGBULL-CHARIOTもああ言って……うえぇ!?」
エネルギーの充填を待つ。そう宣言した紅金の予想外の対応に、周りのヒーロー達が驚きの声を上げる。この戦闘において、それはあからさまに致命的な悪手だ。一体何が彼をそうさせているのかと、ヒーロー達は困惑した様子で顔を見合わせる。
「小娘、貴様……名はなんと言ったか」
「RAY-GUN-SLINGERですっ! 結構その名前で呼ばれまくってるのに何でまだ覚えてないんですかっ!? どんだけ私に興味ないんですかっ!」
「実際、興味のない相手だったからな。……しかし、今は違う。RAY-GUN-SLINGER、俺はお前に礼を言う必要があったようだ」
「れ、礼ぃ……?」
取るに足らない有象無象の1人だと見下していた風花の存在をようやく認めた紅金は、神妙な佇まいで彼女と向き合っている。彼の視線は、強大なエネルギーを集めている強化光線銃の銃口に向けられていた。彼にとって、その銃口は――ROBOLGER-Xの面影は、非常に大きな意味を持っているのだ。
「その装備のことだ。……それはROBOLGER-Xが作ったものだろう? 銃身を見れば分かる。我々の組織を壊滅に追いやった、奴の熱光砲によく似ているからな」
「……それが何だって言うんですか」
「奴に組織を潰された後、俺は復讐を志していたが……脱獄を果たした頃には、奴もヒーローを引退していた。生き甲斐も帰る場所も失った俺は、ただ怒りのままに暴れるしかなかった。そうすれば、いつか奴が再び俺の前に現れるかも知れないと……ありもしない幻想に縋っていたからだ」
「キ、キモっ……要するに火弾さんのストーカーじゃないですか。何なんですかメンヘラさんなんですか。筋肉ダルマでメンヘラのストーカーさんとかヴィランじゃなくても特級危険物じゃないですか」
「本当は分かっていたのだ、奴との再戦が叶わぬことなど。そんな時に……貴様が現れたのだ、RAY-GUN-SLINGER。ROBOLGER-Xの正統後継者の証。そう称するに相応しい、その装備を携えてな」
竜吾に対する執着を捨て切れずにいた紅金。そんな彼にとっては、竜吾の力を継承して現れた風花こそが、自分の願いを叶えてくれる唯一無二のヒーローだったのだろう。竜吾を超えるという野望を糧に戦って来た彼が己を満たすには、その力を継いだ風花の全力を受け止め、乗り越えるしかない。その「挑戦」の機会を与えてくれた風花を、彼はようやく倒すべき「敵」と認めたのだ。
「私もしかしてミュートにされてます?」
「あいつも間を持たせたいんじゃないか?」
一方、風花とヒーロー達は顔を見合わせて何とも言えない表情を浮かべている。ヴィランの長話に付き合わされて辟易している、と言わんばかりだ。しかし、彼の話を邪魔するわけには行かない。エネルギーの充填はまだ終わっていないのだから。
「……
「……ふん。火弾さんのストーカーなだけあって、よく分かってるじゃないですか」
「奴を超える……そのために奴に挑戦する。叶うはずのなかったその夢が、貴様のおかげでようやく叶えられるのだ。確かに、この場で貴様を今すぐ殴り倒すのは容易い。だがそれでは、奴を超えたという結果を己自身に証明出来ん。奴の火力を受け継いだ貴様の全力を受け止め、征する。そうでなければ俺はこの先、誰を倒しても……ROBOLGER-Xを超えたことにはならないだろう」
「……」
はじめは心底うんざりした様子で紅金の話を聞き流していた風花だが、やがて彼が竜吾のことに言及し始めると、その表情にも変化が訪れる。嫌そうな表情であることには変わりないのだが、その眼はどこか神妙な色を湛えていた。
竜吾を超えたい。ベクトルは違えど、その想いは風花も同じなのだ。ヒーローとヴィランという、決して相容れない立場だというのに――不覚にも、シンパシーを感じてしまう。
「なーんか……すっごくイヤな気分になりました。あなたと同じ背中を追い掛けていた……みたいな気分です」
だからこそ、同じ目標を持ったこの「ライバル」に負けるわけには行かない。その闘争心を剥き出しにして、風花は引き金に指を掛けて行く。エネルギーの充填は、間も無く終わりを迎えようとしていた。
「全く……一体何が悲しくて、キモくてムサ〜いヴィランのおじさんとクリスマスの夜に語らってなきゃいけないんですか。もうそろそろチャージ溜まりそうですし撃っちゃって良いですか? あなたなんかにあの人を語られるの、すっごい不愉快なんで」
「ふん……そういう減らず口も、今にして思えば奴によく似ておるわ。ならば望み通り……決着を付けてやろうッ! その一撃に耐え抜いた瞬間、俺の勝利は確定するッ!」
風花の銃口に集束し、極限まで膨れ上がって行く絶大なエネルギー。噴火寸前のマグマのようなその集合体を前にして、紅金も燻らせていた闘志を露わにして行く。腰を落とし、衝撃に備えるかのような防御体勢を見せた彼の身体が――瞬く間に、人工筋肉によって膨れ上がった。
「……っ!」
「相手にとって不足なし……来るが良い、RAY-GUN-SLINGERッ! この俺の全力を懸けた防御技……
その迫力は、以前の比ではない。
以前の彼を遥かに超える
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