閑話『動きだす者たち』
とある組織の6人の最高幹部。その中の1人の呼びかけによって最高幹部会議が行われることとなった。
えらく広い会議室の中心に、真っ白な少女が立つ。<銀の結晶>最高幹部<天狼星>。その赤い瞳は、5人の最高幹部をまっすぐに見つめている。
「今日集まってもらったのはほかでもない……。私には時間がない……。最後の授業だよ……」
「……マジかよ。卒業試験かぁ~」
最高幹部の中で最も強い<天狼星>は、他の幹部の師であった。
「うん。……どんな方法でもいい。5人で、私を倒して」
「はい? 本気ですか?」
<天狼星>以外の5人の幹部は顔を見合わせる。勝てるわけがない。その意思を共有するために。
「……こないなら、私から行くよ」
その瞬間、少女の背に3対の純白の翼が現れる。5人は彼女が本気であることを理解し、すぐさま全員防御態勢にはいった。
1人は圧倒的なまでの質量の植物を召喚し、少女の攻撃を軽減するための壁をはる。
1人は足もとの影を伸ばし、植物の壁を補強する。
1人は足元に魔法陣を展開し、仲間たちの魔法を強化する。
1人は攻撃を防ぎきった時に備え、魔法の詠唱を始めている。
そして1人は……壁の後ろでぶるぶると震えていた。
少女の光の攻撃によって、組織のアジト周辺半径5kmは焼け焦げ、焦土となる。
5人を除いて。
そして、一国が滅びるほど周囲に影響のある戦いが、始まった。
◇◇◇
「物騒な世の中になってきたね、お兄ちゃん」
「全くだ」
とある兄妹が朝食をたべながら一国が消滅したというニュースを見て呟いた。
「今日も仕事で帰りが遅くなると思う。きらら、先に寝ててもいいからな」
兄は妹にそう告げた。彼はSクラスの探索者で、容姿も端麗であるため、仕事が多くある。
「わかった。ご飯は作り起きしておくね」
「いつもありがとな。じゃあ、そろそろ行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
少女は兄を見送ったのち、自分の中にとある力が戻っていることに気が付いた。昔、自らの葛藤のために切り離した、厄災すら見劣りするほどの破壊の力。
愛しい家族と、世界の破壊。その天秤は傾いた。
「そう、戻ったんだ。今、覚悟が決まったのかな」
誰にも告げていない、彼女の秘密。それは。
「天使の力。天使としての責務と、人間としての感情の板挟みになってたけど」
少女の背に純白の翼が顕現する。その3対の翼は大天使の印。
「私は決めた。同胞たちに、弓を引く」
母をこの世から奪い、自らを呪った力をもってして、少女は反逆の牙を剥く。
「大好きなこの世界と、お兄ちゃんの為に」
その瞳に迷いはなかった。
◇◇◇
「天使が、世界を滅ぼす?」
「そうみたいだよ。
とある依頼によってアメリカに出向いた二人の探偵は天使について知ることとなった。
「参ったな。俺は天使は人間の味方だと思ってたぜ」
「私もそういうイメージだったけど、どうやら違うみたいだね。どちらかというと、悪魔の方が今は人間の味方かも」
そういって探偵の女性は情報が記された書物を読み進めていく。
彼女の持つスキルによって具現化された、世界の記憶の書物を。
「かもじゃなくて、悪魔は味方ってスタンスみたい」
「ほーん。そりゃなかなか愉快な状況だな。で、そのソースは?」
ベットにだらしなく腰を掛けている男性がそう尋ねる。
「世界一位の紅って男がいるでしょ? 彼、悪魔憑きらしいよ」
「なるほど、あの守護者が悪魔憑きか。そりゃ納得できるな」
男が納得したその時、彼らのホテルの部屋の中に一陣の風が吹いた。
「悪魔憑きっていうその言葉。どこで聞いたのかな?」
探偵たちの部屋に、背の高い金髪の男性が姿を現した。
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