第35話 深淵

 姉貴がタイラントスネークを消し飛ばした後、少し進んだところでまたも魔物が現れた。そいつは俺が鑑定を行う前に、名取さんのレーザー光線のような攻撃で頭を貫かれて消滅した。


 光魔法なこともあってありえないほど早い魔法だった。もし俺があんな攻撃を受けようものならたとえ防御が間に合ったとしてもその防御と耐性もろとも貫かれて即死だろうな。


 そんな攻撃が名取さんの手抜き攻撃って時点で格の違いを感じるよな。


「次は俺の番ですか?」


「そうだね。あ、神宮司くんの次にレイセもやってみなよ」


 カメラマンのレイセさんにも戦わせるんだ。レイセさん今メイド服で明らかに戦う服装ではないんだけど。


「かしこまりました」


 あ、戦えるんだ。まぁあれだけのステータスあるもんなぁ。というか今のメンバー、俺と春奈ちゃん以外強すぎないか?


「がんばりますね……と、言いたいところですが。あれ、俺一人でやっていいんですか? 結構楽しめそうなやつですけど」


「順番は順番だし、いいわよ」


 ? どうやら少し強そうな魔物が来たらしい。次の瞬間、押しつぶされそうなほどの重圧が俺たちを襲う。いや、これほど重圧を感じているのは俺と春奈ちゃんだけだな。


「皆さん、これは……」


「あいつです」


 春奈ちゃんの質問に神宮司さんが指をさして答える。その先にいるのは、禍々しい剣を手にした骸骨の姿だった。


 あいつが原因か! 鑑定をかけてみる。


 【カオス・スケルトン・ガードマン】。Sクラス上位の魔物らしい。ステータスは平均30000程度ある。


 あいつを一人でやるっていうのか、神宮司さん。


「ま、一人でやっていいってことなんで。遠慮なくいただきますね。【深淵同化ブレンダー】」


 神宮司さんの右手から世界を塗りつぶしたような黒い波動が溢れ出す。その波動は神宮司さんの背中、そして手元に集い、翼、そして鎌を形成する。


 神宮司さんの敵意を感じ取ったのか、あの骸骨はその禍々しい剣を構えた。


 俺が狙われているわけでもないのに背中がひり付く。ミザリーの時とは違う、純粋な鋭い殺意。なんでこんな化け物がここにいるんだよ。


 次の瞬間、一陣の風が吹き、金属がぶつかり合うような大きな音が響いた。


「へぇ、やるじゃんか。防御系のスキルか」


 俺が知覚できないほどの速さで神宮司さんが攻撃をしかけていたらしい。


「【深淵の槍アビスランス】」


 周囲に黒き槍がいくつも生成され、それらすべてが骸骨に向けて飛ぶ。


 しかし、さすがはSクラス上位というべきか、一瞬にして槍をすべて切り伏せた。春奈ちゃんには悪いが、あの剣の腕は春奈ちゃん以上だ。


「信じられません……。なんて洗練された剣術……。私にも、まだ先があるみたいですね」


「神宮司さんの魔法を見て、私ももっと魔法が極められるなと思いましたよ。……世界が、違いますね」


 言葉通り、俺たちと神宮司さん、それにあいつはステージが違う。


 逆立ちしたって勝てやしない。


 魔法を切り伏せたのち、骸骨は剣を神宮司さんに向けて投擲した。武器を投げるなんて自殺行為だと思ったが、神宮司さんがその剣を躱し骸骨に接近しようとした次の瞬間、神宮司さんの背後に骸骨が現れ、回避された剣をつかみ神宮司さんの背後から攻撃を仕掛けようとする。


 瞬間移動か……? 背後からの攻撃でさすがに神宮司さんも危ないかと思ったが、次の瞬間に神宮司さんの姿が闇に染み込むように消えていった。


 空を切った骸骨は突如神宮司さんが消えたことに困惑している様子だったが、次の瞬間には上を見据え、頭上に顕現し鎌を振り下ろしてきた神宮司さんの攻撃を防いだ。


「やるなお前。生半可な技じゃやれねぇか」


 骸骨の持つ剣の禍々しい波動が勢いを増す。どうやら最終局面のようだ。


「はは! いいぜ、最高火力で迎え撃ってやる」


 周囲の闇が蠢き、彼の鎌に集約される。押しつぶされそうなほどの魔力だ。


 骸骨の剣にも魔力が凝縮されているようで、両者の間には魔力のぶつかり合いで歪んだ空間が見える。


 骸骨はゆっくりと剣を動かし、上段の構えをとった。対する神宮司さんは鎌を一回転させ、刃先を骸骨に向ける。


「行くぞ!」


 両者の動きは同時、骸骨の剣が振り下ろされ、神宮司さんの鎌は振りぬかれた。


 刹那、闇の斬撃が両者の間でぶつかりあう。超高密度の魔力のぶつかり合い。余波だけで基本壊せないといわれているダンジョンの壁にヒビが入る。


 レイセさんが結界を張ってくれなかったら俺と春奈ちゃんは危なかったんじゃないかな。レイセさんなんでもできるな。マジでありがとうございます。


 そして、勝者は決まった。


 骸骨が放った斬撃は神宮司さんが放った斬撃によって切り裂かれ、射線上にいた骸骨のそのまま、真っ二つとなり、消滅した。


「OK、俺の勝ちだな」


 神宮司さんはSクラス上位の魔物を、見事一人で討伐した。

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