自分に自信がない最強パーティーメンバーが辞めたがる件

白石基山

第一章.ホスグルブ編

1.自分に自信がない最強付与魔導師がパーティーを辞めたがる件について

 俺は良くある(?)転生者だ。5歳の時に前世の記憶が戻った。まあただのオタクの記憶しかないので割愛する。そしてここはテンプレかよと思える程の剣と魔法の世界だ。

 俺は勇者……ではない。一応最高ランクのSランクのパーティーリーダーとしてギルドからも評価され英雄視されている者ではある。

 違うそうじゃない。

 うちのパーティーメンバーがイカれているのである。

 俺は普通に毛が生えた程度の人間である。尚、最近頭部がストレスで薄くなってきた気がする。



「私……パーティーから抜けようと思うの。私がいるせいでパーティーの評判も悪いし白魔導が使えない付与専門の魔導師なんて荷物でしかないから……」

「いつも言ってるだろう? シルはパーティーの要だって。シルの付与魔導は最高だ。一回で複数、しかも無詠唱だぜ? 他の誰がそんな事出来るっていうのさ。評判? うちSランクパーティーだぜ? ただのやっかみだよ」

「でも……付与魔導が不人気でみんな極めようとしないからってだけで、私はこれしか出来ないから仕方なくこうなったっていうか……」



 この世界のパーティーメンバーといえば、基本構成は前衛が二人、タンクとアタッカー。そして後衛として回復役の白魔導師や探索役を兼ねアイテムを使いこなすシーフ、後衛攻撃役として黒魔導師かアーチャーの五人で構成する事が多い。パーティーメンバーが増え過ぎるとコストが高過ぎて任務で手に入る金では赤字になるからだ。世知辛い。


 付与魔導は確かに不人気である。そりゃ回復出来る白魔導がありがたいのは分かる。奇跡の聖女と言われる人に会った事がある。組んだ事もあるが、彼女なんて死んで無ければ全快に出来るレベルだった。死ぬ前に回復させるのだ。あ、死ぬと思ったら置きベホマで攻撃を喰らいながら全快するとか意味分からない。あの人が超人気の白魔導師だから、付与魔導しか使えないとなれば相対的に価値が下がると思われるのだ。

 ちなみにあの人の一番ヤバい所はどうやっても死なないからゾンビアタックを前衛が行える事である。尚、その前衛の精神が壊れるからあんまりやらないと言っていた。あんまりって事は何度かやったんですよね分かります。何が聖女だ。


 ただ、そんな奇跡な彼女と比べてもシルはやばい。その辺の木の枝に破壊を付与し、その枝でオークを叩けばオークが粉微塵に粉砕するのである。なんで? とビックリしたのを凄く覚えている。防御を付加してくれれば砲弾を撃ち込まれても蚊が止まったレベルである。対異常も完璧。しかも普通は一人に一つしか付与出来ないのにこの前なんか10個くらいバフ掛けられてた。チートである。回復魔導? ダメージも異常も入らなきゃいらなくない? ほんと俺なんかと一緒で申し訳ない。



「シルが居なかったら俺なんてこの前のドラゴン討伐で死んでるんだぞ? まず一撃目のブレスで吹き飛ばされながら丸焦げだった。シルが対ブレスと対熱の付与魔導を掛けてくれていたお陰だ。その後の一撃でドラゴンを真っ二つに出来たのだって力と斬撃の付与魔導を掛けてくれていたからだ。そうじゃなかったら分厚いドラゴンの皮膚なんか俺程度が斬り裂けるもんか」



 しかもドラゴン討伐の時、他のメンバーが留守だったアンド緊急依頼で街にSランクが他に居なかったから二人だけでの任務だった。回復役だってシルが入れば要らない。だって大した怪我しないもん。自分で道具袋から取り出した薬草むしゃむしゃするだけだわ。



「ち、違うよ! レオならあんなブレス一振りで薙ぎ払えるしドラゴンだってレオの剣技なら切り裂けたもん!」

「出来るか!? シル、俺お前が付与魔導掛けてた状況だったから勝てただけなんだよ。なぁ頼むよ。辞めないでくれよ。……もしかして引き抜きか? 確かにうちはパーティーメンバーに平等に分けてるから取り分少なく不満かも知れない。……他のメンバーの取り分は減らせないが、俺の取り分からなら、分けれるぞ。流石に全部はちょっと無理だけど」



