追1-1.シル出会い前編
私はシル。独り立ちする為に育ての親でもあるリィナ師匠の下から離れ、タオという街にやってきました。師匠から聞いていた冒険者という仕事に就こうと思ったんだけど……。
「はあ? 白魔導師なのに回復魔導使えないの? 付与魔導だけ? 自己強化魔導使えるからいらないわ。他当たってくれ」
「え、付与魔導自分には使えない? じゃあ荷物持ちにも使えないじゃんか。あー、うちは無理だわ」
冒険者ギルドで勇気を出して色々な人に話し掛けてみたのに誰にも相手をしてもらえません。付与魔導しか使えない。というのは、邪魔、いらない。という評価しかもらえません。
「うう……」
冒険者ギルド内の大食堂で何も頼まずただ机に項垂れていた私。
「あの」
「……はい?」
「良ければギルドのほうから紹介しましょうか?」
「いいんですか!?」
あまりにも落ち込んでいた私に受付嬢さんが声を掛けてくれました。「正直見ていられなかった」との事。優しい。
そしてギルドから紹介して貰ったパーティーと初任務をこなしまして。
「これ、今回の任務の報酬山分けした分な」
「……はい」
「で、分かってると思うけど、ギルドの紹介だから一度は面倒を引き受けてみた。でもやっぱりうちにはいらないわ。あと天然が過ぎる」
「……はい」
いらない。邪魔。と言われていた理由が良く分かりました。ギルドから紹介して貰ったパーティーとの初任務、私はお荷物でしかありませんでした。唯一それしか出来ない付与魔導もスキル使うからいらないと言われ、自分の荷物で手一杯の非力な私には荷物持ちすら出来ず。せめて雑務をと思っても、師匠から教えて貰ったサバイバル技術というのは相当古い物らしく皆さんが持っていたキャンプ道具もまともに使えず……。天然っていうのは良く分かりませんが……。
ギルド側は悪くありません。受付嬢さんはかなり頼み込んで私を入れてくれるパーティーを探してくれたみたいです。それなのにこの体たらく。ただただ私は落ち込んでいました。
「あ、レオさんちょっといいですか?」
「ん? なんか稼ぎのいい任務あるの?」
「いえ、実はあそこで一人項垂れている女性なんですが……報酬少し上乗せしますので……」
「ああ、いいよ」
「シルさーん! ちょっといいですかー!」
「ふえ?」
「こちらレオさん。次の任務にシルさんと一緒に行ってもらう方です」
多分、運命の出逢いというのがあるのであれば、この時の事だと思います。受付嬢さんから紹介されたレオさん。身長も体格も普通くらい。白髪って確か師匠が珍しいって言っていたな、くらいがレオさんに抱いた第一印象です。
受付嬢さんが笑顔で紹介してくれたので慌てて私は返しました。
「あ、あの、シルって言います。白魔導師で……でも、あの付与魔導しか使えなくて……」
「うん、聞いてる。俺はレオ。大丈夫、無能っぷりなら俺のほうが上だ。なんせパリィしか使えないからな!」
「ふえ?」
「あの! レオさんはパリィしか使えないかも知れないけど優秀な冒険者さんなんですよ? きっとレオさんと一緒に任務を受ければ何か為になるはずです」
受付嬢さんが力説する。
「いや俺まじで無能だからね?」
レオさんは自分は無能だと言い切る。これにはこの時の私は困惑していました。
「え、えっと……」
「とにかく、低ランク任務ですがお二人にお任せしますので宜しくお願いしますね!」
「はーい」
「は、はい!」
気の抜けた返事のレオさんとは対照的に気合いがぐるぐる空回りしている私の返事に苦笑いしながら、受付嬢さんは任務表をレオさんに渡してギルド奥へ戻っていきました。
「うーんと、畑を荒らすゴブリンの討伐か」
「ゴブリン、ですか?」
「うん、背の低い人型で緑肌の醜悪な小物モンスター……かな? 一般的に言われているのは。武装してる時があるのと動きが意外と素早いから注意って感じかな。ともかく明日朝に街を発つとして、シルさんは今日の宿は大丈夫?」
「あ、はい。さっき貰えた今日の報酬でなんとか……」
「なら大丈夫か。じゃあ明日朝に街の正門で。多分二、三泊になるからテントやら用意……って大丈夫?」
「は、はい! 大丈夫です。宜しくお願いします!」
私はレオさんと別れた後、なんとか取れた宿にて今日の事を思い出しながらレオさんの事を考えていました。
