第30話 名取という男

 ついに名取さんの配信が始まった。最初、画面に映っていたのは誰もいないスタジオのような場所。電気はうっすら見える程度にしかついておらず、全体的に少し暗い。コメント欄も困惑の色に包まれている。


:どこだここ

:新事務所の新人配信だっていうから来たけど誰もいねぇじゃん

:?


『ここはセントラルライトのスタジオさ。すぐ見なれるよ』


 どこからか声が響く。同時にスタジオに明かりが灯る。そして、スタジオの中央に輝きが集まる。


:この声はまさか……

:知ってる声だ

:マジで?


『やぁみんな。Sクラス探索者の名取 連です。よろしく』


 輝きの中から歩み出てきたのは誰もが知ってる、日本の二番手。探索者の中でも際立つ端麗な容姿。もはやアイドル顔負けである。


:名取かよ!!

:そういえば言ってたな配信するって!

:新事務所だけど最強事務所で草


『今日からセントラルライトっていう事務所に所属して配信をしていくことになった。同期には他に2人の女の子がいるから、彼女たちの配信もチェックしてくれよ~』


 俺たちの宣伝もしっかりしているらしい。


:AクラスとBクラスね

:しっかり強くてすげぇ


『ちなみに2期の募集もセントラルライトの公式ホームページからしてるからな。募集要項をしっかり読んで、所属したいやつは応募してくれよ。新たな後輩に期待だね』


 ホームページに募集要項があるらしい。ホームページがあることすら初耳の俺は一体……。


 試しに確認してみると、Bクラス以上の実力が必要らしい。結構足切りライン高いな。


『さて、それじゃあ初めての配信だからね。しっかりとした自己紹介でもしよう』


 自己紹介、ね。俺そういえば初めての配信の時いきなり戦い始めなかったっけ。そいうところしっかりしてんだなぁ。後やっぱり俺と姉貴には血のつながりがあるんだなってのを感じる。姉貴も結構適当なとこあるからな。


『名前は名取 連。連続の連って書いてつらねって読むんだ。不思議だよね。えーと、今は20歳で、18の頃からSクラスやってるかな。んーと他には……なにかあったかな。ごめん、自己紹介とかする機会ないからわかんないや』


 姉貴がいるから合コンとかも行かないだろうしなぁ。そりゃ慣れないよな。そもそも自分を知っている人のほうが世の中には多いわけだし。


:趣味とかありますか?

:血液型と星座気になるな

:恋人の有無とか!


『おうおう、そんな急に言われてもなぁ……まず趣味ね。……強いていうなら釣りかな? 最近は行ってないけど。血液型はB型だね。星座はいて座で12月14日うまれだね。後2週間で誕生日だよ』


 恋人の有無にはちゃんと触れなかった。炎上するもんな。


:まぁ趣味以外は知ってた

:釣り趣味なんだ

:あと特技とか……


『特技ね! なんか自己紹介っぽくていいな。まぁひねりないけど特技は魔法だね。光魔法をよく使うね。うちのみいなちゃんと違って光魔法しか使えないけど』


 逆に俺は光魔法はうまく使えないんだけどね。


:知ってた

:そりゃそうだ

:みいなちゃんは例外すぎる。他属性使えるのホントに数人だから


『まぁね。あの紅さんだって一属性しか使えないんだから他属性は例外ってのはわかってるけどそれでもねぇ……。僕だって炎の魔法とか使いたい』


 炎の魔法はいいぞ。火力も高いし構築もそこまで難しくない。


:わかる

:なんか名取さんが一般的な感性してて少し安心した

:名取さんも人間なんだな


『人間だよ。紅さんよりはね。まぁこの話はこれくらいにしよう。次は明日うちの箱でやる麻雀の話かな。同期全員と代表で麻雀やるわけだけど、僕麻雀あんまりしらないんだよね』


 ……?


九重 春奈:初耳ですが!?

:箱で麻雀配信するんか

:代表ってもしかして長麦さん見れる?


『あれ、春奈ちゃんは初耳らしいけど……。心寧ー! 春奈ちゃんに麻雀やるって言ったの?』


『あっっ!? 忘れてた!!』


 すると、カメラの中に慌てて姉貴が入って来た。何やってんだよ。姉がこんなで恥ずかしいわ。


:長麦さんだ!!

:相変わらずお美しい

:貴重な2位と13位とのツーショ


『そういうわけで、明日このスタジオでみんなで麻雀やるからね! 春奈ちゃん、みいな。よろしく頼むわよー』


 マジかよ急だな!? まぁ麻雀は少し心得あるから問題ないな。


九重 春奈:私麻雀わかりませんが!?

:破天荒すぎだろww

:おもしろこの箱w 今後も見るわw


『麻雀って半分ルール知らなくても成り立つの?』


『なんとかなるんじゃないかしら』


『最悪うちのメイドを召喚しよう』


 名取さんメイドとかいるんだ。


:メイド……?

:上流階級名取さん

:現代日本であまり聞かない単語出てきた。


 あ、なんか姉貴の表情が険しくなってる。これは多分メイドについて知らなかったパターンだな。


『まぁそういうわけで明日も配信あるから見に来てな~』


『私も出るからよろしくね』


:絶対見る

九重 春奈:何がなんだかわかりませんが……皆さん見に来てくださいね

ミイナ:見に来てね


『『それじゃあセントラルライトに栄光あれ』』


 最後の決め台詞みたいなものの後に配信は終了となった。




 


 


 

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