第3話 悠と侑

 その日から毎日、その男の子は公園に来た。ある時、

「いつも本読んでるね。本が好きなの?」

と男の子が話しかけてきた。

「うん…。」

「ふーん。」

 そう言うと、また、ボールで遊び始めた。小さな公園だから、互いの気配は感じるし、同じ空間にいる感覚はある。それが嫌じゃないのが不思議だった。

 月日が経ち、少しずつ男の子と会話をするようになった。私が悠で、彼が侑。幼稚園の年長で、レモンキャンディーが好き。事情があって、この夏休みに東京から祖母の家に来て、二人で暮らし始めた。祖母は公園の向かいの工場で働いており、幼稚園のお迎えの後はこの公園で待っていた。

 歳の割にしっかりした印象だったが、なるほど、人には言えない事情を抱えているようだった。ベンチでおしゃべりをしたり、それぞれ静かに本を読んだり、夕方の1時間半を二人で穏やかに過ごした。

 ある時、私が描いたサルが主人公の4コマ漫画を見せてやると、最高にウケた。誰にも見せたことがないノートだった。侑は、よく笑い、新作を楽しみにしていた。


 4月。侑は小学生、私は高校生になり、その公園に行くことはなくなった。約束をして会っていたわけでもなければ、連絡先も知らないし、互いの家も知らない。

しばらくは寂しさを感じたものの、いつしか中学生時代のルーティーンは、忘れ去っていた。

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