第2話[ヲタク、ステータスを見る]

突如異世界に召喚された俺たち2年C組のみんなは、召喚の間(仮)から、謁見の間(仮)に移動していた。

おそらくこの城の王、そうでなくても相当に位の高い人が口を開く。


王様「勇者諸君、まず初めに、我々のわがままでこの地に召喚してしまったことを謝罪しよう、誠に申し訳ない」


王様は深々と頭を下げてくる。

これは意外だな。

俺の読んでいた小説ではこういう王様はたいてい傲慢で、召喚誘拐したことを悪びれもせず、勇者たちをまるで手足のように扱うのに・・・。

まぁ、小説の世界がおかしいだけか。


王様「しかし、我々にはもはや一刻の猶予も残されていないのだ!どうか、我らに力を貸してもらいたい」


そういって王様は再び頭を下げる。

そして王が頭を下げるという事は、この国全体が頭を下げているという事だ。

正直、皆には断る理由がないだろう。

だが俺にはある!

今日の夜は推しているアイドルVTuber、“星見ココロ”ちゃんの配信があるのだ!

かなうならば今すぐにでも帰りたい!

そんな俺の疑問に合わせるように、クラスの中心人物である中村くんが質問してくれた。

流石はコミュ力強者だ。


一輝「すみません、一つ質問を良いでしょうか?」

王様「ここに呼んだのは我々のエゴだ、せめてもの償いに質問には嘘偽りなく答えよう、なんでも聞いてくれ」

一輝「元の世界には、どうやって帰るのですか?」

王様「・・・この世界に汝らを呼ぶ際に、私達は神ととある契約をした、その契約が果たされれば、汝らは元の世界に戻ること“も”可能だ」

一輝「も・・・?どういう意味でしょうか?」


王様はその質問に、親身になって答えてくれた。

なんでもこの、他世界から勇者を召喚するには、神との契約を結ぶ必要があるようだ。

王様が神と結んだ契約は「魔王を撃ち滅ぼすこと」

代償は民一万の魂だ。

その契約を受け入れた神は、俺たちの仲にいる勇者と、その一行・・・2年C組の生徒をこちらの世界に呼び寄せたとか。

しかしそれでは、俺たちはただの兵士として戦って元の世界に戻されるだけだ。

そう考えていたのだが・・・。

なんと、王様と神の間で結ばれた契約が果たされたとき、俺たちはなんでも一つだけ、願いをかなえることができるらしい。

その権利を使用して元の世界に帰るもよし、この世界にとどまり、新たな国を興すもよし。

使い方は自由らしい。

そして前述の通り、王様と神の間で結ばれた契約は「魔王を撃ち滅ぼすこと」ただ一つ。

俺の目的を果たすには、今日の19時までに魔王を撃ち滅ぼさなければならないのだ。

・・・無理ゲーじゃん。


王様「それでは召喚された勇者一行よ、まずは“ステータス”と言って、己の力を確認してくれ、汝らは異世界から召喚される際に神から何らかの職業、そしていくつかのスキルをもらっているはずじゃ」

睦樹「なら、俺から・・・ステータス!」


先陣を切ったのは斎藤くんだ。

斎藤くんが言われたとおりにステータスとつぶやくと、何やら目の前に薄い半透明の板のようなものが表れる。

・・・何という王道展開。


睦樹「俺は・・・職業「槍術師」?後はスキルで「槍術Lv1」と「炎魔法Lv1」?ってのがあるな」

王様「おぉ、レベル1ですでに二つのスキルを習得しているとは、流石、神に選ばれたものじゃのう・・・」


斎藤くんを皮切りに、皆が思い思いにステータスとつぶやき、己の職業を明かしていく。

今のところ注目が集まっているのは・・・。

勇者、中村一輝。聖女、加藤凛子。剣聖、近郷こんごう亮太りょうた。賢者、山田やまだ翔太しょうた

この四人だ。

まぁ、名前からして上級職だもんな・・・。

さて、順番的に次は俺か・・・。


緒拓「ステータス」


ひっそりと呟くと、他のみんなと同じように薄い半透明の板のようなものが出現する。

その板に書かれていたものは・・・。

—————————

真自野 緒拓

Lv1

職業「ヲタク」

HP 20/20  MP 13/13

攻撃力10  耐久力7

機動力12  抗魔力7

WP 99999/100

スキル

「魔術保管」「品定め」「限界化」「Wショップ」

—————————

・・・何これ?

待て待て待て待て、順番に整理しよう。

まず初めに、これは他者との比較だが、攻撃力は平均で30はあった。

俺はその三分の一だ。

正直、あまり高いとは言えない。

機動力も同じだな。

しかし最初から運動神経がいいわけではなかったし、期待もしていなかったので別にいい。

だが最後の項目、WPってなんだ?

ゲーム風に言うならHPはヒットポイント、MPはマジックパワーだ。

しかし・・・WPとは?

しかもあからさまに表示がおかしくなってるし・・・。

上限が100に対して保有ポイントが99999て、カンストしてるじゃん。


王様「・・・どうかしたのか?早く私に汝の職業を教えてはくれないか、あぁ、もちろん無理にとは言わないが・・・」


王様の言葉に、クラスの人たちの視線が俺に集中する。


緒拓「あぁ、いえ、大丈夫です、それで職業なんですが・・・」

王様「どんな職業だったんじゃ?」

緒拓「職業・・・ヲタクです・・・」


一瞬だけ、空間が静寂に満たされた。

一番最初に口を開いたのは斎藤くんだった。


睦樹「ブハッwww職業ヲタクってw、確かにキモ豚のお前にお似合いだなwww」


斎藤くんにつられて数人が笑いをこらえている。

しかし俺は、内心喜んでいた。

俺の押しに対する愛は、世界が・・・神が認めるレベルなのだと。


王様「おたく・・・?そのような職業は聞いたことがないのう・・・」


俺の職業を聞いた王様は首を傾げ、家臣らしき人に確認するように求めていた。


王様「今日は皆疲れたであろう、夕食の用意をさせてある、今宵はささやかながら、歓迎のうたげとしよう」


王様がそう宣言すると、俺たちは会食の会場に連れていかれた。

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