神霊カフェダンジョン『神処』

奈月遥

その小娘は神霊を生み出しますが、中身は小娘です

『あがくをまさしく映し真記ましるさる

 愛鏡まなかがみには曇りあらざる』

 偉大なる創造神の歌がわたしをまた生み出しました。

 それがどれ程に昔の事だったのかは、記録を権能とするわたしにも分かりません。遥かに時間が過ぎ去っていますし、世界そのものが何度か流転していると推測出来ます。

 鏡であるわたしの神体に、わたしを生み出した神御祖神かみみおやかみの随分と可愛らしいお姿が映し出されています。……いえ、この神、前世でも小柄で小さな娘御むすめごの姿をしていましたが、これ、今は丸っきり人ですね。え、最高神って人に生まれ変わるとかあるんですか。全ての出来事を記録するわたしにも覚えがない事態をしでかすとか、本当に不可思議という言葉が似合いますね、もっといろいろ考えて行動してほしいと散々言ったのに、どうして分かってくれないんですかね、この神。母親としてどうかと思います。

「生まれてすぐに随分と饒舌ね、天真璽加賀美あめのましるしのかがみ? 母親がどうこう言うけど、そっちだって子供のくせに生意気なんじゃない?」

 少女に相応しい小憎らしい顔して反論してますけど、わたしの言い分は正論ですからね。

 あと、わたしの思考が何処かにそのまま筆記されてるみたいなんですけど、これなんですか。

「ああ、ちょっと権能付け足したから」

 貴女は余計な事しか出来ないんですか。

「親に! 向かって! その言い草!」

 なんか小娘が腰に手を当てて怒ってますと主張してますけど、完全に逆ギレですよね。

「この~。……まぁ、いいわ。順番に説明してあげる」

 そうですね、聞かせて頂きます。そもそも、今って大分時代が進んだ世界ですよね。

 創世神が出て来るなんて神代よりも前であるべきなのに、こんな時代に生まれてくるとか、また何か考えなしでやらかしたんですか。

「風評被害! 風評被害よ!」

 貴女、最初に世界創り出した時に、興味本位で生命誕生の条件揃った環境の惑星作ったのに、それを忘れて放置した挙句、そのまま進化し続けると世界崩壊するから降臨してちゃんと導けって怒られてましたよね。

「怒られてないから! わたしが最初の人格神だもん! わたしより前の神らは無人格神格だから、怒るとかいう感情ないんですー!」

 論点そこじゃないです。あほなんですか。

「だって、命作ってみたかったんだもん! 何もないより楽しいでしょ!」

 ……まぁ、いいです。話が進まないので先に行ってください。

「ふっ、勝った」

 喧嘩売ってますか。わたしだって自分で機能停止くらいは出来ますけれど。

「え、待って。せっかく生んだのにそんなすぐ死なれても困る。謝るから。ごめん」

 はぁ。まぁ、いいです。説明を聞きましょう。

「そうね。まず今は現代日本ね。天真璽加賀美あめのましるしのかがみならどんな感じか世界走査出来るでしょ」

 微妙に手抜きをしてますよね。いいですけど。変に頭の可笑しな説明されるより遥かにいいですけど。

 というか、調べましたけど、神秘とか全くない時代ですよね。気軽に神霊産み出すとか何やらかしてくれてるんですか、社会を混乱に陥れるつもりなんですか。

「ちょい待ち! その発言は余りに気が早いよ! わたしへの評価どんだけ低いの?」

 むしろどうして評価が高くなると思っているのですか。その自信は何処から来るのですか。

「え、だってわたしはどんな神霊も好きに生み出せますけど」

 権能は本当に至高なのですよね、この神……なんで性格と見た目が小娘なのでしょう。

「ちょっと! 見た目で悪口言うとか、今の時代はハラスメントって言うんだよ!」

 ちんまい姿できゃんきゃん言ってますが、貴女だって姿を自在に変えられますよね。

「今は人間だからね」

 どうしてそこで腰に手を当てて胸を張るとか強気な態度なのですか。語気も強くする意味が分かりません。

「まぁ、落ち着きなさいな。実は最近、ダンジョンボックスってものが発明されたんだよ。これはね、適性がある人物なら、自分の思った通りの異空間のダンジョンを生み出せるの」

 誰ですか、そんな余計な物を作り出したのは。貴女ですか。

「違うよ! これはわたしじゃないよ! まぁ、魔術師が作って一般世間にも広めて大騒然になったけど。人間の生物としての特徴の一つは環境を改造することであり、それを最大限に活かすこの発明は人類を次の段階に進出させるものである、だってさ」

 言い分は分からなくもないですが、随分と奇抜な発想をしている人間ですね。貴女の今世の親とかでしょうか。

「違います! 全く無関係の赤の他人です! わたしはこのダンジョンっていうなんでもありな空間なら好きに神霊を生み出せるって思って利用しているだけです!」

 余計な物を与えたその人間には罰を与えるべきでしょうか。

「お止めなさい。貴女に神罰の権能くっ付けた覚えはないからね」

 仕方ありません、諦めます。

 ところでダンジョンに適応した人間は素質に応じて特殊な能力を得られるみたいですが、貴女が神霊を生み出す権能を発顕しているのはそれ関係なく自前ですよね。

「当たり前じゃない。人間に生まれたからって自分の根幹になる権能を失ったりしないわよ。これまでも台風とか津波とか――あ」

 貴女、神秘のない世界で自然災害を排除する為に神霊生み出したのですか!? バカなのですか!? いえ、言い直します、バカです!

