2.自分に自信がない最強シーフがパーティーを辞めたがる件について

 シルが師匠の所に行きたいというので一旦パーティーから離れる事になった。辞める訳ではないので泣く泣く許可した。シルがいないと死ぬ可能性が宝くじの当選確率から一番くじを買い占めた時にラストワン賞を貰える確率くらいまで跳ね上がる気がするが、シルは師匠の元へ帰る度に意味が分からないくらいパワーアップして帰ってくるので諦めた。

 別にもう能力上げなくていいので一緒にいて欲しい。


 今は入れ違いで帰ってきたシーフのスズと二人で『白獅子』に依頼が来ていた新ダンジョンのマッピングやらをしつつ攻略中である。まあぶっちゃけ俺は後ろに付いて歩いているだけなのだが。


 王都ブリジビフォアにある貴族専用ギルドからの依頼。この依頼のミソはダンジョン内の完全なマッピング、及び宝具やアイテムの確認、そして完全攻略『してはならない』という事である。


 更に美味しいアイテムやお宝が有っても手を出してはいけないというおまけ付きである。貴族パーティー様の為に残しておかなければならない。むしろそういった類のアイテムが無かった場合は貴族ギルドから支給されたアイテムを設置して帰らなければならない。多少パクってもバレないだろうが信用はとても大事なのでやらない。


 くそ面倒臭い。が、貴族専用ギルドは王族の絡みもあるのでやるしかない。やってるのはスズ一人なんだけど。



「うちが貴族様の為にダンジョン攻略するのって皮肉効きすぎじゃない?」



 貴族共の悪事を暴き、悪事で貯めた金銭を奪い民にばら撒く『怪盗ルミナーレ』。それがスズの裏の顔だ。



「まあね。でも断れないからさ。スズが居てくれて助かるよ。……そういえばシルがスズに引き抜きの話があるって言ってたけど……まじ?」

「断ったけどね」



 セーフ!! スズが居なくなったらこんな面倒な任務二度と完遂出来ない。っていうかダンジョンの罠に掛かって何度死んでるだろうか分からない。ぶっちゃけスズ以上のシーフなんて存在しないと思ってる。戦闘が出来ないなんてデメリットにならないくらい探索スキルとその使い方が全人類一上手いと俺は思ってる。戦闘に関しては相手の攻撃スキルに吸い寄せられるとかいうマイナススキルと戦闘中に設置した罠は味方に掛かるとかいうマイナススキルとアイテムを投げても明後日の方向にしか飛ばないとかいうマイナススキル持ちなので大分アレだから参加しないで貰ってるが。



「王都久しぶりに帰ったけど『白獅子』、大層な人気みたいやで?」

「『怪盗ルミナーレ』には負けるだろ。勝つ気もないし。ていうかスズだって『白獅子』じゃんか」

「……なあレオっち。やっぱりうち、パーティー抜けるべきやと思うんやけど」

「いやいやいやなんで今の話の流れでそうなるの。スズがいないとうちのパーティー成り立たないんだって。あ、やっぱり引き抜きか? そうなのか?」



 スズの定期的発作、パーティー抜けたい病発動。いやほんと勘弁して。



「あほ。レオっち以外と組むならソロでやるわ。いや怪盗なんて言われてるけど、うちぶっちゃけ犯罪者やん? 『民の英雄』『白獅子』のレオの隣に居ていい訳ないと思うんよ。王都に帰って、酒場やらでレオの話で盛り上がってるの聞いて改めて思っちゃった訳」

「俺が良いって言ってるから良いじゃない。『民の英雄』? いつも言ってるけど『白獅子』みんなが凄いだけで俺じゃないんだって。正義の怪盗カッコいいじゃん。俺も平民だし貴族の悪事を暴くのは気持ち良い側だぞ。バレなきゃ平気だって」

「……もしバレたらレオの名声に傷が付くやんか。うちのせいでそうなるのは嫌や」

「名声? は、それこそどうでもいいね。そうだな、もし怪盗ルミナーレの正体がバレて引き渡せとか言われたら……マジクに魔導ブッパしてもらおう」

「いやいやそこは俺がなんとかしてやるとか言う所ちゃうん?」

「俺がマジクに頼み込む! ……知ってる? マジクが最近新しく作った魔導。水を砂に変える魔導なんだぜ。範囲はなんと王都を囲めるくらい」

「うわ……えげつな。王都中の生活水を全部砂に変えられるって事?」

「いけるってマジクは言ってた」

「あの娘はほんま……レオっちの為なんやろうな」

「それに俺以外にはバレてないんだろ?」

「まあ……そうやけど」




 ちなみに怪盗ルミナーレの正体を知ったのは本当に偶然である。予告状を出された屋敷の悪徳貴族から警備の依頼を嫌々受けた俺は一応持ち場らへんで待機したと見せ掛け、こっそり屋敷の誰も見えなそうな場所で戦士の初期スキル、パリィの練習をひたすらしてた。

 ほんとひたすらパリィの練習をしていた。どうせ捕まえるの無理だし捕まえる気も無かったからである。


 パリィ! パリィ! パリィ! パリィ! パリィ!