 正直、黒魔導師やシーフは装備に消耗品も多く、少し取り分多めにはしてあるが、それは消耗品分としてシルにも了承は得ている。が、時間が経ちやっぱり納得がいかないというのであれば、ここは俺の財布から出すしか無い。


 うん、いやいつか魔王なんて存在が現れて、勇者なんて人間が魔王討伐とかするのであれば、俺なんかより勇者の所のほうがいいんだろうけど。そうでもないならうちに居て欲しい。マジで。



「ち、違うよ! お金が欲しいんじゃなくて! っていうかもっと少なくても全然大丈夫だよ!? それに付与魔導しか使えない白魔導師に引き抜きなんてある訳ないよ!? シーフのスズさんや黒魔導師のマジクさんじゃないんだから引き抜きなんて……」

「え、あの二人引き抜きの話来てんの?」



 シーフのスズさん。戦闘は出来ないが探索系のスペシャリストである。恐らくこの世の探索系スキル全てを極めてるんじゃないかと思えるくらい凄い。例を言うとダンジョン探索の時に、彼女が先頭に入れば罠は100%回避出来る上に一度も戦闘にならずに最下層まで辿り着きお宝をゲット出来るレベルである。

 パーティーメンバーに入る前は悪党貴族から貴金属を盗んで恵まれない平民に金を配るなどしていた正義の怪盗としての裏の顔を持つ美人さんである。尚、胸が平らでシルエットだけ見た警備の人らから男と断定されていたので、俺も任務で会うまでは男だと思っていた。色々あってパーティーに入ってくれた。

 マイナススキルとして戦闘関係がからっきし、どころか完全に出来ないというコンプレックスを持つ。彼女もたまに辞めようとする。困る。



 黒魔導師のマジク。メガネっ娘である。じゃない、超が付く程の高火力黒魔導が使える。多分人類側最高火力を持つ娘っ子である。その代わり、その辺の人間でも属性は二つ三つ持つところが単一属性の黒魔導しか扱えない。その属性が六属性の中で一番不人気の土属性というのが彼女のコンプレックスである。しかも火力が高すぎて、初期魔導ですら宮廷魔導師の最高火力を超えるので迂闊に使えない始末である。なので彼女が魔導を披露する場面はほとんど無い。が黒魔導を使ったらどんな相手でもオーバーキルである。初めて会った時は凄く器用に魔導を使っていた気もするのだが。そして彼女もたまに辞めようとする。困る。



「……分かった。シルが辞めるなら俺も辞める」

「ええ!? 駄目だよ!? レオ君が『白獅子』のリーダーなんだよ!? せっかく国から認められて『白』を名乗る事を許される所まで来たんだよ!? やっとこの国に『五龍』の一角として認められたんだよ!?」

「いやそんなのシルと比べたらどうでもいいし」

「ふえ!?」



 そう、うちは元々ソロだった時に俺の名前、レオから前世の和名で『獅子』というパーティー名でギルドに登録していた。んでコツコツ、生きるのに困らない程度に任務をこなしながらスキルを磨きながらやってきた訳なのだが、パーティーメンバーが一人加入するにつれて、メンバーが全員強すぎて国の五大パーティーの一つに数えられるまでになっている。『白』なんて望んでない。半ば無理矢理押し付けられた。相手が国なので断れない。

 ちなみに平民出身であり民間ギルド所属では唯一である。割と憧れの的らしいがぶっちゃけ自分の力では無いのでかなりどうでも良い話である。


 ていうか正直、うちのパーティーに来る依頼が、『白』とかいう称号のせいで難易度ヤバくなり過ぎて誰か一人でも欠けると無理ゲーになるので誰か辞めるのであればマジで辞めたい。



「……そんなに私が必要?」

「当たり前だろ」

「……分かった。もう少しいる」

「本当か!? 助かるよ! ありがとうシル!」



 なんとかシルはまだ辞めないでくれるらしい。しかしスズとマジクに引き抜きの話があるとかいうのが気になる。いま二人ともパーティーを離れてるのが不安を煽る話である。


 ……どうしよう。

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