第2話 外交倫理学 L'éthique diplomatique.

 外交倫理学という学問がある。最近になってフランス人女性、エロディ・エレガンElodie Elégant が提唱したものだ。文字通り、外交を倫理学の観点から考察するものだが、そのあまりの理想主義ぶりに、一部の進歩的な人たちを除けば、現実的に外交を語る大半の学者や外交官にとっては、嘲笑の的でしかなかった。

 ただ、古来から、国と国との外交というものが、道徳や倫理とはかけ離れたものになっていることは、当たり前のように誰もが知っており、誰もが指摘できることだ。もし、国民一人ひとりの倫理観が高かったとしても、それは国際政治や外交の舞台には反映されない。倫理性というものを数理的に測る尺度があれば、国民個人の倫理観が高くても、総体としての政治や外交では、その数値はその国民の最低の倫理性に一致してしまうはずである。もし何らかの数理的な関数のモデルがあるとするなら、それは極小値で均衡してしまうはずなのだ。民主主義的な意思決定のプロセスに問題があるのか、国家というものの概念自体に問題があるのかは分からない。ただ、エレガンが、国民個人とその総体としての国家の倫理性の乖離に対して、何か有効な分析を試みていたことは確かなのだ。

 国家という概念の変化という意味においては、現在のEUのフランスとドイツの関係を挙げらるだろう。元々敵対的な関係にあった両国は、ご存知の通り第二次世界大戦の反省から、融和し、現在ではまるで二国間の国境が無かったかのように、通貨が統一され、人的な交流もなされている。ただその理想的な関係は、二国間に留まっており、最近ではイギリスのEU離脱や、両国が加盟する軍事同盟であるNATOの拡大が、ロシアなどの反発を招き、問題となっている。

 エレガンは、そうした状況のなかで、外交や国際政治における国家の倫理性があまりに低いことを疑問視したのである。

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