最愛の婚約者に捨てられた貧乏令息はいかにして新たな恋を勝ち得たのか?

こまの ととと

第1話 破局させられて

「ギフィレット、貴方との婚約も今日限りとさせてもらうわ!」


 俺の婚約者、エレテレテは堂々と宣言した。


 一体何を言っているんだ?


 俺たちの関係はずっと前から始まっている、俺も彼女の愛に尽くしてきた自信がある。


 それなのに……それなのになんで一体そんなひどいことを言うんだ!!?


 焦燥に駆られる俺に対して鼻で笑うエレテレテ。


 彼女の美しい顔立ちが、今日ばかりが歪んで見える。そんなはずはない、彼女は心身ともに絶世の美女である。長い事見てきた俺には分かる。


 なのに……。



 彼女に誘いを受けた夜会。


 貧乏貴族の生まれである俺にとっては、正しく誉れ高いお呼び出しだ。


 多少、無理をして着飾る必要もあるが、それも彼女の為と思えばなんてことは無い……はずだったのに。


 認めたくない、全く認めたくは無い!


 しかし立場を考えれば、格下貴族である俺にその申し出を断る権利が無い。


 俺はたった今、侯爵令嬢の婚約者では無くなってしまった!


 うつむく俺の耳に、周りの貴族子女達の嘲笑する声が聞こえてくる。



 ――そうだろうね、全く相応しく無かったんだよ。


 ――気の迷いが治ったんだろう。むしろ遅いぐらいさ。



 俺の耳に届くことも構わず、好き勝手笑いの種にして会話の花を咲かせる。


 言い返すことはできない、何故ならこの場で最も身分の低い貴族が俺の家系だからだ。



 誰かの足音が聞こえてくる。こっちに近づいてくる足音が。



「このお方、この国の第三王子たるワールテス様こそが私の真に出会うべきだった愛しい殿方……!」


 まさか、よりにもよって王子なのか!?


 彼女の隣へと立つ、王子の姿。


 身形は当然だが、その醸し出す気品。端正な顔立ちには一遍の陰りも無く堂々としていた。



 口を開かずとも、己こそが彼女の隣に立つべき男である。


 自分たちこそが、完成された芸術である。



 まるでそう言わんばかりだ。


 ふざけるな!!


 そう言いたかった……。


 俺の恰好、貴族としての最低限の品位を保つだけの礼服。


 生まれ持ってのカッコよさを持たない顔立ち。


 そして家格。


 何一つ太刀打ちできるものがない。何一つも……!


 王子が口を開いた


「君にはすまないが、相応しき者同士が収まったと思って耐えて貰いたい。そして出来れば祝福してくれるとありがたいな」



 ――なんと立派な心遣いだ、さすがは王子。


 ――あんな見すぼらしい貴族もどきにも慈悲の声を掛けるとは、素晴らしい。



 見つめ合う俺の元婚約者と王子様。


 熱い視線をぶつけ合う二人と俺との間には物理的な距離以上に、どうしても埋める事の出来ない隔絶した崖があるような気さえした。



「見ての通りよ! この私達の愛を貴方も元婚約者として祝福しなさい。そうすれば、今まで通りに私の微笑みだってあげるわよ。……ごく偶にね」



 ――おお! 流石は王子の婚約者となられるだけはある。


 ――あの優しい心持ち。この国の安泰を体現したかのようだ。




「っ……ええ、もちろんですとも! とても素晴らしい。仲睦まじいお二人の姿をこの目で見られるとは、何たる幸福でしょうか!」


 俺はそう言って無理矢理の愛想笑いを浮かべた。

 しかし内心は……俺の人生の悲嘆に暮れざるをえなかった。


 婚約者には捨てられる、王子様とやらとは釣り合わないと断言され。周りは俺の存在自体が間違いと言わんばかりだ。


 一体俺が何をしたというんだ?


 少なくとも昨日までは……昨日までは二人の未来が見えていたのにっ。






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