 パン!


 ん? なんか音した? と思って剣先を見ると、完全な隠密で気配をゼロにしていたスズが偶然屋敷の屋根から目の前に飛び降りてきて、そんで俺のパリィによって身に付けていた顔を隠す仮面が弾き飛ばされたらしい。

 これはスズのマイナススキルによって相手の戦闘スキルに近付くと吸い込まれるように接近してしまうというスキルのせいらしい。いつもならその身体能力でなんとか相手の技を避け、急接近したのを逆に利用して不意を突くように離脱するらしいが、ただ弾く、というこのスキルとの相性は最悪だったとの事。

 ……まあ相手がなんにもしてこないのにいきなりパリィする奴なんていないからな。



「ん? 男だと聞いてたのに美人さんだな」

「!?」

「……あれ? もしかして孤児院で子供達の面倒見てた姉ちゃんか?」

「!?!?」

「……行きなよ。俺、裏手でサボってる駄目雇われ冒険者。ここで暴れたら俺がサボってたのバレるだろ? ほら仮面返すから」



 とかなんとか会話をしつつ、その日も無事、怪盗ルミナーレは仕事を完遂。怪盗ルミナーレに完遂されるという事はその貴族の悪事は暴かれるという事であり、そしていつもの事でもあるのでいちいち無理矢理警備に引っ張りだされた冒険者にお咎めもないので任務失敗という結果と少ない金だけ貰って任務は終了。


 任務が終わったので面倒事になる前にさっさと王都から離れようと思ったのにわざわざスズのほうから俺に接触してきて、なんやかんや有ってたまに組む事になったのだ。その時は今みたいに固定メンバーでは無かった。俺に固定のパーティーメンバーが出来た事を知ってスズも加入してくれたのだ。やっぱ他に女性メンバーがいると安心出来るって事だろう。




「……でもなあ」

「スズ、俺『白』なんてどうでもいいんだから」

「『五龍』の称号をどうでもいいなんて言うのレオっちだけや。歴代の『五龍』は全員国の歴史に名を刻んでるの知らんの?」

「いや俺王都の教育受けてないからそんなの知らないし。俺には過分過ぎるし」

「何言うとるん。『五龍』最強の聖騎士、王国騎士団団長『黄龍』ロサリア様と御前試合やって引き分けた男が」

「いやアレはスズも知ってるだろ。シルのバフが凄すぎただけだし。それに引き分けじゃなくて負けだし」



 無理矢理王国に引っ張りだされて組まされた試合。俺が本物か確かめる為の試合。いや死にたく無いと思ってシルにバフ掛けて貰ったものの、ロサリアさん強すぎて防戦一方でバフが切れて剣折れ、降参した無残な試合である。


 尚、結果としてその辺の武具屋で安売りされてた量産型の剣で、聖騎士様の聖剣技を戦士の初期スキルパリィのみで技を全部防いだ事で驚愕された上、剣が耐久限界超え折れたので降参宣言したら「私を立てる為にこのようなナマクラで、しかも実力を隠したまま無傷で……王よ。この試合、私の負けです」と何故かロサリアさんまで敗北宣言をしたので引き分けになったのである。


 相手の剣を折ったので勝ったでええやんけ。安物? シルが入ればどんな剣でも聖剣に生まれ変わるんだもん剣なんてなんでもええわ。パリィしか使わなかったって? パリィしか使う暇無かっただけなんだよな。


 シルには私のせいで負けたとか言われて泣かれて大変だったんだから。いやシルがいなかったら勝負にもなってないわ。



「……ていうか、シルおったらさ、うち、いらんよね? ダンジョンの罠だってなんだって、シルおったらノーダメでいけるんちゃう?」

「いや無理だろ。シル自身が罠に掛ったら、シルが驚いて集中切れて魔導解けて全滅するわ」

「せやったら、レオっちにうちが必要なん?」

「必要不可欠。証明に全裸で街を逆立ちで一周して来いって言われたら喜んでやってくるレベル」

「いや英雄様がそんな事したら洒落にならん呪術師が現れたって国がパニックになるわ。……まあ、その、なんや。気持ちは分かったわ」

「辞めないでくれよ?」

「せやな。レオが居てくれって言うならしゃーないわ」

「じゃあずっと一緒だな!」

「ほんまそういうとこ……」

「なんか言った?」

「言ってへんよー」

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