11.王国一の宝? 興味あるね!

 王国一の大商人と自称している、いや実際三本の指に入るのだがそれはともかく大商人であるおひげが立派なルドランのおっさんが募集を掛けた。



『手に入れて欲しいものがある。報酬は王国一の宝である。腕に自信のある冒険者の働きを期待する』



 なんとも曖昧な募集である。何を手に入れたら何が貰えるのか。主語って知ってる? ともかく、こんなクソみたいな募集にオレハツラレクマーしてしまったのでおっさんの屋敷に俺たち『白獅子』はやってきた。いや気になるやん王国一の宝って。スズも「なんやろ……。情報無いけど……面白そうやな!」ってノッてくれたし。怪盗の血が騒いだっぽいな。ただルドランのおっさんは一見悪徳商人風だが、クソまっとうなおっさんなので『ルミナーレ』の出番は無く俺たちも真っ当に報酬を手に入れるべく現れたって訳。



「おい、『白獅子』じゃねえか」

「なんだよふざけんなよ」

「くそ絶対勝てねえ」

「ふん、情けないな。俺はこの後、俺用の墓の用意をしておくぜ!」

「いや直接戦う訳じゃねえ。偶然触れた壁を擦り抜けちゃうくらいの確率で勝てると踏んだね俺は!」

「確かに! 競合したら一度も勝てた事なんてないが、勝てるか負けるかっつーなら確率は二分の一! イケる気がしてきた!」



 屋敷の大広間に通された俺たちの前に広がる人、人、人。冒険者めっちゃいるやん。チーズに群がるネズミの如くである。俺たちも一緒だけど。そんなに注目するなって。めちゃくちゃ言ってるけど、お前らほとんどスキル的には俺よりは上なんやで? 後半、無駄に盛り上がってる冒険者特有のノリは嫌いじゃないけどな。



「冒険者諸君!」



 少しガラついた大きな声を張り上げながら、ルドランのおっさんが執事を従え入ってきた。そういやポケモンにルドランっていたな。



「諸君らに集まってもらったのは他でも無い! かのロスイン火山に眠るという伝説の花、ゴナベル草を採取してきてもらいたい! ゴナベル草の花から取れるデハポンという蜜が必要なのだ!」



「ゴナベル草だと……?」

「んなもんほんとにあるのか……?」

「絵本の話だろそれ」

「トランキーロ……あっせんなよ!」



 ざわつく冒険者達を尻目にこそこそと仲間に相談する俺。



「……ゴナベル草って知ってる?」

「んー本当にあるかは知らんなぁ。それが何になるかも知らん」

「絵本で見た。でも綺麗としか書いて無かった」

「あ、リィナ師匠がたまに取りに行ってました」

「まじ!?」

「はい、色々使い道あるみたいですけど……」



 実物を知るシルがいる。勝ったわ。第一部完。



「おい、それで報酬ってのはなんなんだよ!」

「そうだそうだ! あのロスイン火山まで行かせるんだ! 命掛ける価値あるもんなんだろうな!?」

「勿論当然です。私が嘘を付くとでも?」

「む……」



 冒険者達とルドランのおっさんがごちゃごちゃ言ってるが、自信満々のその王国一の宝とやらはまだ教える気が無いらしい。しかし……



「たしかにロスイン火山まで行くって面倒だよな。お金欲しいって訳でもないし」

「それはそうやな」

「……王国一の宝が何か知れればそれで良い」

「それもそうですね」



 俺達は一致団結した。面倒臭いと。



「……もしどなたかが達成したら王国一の宝というものが分かるのでは?」

「さすがシル、それだ!」

「なら行く必要ないか」

「じゃあ帰ってお菓子食べる」

「よし、撤収!」



 こうして俺達はルドランのおっさんと冒険者共がごちゃごちゃやってる間にさっさと屋敷から出て自分達のギルドハウスへ帰ったのだった。



〜fin〜



「……で話が終わったら楽だったんだけどなぁ」



 それからひと月が経ち、冒険者達は誰もロスイン火山からゴナベル草を手に入れる事は出来なかったのだった。そして俺達はすでにそんな募集があった事などとうに忘れていた。……ある日、冒険者ギルドで何か面白い依頼やら募集やらないかなーと物色していた俺の所にルドランのおっさんが現れるまでは。




