そのエントランスは日替わりなのですが、今日は船を中になる和風カフェになるそうです
「んー、カリカリベーコンにスクランブルエッグ付きのふわふわスフレパンケーキ、最高だった……。さすが常宿御社、お世話レベルが高い」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
神御祖神もちゃんとトマトとレタスも食べましたものね。偉いですよ。
「いや、別に野菜嫌いじゃないし。子供じゃないし」
コーンポタージュを飲んでる時ににまにましてた顔が丸っきり子供でしたよ。
「おいしーんだからいいの!」
小娘がきゃんきゃん吠えています。ちっとも怖くありませんね。
「もう! いいわ。行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃいまし」
常宿御社達に見送られて、神御祖神がとんと足で床を叩くと瞬きの間にエントランスへと転移します。
エントランスを日替わりにするという妄言は本気だったようで、
「お越しになれたか」
その船には既に神霊が待っておりました。神御祖神は此方の和風喫茶を運営する担当を既に準備していたようです。
というか、この煌びやかな紋が入った和服を着こなした女神ですが、一つの神話の主神ですよね。この神霊、昨日ダンジョンを造るよりも以前に生み出しているのですよね、何しでかしてくれてるのですか、この小娘神。
「
「うむ、挨拶は大変に大事ではあるが、散々な言われ様なのは良いのか」
「慣れた」
慣れたの一言で済ませるのではありません。きちんと説明をしなさい。
「なによ、ちゃんと言ったでしょ。日本海没するレベルの津波を砕いて貰った。以上」
ええ、確かにそんな事を言っておりましたね。津波なんてどうやって防いだのかと思ったら彼女なら……いや、彼女は神生みの母神であって神威は津波を押し返せるだけの出力も出せましょうが、津波を直接押し返すような権能を持っていませんよね。
「いや別に統木大神だけで津波を排除したとは言ってないじゃない」
「うむ。
主神を生み出すだけでも相当な話なのに、一つの神話で中核になっている他の六柱の神も一緒に生み出しただなんてどれだけ非常識なのですか。
航津海統木大神はとある世界で新しい国を建設する為に未開の海へと漕ぎ出した船で祀られた神であり、その七つ神は統木大神を始めとしてその船国家の営みを支えた七柱の強大な神霊であるのです。
その神霊が揃えば津波くらいは砕くでしょうね。
それよりも問題なのは、呼び出した中には
「え。海を放浪して貰ってた。たまに超常現象特番で未確認物体として取り上げられてたね」
一般人にバレかけているではありませんか、どんだけ隠蔽がガバガバなんですか、いつもいつも考えなしで後始末ほっぽり出しているんじゃありませんよ、この小娘!
「どうどう。落ち着いて。血管切れちゃうよ」
こちとら、どっかの誰かが化身をくださらないせいで、切れる血管も持ち合わせてないのですよ! 鏡が神体なの忘れたとは言わせませんからね!
「吾も神らしくないと随分と下々に叱られたものだが、あれよりはマシだろうな」
「花さん、比較する相手が色んな意味でよろしくないですよ」
お道化る統木大神をエントランスの奥から柔らかな顔立ちをした美男子がやんわりと窘めます。
彼こそは
ところで、さっきから気になっていたのですけれど、元から現人神である征嗣国主は兎も角、土地を治める統木を神体とする統木大神もその体どう見ても人間のものですよね。
「然り。吾ども
本霊が人としての状態を保って転身していた灯理と違って、此方は分霊を人間として転生させていて神格としてはまた別に存在しているという訳ですね。
そんな面倒臭い事をする必要が何処にあるのでしょうか。
「そうは言うが、吾どもの国には民がある故に、人を招き迎える役目を果たすにも吾が子への恵みを途絶えさせるにもいかんのでな」
成程、其方は海の上で彷徨する船で民衆を養っているのですものね。神による支えなくては直ぐに干からびてしまうのも道理というものです。
ええ、ええ、ちょっとそこの小娘様。貴女、神霊を生むのだけでは飽き足らずにその加護を受けた異世界人達までこの世界に呼び寄せているとか何考えているのですか、世界の秩序とか平穏とかちっとは考えたらどうなのですか!
「みゃ!? 違うよ! ちゃんとダンジョンが出来たから航津海の神が寂しかろうと氏子を縁で呼び寄せただけで昨日まではいなかったから! ダンジョンならモンスターとか配置出来るんだから人間とか全然問題ないから!」
自我の希薄なモンスターと人間を同じ扱いするのではありません! バカですか! いいえ、間違えました、バカでしたね!
「てかさー、もう開店時間なのに母娘ゲンカで時間食うとか勘弁してくれません? こっちはきっちり準備してるんですけどー」
エントランスの奥で竈に頬杖付いていた女性が気怠そうに文句を言って来ます。その主張は至極尤もではありますが、此方も馬鹿な事をやらかした小娘への躾は大事ですのでもう少し辛抱して頂いて宜しいでしょうか。
「うわー……その反論は許さないって物言い、十分に高位神の偉ぶりだわぁ」
む。失礼ですね。諸悪の根源はそこの小娘ですよ。
こら、自分に話が向いてないからってこっそりと隠れようとしているのではありません、この小娘。このダンジョンの中だったら何処に隠れたって意味がないって言っているでしょうが。
「ちがうもん! 隠れようとしたんじゃなくて、ダンジョンを開けようとしただけだもん!」
そうやってあわよくば来客が訪問して耳の痛い小言が中断されるとでも思ったのですか。
残念でしたね、外にはまだ誰もやって来てはいませんよ。このダンジョンは開店待ちされるような人気はまだないのですからね。
「ぴぃっ! こんなにセンス良くて落ち着けるカフェにしてるのになんでよ!」
「いや飲食店流行らせるのとかそんなに簡単じゃないからね」
全くです。
流石、航津海神話で厨房を一手に担った神霊である
「どうでもいいけど、今は人間なんだから神名じゃなくて人の名前で呼びなさいよ。そんな可愛くない名前じゃ、彼氏が出来ないじゃない」
貴女、確か神話に残される文献では一度も結婚どころか恋の話すら出て来ないですよね。所謂、喪女だったかと。
「喪女言うなー! なんなのよ、うちの主神は確定で旦那いるのに、全国民の食を支えて空腹を退けたあたしはなんで一回もいい話がないのよー! 不公平よー!」
やばいです、なんか地雷を踏み抜いたっぽいですね。神霊なのに色恋で此処まで騒ぐだなんて、どれだけ寂しい生涯を過ごしたのでしょうか。想像するだけでも恐ろしいです。
「やーい、やーい、
混ぜっ返すのではありません、煩いですよ、小娘。鬼の首を獲ったかのように騒ぐんじゃありません。
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