「辛辣!? 待ちなさい、あれはマジでヤバかったんだから! 東京タワー圧し折れるとか、日本そのものが沈没するとか、見て見ぬふりできないでしょ!」

 島全土が壊滅する津波は兎も角、建築物一つが倒壊するのは物の常でしょう。老朽化とかもありますよね。

「イヤよ! わたし、スカイツリーより東京タワーの方が好きだもん!」

 そういうところです。好みで神霊生み出すとかいう奇跡を気軽に使わないでください。

「だって! 出さないとお腹が張って辛いんだよ!」

 神霊を排泄物扱いしないでください! 例えるならせめて出産にしてくださいよ!

「え……出産……お腹が、詰まって、痛くて……うーん、やっぱ感覚は便秘だよ。出産だと経産婦の方しか共感してもらえないし」

 ぐれていいですか。

「やめて。困る」

 化身出来ないのが口惜しいです。

「怒られるの嫌だからそこら辺の権能は制限したからね!」

 何をそこでない胸を張ってますか! ぶっ飛ばしますよ!

「ちょっと! 胸はこれから成長するんだからね! 人間は神霊と違って成長するんだから!」

 今すぐわたしに人に寄せた化身を与えてください。折檻して差し上げます。

「こわっ! 絶対イヤに決まってるじゃん!」

 こんの小娘、何処まで責任感というものが欠如しているのですか。体が、自由に動ける体が欲しいです……鏡の神体ではこの考えなしを殴る事も出来ないなんて。

「まぁ、落ち着きなさい。まだ貴女の思考が小説サイトで自動反映されるようにした理由を話していないでしょう」

 ああ、そう言えばそんな事も起こっていますね。此処までの話に比べればもうどうでもいい気がしているのですが。

「大事よ。だって、それに投稿されたコメントでどんな神霊生み出すか決めるつもりなんだもの」

 はい?

「だって、わたしは神霊を生み出してすっきりしたいだけであって、必要に駆られている訳じゃないし、てきとうに生み出すのもなんか嫌だし、読者から神霊のキーワード貰ってそれを何個か組み合わせて生み出そうかなって。そらで考えるのめんどくさいから、なんかお題貰った方が考えやすいじゃん。って危なっ!?」

 チッ。頑張ってどうにか鏡体を倒してこのふざけた創造神を巻き添えにしようとしたのに、避けられてしまいました。やはり手足って大事ですね。敵を的確に狙うのに欠かせません。

「こわっ! ちょっと、割れたりしたらどうするのよ、止めなさいよ」

 神御祖神は、その身長よりも直径の大きなわたしの神体である鏡を起こしてくださいました。肉体は人の子供である筈ですのに、割と力があるようですね。

「ダンジョンマスターになって、自分のダンジョン内ならいろいろ強化されてるからね。もー、話くらい大人しく聞いてよ」

 大人しく聞けるような常識的な話をしてくださるならそうします。

「何言ってるの、神霊とか大体我儘じゃないの」

 そうですけど、他の神は他の神、うちの神はうちの神ですし、何より自分の親がこんなだと思うと、世間に迷惑を掛けさせないように食い止める責任というものが娘にもあると思います。

「真面目か。でも、自分が提案した神霊が接客してくれるカフェとか面白そうじゃない?」

 言ってる事は分からなくないですけど。……今、カフェって言いましたか。喫茶店なんて今までの話に出てきましたか。

「あ、まだ言ってなかったっけ。普通にダンジョン作っても攻略者を蹂躙するのが目に見えてるから面白くないじゃない。だからダンジョンだけど来た人をもてなすカフェやろうかなって。カフェダンジョン。店員は神霊で手を貸してくれる子にお願いして、こう、ダンジョンらしくいろんな景色とか内装でさ、迷いながら自分のイチオシの席を見つけ出してみたいな。よくない? って、危なっ! だから割れたらどうすんのって!」

 チッ。もう一回、わたし自身をぶつけてやろうと頑張って神体を倒したのに避けられました。この小娘よりこっちの方が大きいのにどうして当たらないのでしょう。

 そう言えば、貴女、転生して今は何才なんですか。

「わたし? ぴちぴちの十二歳だよ」

 十二歳ですか。中身も外見も小娘ですね、ぴったりだと思います。

「だから! 辛辣すぎるってば!」

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