「何故取りにいかんのだ!?」


「おうルドランのおっさんか。え、何を?」


「ゴナベル草だゴナベル草!」


「んー、ああ、あれか。……あれ、まだ誰も達成してないの?」


「あの場におった全員諦めたわい」


「ええ……まじかよ。じゃあ俺達もリタイアで……」


「本当にそれで良いのか?」


「何故に?」


「この冒険者ギルドの冒険者、全員が諦めたとなると冒険者ギルドの沽券に関わる事となるだろう?」


「まー確かに……。でも俺個人的にはそんなんどうでも……」




 どうでもいい。そう言おうとは思ったのだが。気が付いたら集まる視線、視線、視線。いつも笑顔の受付の女性ですら無表情でこちらを見ている。



「いや、依頼がクソなだけだろ。あるかも分からない草取ってこいとか。ていうか無いんじゃね? ソレ」

「仲間が実物を見た事があると言っておったのだろう? それとも見たというのは嘘かな?」



 ぐぬぬ。さすがルドランのおっさん抜け目がねえ。しっかり聞かれてやがる。うちのシルを嘘吐き呼ばわりは許さんぞおっさん。



「はあ、分かったよ分かりましたよ。やりゃあ良いんだろやりゃあ」

「流石は『白獅子』! 期待しとるぞ!」



 かっかっかと笑いながらギルドを後にするおっさん。クソ、断れないように場所選んで声掛けてきやがったな。いやまあぶっちゃけ、行くのが面倒臭いだけで行けない訳じゃないんだよ別に。暑さはシルのバフがあるからどうとでもなるし。魔物を避ける分にはスズがいるし。火山が噴火しようがマジクがなんとかしそうだし。俺? 俺はあれよ。……皆んなの荷物持ったりとか出来るし(震え)

 しょうがないので俺たちはロスイン火山へ向かった。特に問題はなかったので割愛する。




「ところでシル」


「はい?」


「そのゴナベル草って毒とかヤバい系の薬とかになったりしないよな?」


「いいえ、リィナ師匠は美容液の原料に使ってましたけど」


「まじ? あの人の若さの秘訣だったり? ……ってそれ不老不死系とかじゃないよな?」


「いえいえ、本当にただの美容液だったはずですよ? ……多分」




 本当だろうか。あの人は見た目が若過ぎるからな……。正直不老不死とまで行かなくても老化防止効果は本当にありそう。後ろで顎に手を当てて何か考えてるスズも多分同じ事考えてそう。




「美容液の原料になるって草が伝説になるの?」


「ふふ、マジクちゃん。ゴナベル草の問題はね、生息条件が厳し過ぎて生息域を広げられないんだよ」


「へぇ、シル詳しいね!」


「リィナ師匠が植物や生物に詳しいから……」




 まぁそんな会話をしながら、シルのお陰でゴナベル草ゲットは特に問題は起こる事もなく。本当に遠出がちょっと面倒だっただけである。ちなみに地面から抜くと一日待たずに枯れるという話だったので鉢植えに周囲の土ごと入れて持って帰ってきた。そりゃあ知らなかったら、もし見つけていても持って帰るの無理だよね。



「おお! 流石は『白獅子』!」



 ルドランの屋敷にゴナベル草をおっさんに渡した。おっさんは大層喜んでくれた。奥さんに贈るらしい。いやいやいや……まぁ冒険者なんで理由とかはどうでもいいけど。



「んで? その王国一の宝ってのは?」

「おお! ……ルーラン! ルーランはいるか!」

「はい、お父様」



 そう呼ばれてきたのは王国一の美姫と噂のルーラン嬢だ。本物の箱入り娘でその姿も滅多に見る事はない。噂に違わぬ美貌ではある。なんかそれらしい物を持ってる風ではないけど……まさかね。いやそんなはずは……。



「では『白獅子』……いやレオ殿には私の娘と結婚する権利をやろう!」

「「「「は?」」」」

「あの……宜しくお願いします」



 いや宜しくじゃないが??? 何も宜しくないが??? いや流石にルドランのおっさんが娘を景品にする程外道な事する訳……いや、もしかしてむしろ逆か? ……嵌められた?



「あー、権利いらないんで現金くれ」

「そんな……!? ひ、ひどい」

「なんとワシの娘をいらんと申すか!?」

「お前、うちのパーティーメンバーの顔見てもう一回言ってみ?」



 ひどくないし。いきなり婚姻押し付けられそうな事のほうがよっぽどひどいし。うちのパーティーメンバー全員がゴミを見る目でルドランの事を見つめているの分かれや。




「お前、ルーラン嬢になんか言われて俺を嵌めただろ」


「……そんな事はないぞ?」


「普段優秀なくせに分かりやすいなぁおい。本当はこんなんで娘を嫁に出したくないんだろ」


「……いや本当に早く嫁に出したいんじゃが、よりにもよってお前さんに一目惚れしてしまってな。『白獅子』は無理じゃって何度も言ったんじゃが聞かなくてのう……」


「私じゃ不満ですか『白獅子』様! お父様は後でしばきます!」


「悪いね。見た目だけ磨いてるような女に興味ないんだルーラン嬢。報酬、上乗せして送ってくれよルドランのおっさん」




 後日、俺達のギルドハウスに巨大純金製ルドラン像とかいうマジでいらない物が送られてきた。ルドラン曰く、「最近王国内で純金の流通が多く平時より安かったので買い占めた。純金なら放っておけば価値は上がるから良い投資」との事。どうせなら飾りたいから己の像を作ったらしい。


 いやその純金流通させたの俺達やないかい! 巡り巡って変な像になって帰ってくんなや!

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