レオさんは自分をパリィしか使えない無能、だと言いました。でもギルドの人からは信用されているように見えたので、きっとそれ以外の何かがあるのだとも思いました。
◆
スズとマジクが二人でマジクの里帰りへ出掛けているので、暇つぶしに訪れたギルドで紹介を受けた仕事。新入りらしい白魔導師のシルという娘と一緒にゴブリン討伐。
ゴブリン。所謂雑魚モンスターの括り。初心者にちょうど良い任務を見繕った受付嬢さんの意図は任務に慣れさせる事と、冒険者としての適性はあるかというのの確認、かな? 人型モンスターであるゴブリンの討伐は初心者にはグロいからな。
白魔導の使い手は基本的に回復魔導しか使わない。というかパーティーメンバーが使わせない。バフを掛けるくらいなら回復に魔力を取っておけという考えが普通。例えば戦士系なら戦士系のスキルを使えば剣技の威力や速度は上がるから基本的に自己スキルで補えるのよね。なんなら自己強化スキルだってあるし。だから専門であり生命線である回復役に徹してくれが普通の考えなのだ。
ただし、俺個人としてはめちゃくちゃ興味がある。奇跡の『聖女』様と組んだ時もそういや付与魔導なんて掛けてもらって無かったもんな。回復でゴリ押しスタイルだからなあの脳筋『聖女』様。
明朝、街の正門前にそんな事を考えながら向かうと、白魔導師のシルさんが先に着いて待っていた。
「あれ? 荷物少なくない?」
「そうですか?」
背負っている荷が少ない気がする。テント持ってない? 初野外任務ならそういう事もあるか。……まあ最悪、俺のテントを貸して、俺は夜空見ながら野宿すればいいかと個人的に納得する。
「ま、いいか。行こうか」
「はい!」
結果的に言うと、彼女の荷物は足りていた。
布とロープで簡易テントを即興で作るからテントがいらないんだ。適当な間隔の木々があれば良いらしい。テント張ってるのが逆に恥ずかしくなるやん。
感心しながら、なんか飯作るかと背負ってきた鍋を出す前に、ナイフで樹皮を綺麗に切り取り始めてそれを鍋代わりにするんだ。大きく四角に切り取って四隅を紐で括って持ち上げ、浅い鍋状に形を器用に作って。思わず聞いちゃったもん「燃えないのそれ?」って。意外と燃えないんですよねーとか濡らしちゃうと料理くらい平気ですよーとか言ってテキパキ準備してるんだもん逞しいわ。
料理は俺がやるよー簡単なやつだけど、と持ってきていた干し肉と豆類に根菜を適当に突っ込んで料理とも呼べないスープを二人で啜った。
「はー。美味しいです」
「そう?」
「はい、美味しくてびっくりするかと思いました」
「びっくりはしないんだね」
「育ててくれた師匠が、味とかに拘らない人だったんで美味しいものを口にすると嬉しくなりますね」
「師匠ってどんな人?」
「綺麗なオレンジのサラサラとした長い髪を、ばっさりと切ったみたいなショートカットで」
「ショートなのね」
「高身長で凛とした表情が似合うといいなぁってたまに思います」
「思うんだ」
なるほど、よく分からん事が分かった。この娘さては少し変わった娘だな? まあ良いんだけど。
「にしても手際良かったな。天幕張るのも色々準備するのも」
「師匠が冒険者になるには必要な技術だって言ってたんです。けど、テントの張り方なんて分からないし、道具があれば必要無いだろってこの前の人達に言われちゃって……」
恥ずかしそうに俯くシルさんを見ながら考える。
モンスターや魔族が凶悪だった百年程前までとは違い、今や冒険者は社会の底辺から貴族の次男三男坊やら様々な人間がやっている、そこそこメジャーな職業である。
そして社会の底辺でも犯罪に手を染めずになんとかやっていける程度の稼ぎを作り出せるセーフティネット的な側面もある。そんな冒険者達が増えるとそれに伴い当然商売になるので便利な道具も増える。だからシルさんがさっきやったような技術は廃れる。
「荷物減らせていいと思うけどなあ。テントなんて骨組みの組み方覚えちゃえば簡単だと思うけど、シルさんの技術のほうがよっぽど価値があると思うけどね」
「そ、そうかな」
「そうそう」
シルさんの師匠は、シルさんがどこでも生きていけるように随分と教え込んでいるようだ。……スキルが絶望的に向いてない気がするけど、そこは人の事言えないしなんとなんとかしてあげたいけどなあ。
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