23.どっちが嘘?
「あ、あの、私もご一緒させて頂いてもよろしいですか・・・?」
椿はテーブルに近づくとオドオドとガールズに尋ねた。
「何をおっしゃっていますの? オフィーリア様ったら。もちろんですわ!」
「そうですわよ! 久々にご一緒出来て嬉しいですわ!」
「待っていましたのよ、わたくし達。でも、セオドア様、オフィーリア様との時間を取ってしまってごめんあそばせ」
椿の登場に嬉しそうに顔をほころばせるガールズに椿はホッとしてトレーをテーブルに置いた。
「あの・・・、皆さん、今日は助けていただいて本当にありがとうございました! お、お礼が遅くなってしまってごめんなさい!」
椿は椅子に座る前に三人に頭を下げた。
「何を! そんなことオフィーリア様が気にすることではありませんわよ」
「そうですわ。わたくし達だっていつもオフィーリア様に助けられているではないですか。お互い様です」
「で、でも、本当は皆さん、ちゃんと宿題をしてましたよね? それなのに廊下に立つなんて、そんな不名誉なことさせてしまって・・・」
「ふふ、それこそ貴重な体験でしたわ。さあ、早くお座りになって。食事が冷めてしまいましてよ?」
一人の令嬢に促され、椿は席に着いた。
「それにしても、酷いですわ、オリビア様は。オフィーリア様にプリントを渡さないなんて!」
「本当よ! なんて卑劣なのかしら?」
「わたくし達が気付ければよかったのだけれど・・・。ごめんなさい、オフィーリア様」
「え、え・・・、そんな、謝らないでください!」
椿はアワアワと両手を振った。
「へえ、あんた達もオリビアがわざと渡さなかったって思ってんだ?」
そこに柳が話に割って入ってきた。何故かその声は若干低い。どこか怒りを含んでいるようで椿はビクッと体が震えた。
「え、ええ・・・。セオドア様はいつもオリビア様を庇われますけど・・・。わたくし達はそう思いますわ・・・」
柳の声に怖気づいたのはオフィーリアガールズも同じだったようだ。彼女たちはよくセオドアから注意を受けているから尚更か。ご機嫌だった声が急に小さくなった。
「俺がオリビアを庇っていたのはちゃんと根拠があってのことじゃねーの? あんた達がオリビアを虐めていたっていう歴とした根拠がさ」
「虐めていたなんて!」
「わたくし達はそんなことしていませんわ!」
「酷いですわよ、セオドア様!」
一気にその場の空気が悪くなった。周りの生徒も何事かとチラホラ見ている。
(や、柳君・・・! ちょっと、何言って・・・)
ガールズの怒りと周囲の目に椿はオロオロしながら制するように柳の袖をチョイチョイと引っ張った。
「でもよ、聞こえるように大きな声でオリビアの素行を非難していたのは事実だろ? それは虐めにならねーの?」
「そ、それは・・・」
三人の令嬢は言葉に詰まり、口ごもった。
「それ以外にも教科書に落書きとか破るとかするなんてさ、これは完全な虐めだろ?」
(直球~~! 柳君!)
ひいい~と息を呑む椿の傍で、
「は?」
「はい?」
「え?」
令嬢三人は三様の素っ頓狂な声を上げた。
「そんなことするわけありませんわ! 何をおっしゃってるの? セオドア様」
「いくらセオドア様だからって言っていい事と悪いことがございますわ」
「わたくし達がそんな稚拙な行為するわけがないではありませんか!」
「おおお、落ち着いて下さい・・・! やや、やな・・・セオドア様! なぜ今それを・・・?」
椿は一気に柳に攻寄るガールズを何とか静止しようと立ち上がると、小声で柳に詰め寄った。
「んー? だって気になったからさ。本当かどうか」
「本当かどうか・・・?」
「だって俺はオリビアから直接聞いたんだぜ? オフィーリア達にやられたって。それなのにこの三人はやっていないって言ってる」
柳はチラッと三人を見た。
「どっちが嘘付いてるんだろうな? オリビア? こいつら? どっちだと思う? オフィーリア」
頬杖を付いてニッと意地悪そうに口角を上げている柳の顔が怖い。
令嬢たちも青ざめたまま無言だ。
(彼女たちが嘘付いてる・・・? でもそんな・・、とてもそんな感じの人たちじゃない)
令嬢として自分の品格を下げてまで友人を守ってくれる人達だ。そんな人が卑劣な虐めなんてするだろうか?
しかし、小説の中では確かに教科書を破られているシーンもあるし、制服に泥水を掛けるシーンもある。それはオフィーリアと取巻きの犯行とされているのだ。
(っていうことは、今までの虐めはオフィーリア様の単独犯ってこと?)
椿は自分の指先が冷えていくのが分かった。
(え? え? 今、私はどういう状況? 急遽、ここで断罪されてるの?)
「え、えっと・・・わ、わた・・し・・・」
体が小刻みに震え呼吸がどんどん浅くなる。さっきまで一番の味方だと思っていた柳からまさかの攻撃か? なぜここで?
「まあ、俺的には今日のプリントの件ではっきりした気がするけど」
「へ?」
椿の震えがピタリと止まり、瞬きして柳を見た。
ガールズも呆けた顔して柳を見ている。
「だってそうだろ? オフィーリアがオリビアからプリントを受け取っていないのは事実なのに、オリビアは『渡した』って断言したんだからな」
そう言う柳の笑顔はまだ怖いままだ。しかし、その怒りはこの場にいる人に対してではないようだ。
椿はふぅ~と長く息を吐いた。
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