放課後の楽しみ

 芽蒙高校の美術部は現在3年生が5人、2年生が3人、そして1年生が4人の計12人で活動している。僕らの活動内容はルーズなもので、基本何してもいい。絵を描く、彫刻を作る、よくわからないものを作る、これが芸術ですと言えばもうなんでもよしな部活だ。

 現在の部長は3年生の泡沫芽衣さんという女性で、すらっとした体格と整った顔にポニーテールがよく似合っている美人だが、男勝りな度胸と声の大きさを持って部員たちをまとめている。

 ちなみに僕ら3人はそれぞれやってることはバラバラで、護は彫刻、渡は粘土、僕は水彩画を主に行っている。

 美術部の活動を始めてから約三か月、わかったことといえば、まず、護の集中力がすごい。先輩から一枚の板と、彫刻刀を渡されて、「好きに掘ってみな」と言われて護は休むことなく、無心に板を掘り続けた。突然彫刻刀を置いてみんなに見せた板は、ガタガタだが丸く縁取られ、その中には拙い模様が彫られた板だった。

 護はこれを盾だと言い、板を渡した先輩は次の日から護に木彫りを教え始めた。

 渡はというと、どうやら彼はセンスがいいらしい。昔から絵も上手かったし、入部してから初めて本格的に粘土を使って表現するということをした。すると渡はツバメを一羽作って見せた。そのツバメの左側の羽には包帯が巻かれていた。渡がものを作ったことに僕はゾッとした。

 最後もう一つわかったことがあって、美術室の窓からはグラウンドがよく見えて、野球部の練習がまるまる見えるということだ。仲良くなったクラスメートの石田くんと西村くん、何より悠人くんの練習着姿に、いつもとは違う真剣な顔が見える。だから最近は専ら窓から見える風景を描いたり、窓の前にものを置いて絵を描いている。

 こんな感じで芽蒙学校の美術部は日々自由に、部員自らの芸術を磨いている。


 今日も僕は窓の外の絵をスケッチブックに書いていた。遠くに見える山と空に浮かぶ雲を描いていたが、ちょくちょく目線は下にいって野球部の活動を熱心にしている悠人くんに集中してしまう。

 すると野球部員の練習が一旦落ち着いて、それぞれベンチに座っていったりしている。悠人くんはベンチに座ってバックに入れていたスマホを取り出した。と思ったら、悠人くんは急に上を見上げて、僕と目が合った。

 悠人くんは僕に手を振ってきて、僕も手を小さく振り返してみた。すると悠人くんはスマホを見出した。

ヴーー

 机に置いていたスマホが鳴り、LINEの通知がきた。開いてみると悠人くんからだった。

『お疲れ〜何してんの?』

『今は外の風景を描いてたよ』

『おー!出来上がったら見せて』

『いいよ!』

 思いがけないイベントに心躍り、僕はもうちょっと話していたいと欲がでてしまった。

『来週の月曜日って部活何時までかわかる?』

『3日だよな?7月の予定表まだもらってないからわかんないけど、なんで?』

『渡の誕生日で、学校終わったら僕の家でちょっとしたお祝いしようと思ってて、どうかな?』

『え!渡誕生日なん!?絶対行きたい!時間分かり次第伝えるわ!』

『うん。ありがとう』

 渡の誕生日にはしゃいでいるのかな?と思うとなんだか少しモヤっとする。

『あ、伊月の誕生日っていつ?』

『8月21日だよ』

『オッケー!忘れないわ』

 余裕がなかっただけだったらしい。

 あと一ヶ月で芽蒙高校の1学期は終わる。僕の誕生日は夏休み中にある。楽しみがひとつ増えた。

ヴーーー

 野球部の休憩が明けて、僕も絵を描くことを再開したから、護からLINEが来ていたことを僕は気づかなかった。

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