東辺境伯領にて……第24話
報告はまだ続く。
「その後私は直接対峙し会話から本当の狙いを暴いてやろうとしました。ですが、彼の弁舌は、貴族のものとは違う意味で、私では歯が立ちませんでした。話せば話すほど私が間違ってるのではと思わせるのです。精神魔法も疑いました。更には、一矢報いるべく盗賊の情報を要求したところ、その場で被害者を引き渡されたのです」
「うん? 意味がわからん。どういう意味だ? 被害者を引き連れていたのか? そんな報告はなかったぞ」
「まさに意味がわかりませんでした。一言で言えば、魔法です」
「魔法、か」
「はい。高度な空間魔法でしょう。私が知っている『収納魔法』や『マジックバッグ』は生きているモノは入れることができませんが、彼は何でもないように空間にドアを創り出し、中から盗賊の被害者たちを連れ出したのです。この時点で私は『転生者』であることを信じたくなりました」
「……そんなことができるとは……だが、それだけでは魔人か転生者かはまだ判断できないだろう? 魔人たちも秘密が多いのだからして」
「おっしゃるとおりです。ですから、その時やっとステータスの石版の使用を思いつくに至ったわけです。遅きに失するという思いです」
「なるほど。それで確認した結果が援軍要請の取り消しか」
「はっ! 多大なるご迷惑をかけまして、申し訳ありませんでした!」
「いや……援軍の要請自体は間違っておらん。ドラゴンが現れたのは事実なのだろう? 兵力が足りないと判断したのなら援軍要請は当然だ。サエゼリアは利権が複雑な街だが、我が領地であることに変わりはない。兵を出すのに何の問題があるものか。だが、問題は経過報告が遅すぎたことと、内容が荒唐無稽だったことだな。信じられないのは理解するが、ステータスの確認に何故そこまで時間がかかったんだ?」
「お恥ずかしい話ですが、彼のステータスをこの目で見ても信じられなかったのです。『偽装』や『幻影』などのスキルを疑ってしまいました。その後紆余曲折があり、最終的にもう一つの称号、いえ、職業の『神の使徒』に関して高位神官たちに立ち会ってもらい試してみることにしたのです」
「紆余曲折も気になるが、ふむ、確かに『神の使徒』などという称号は慎重にならざるを得ないな。その者はオーガのような姿なのだろう? ステータスを信じられない団長の気持ちはよくわかる。だが、ここに来たということは、本物だったんだな?」
「はい。神官も間違いないとおっしゃっています。ことここに至っては私などが判断できるレベルを超えております。すぐに閣下に報告しようとしましたが、また街で騒ぎが起きまして……」
「なるほど。それがサエゼリア全体に神聖魔法がかけられたという報告か。本当に意味がわからんな」
「はっ! 激しく同意いたします。その騒ぎを鎮めようとしました矢先、彼が更にやらかしてくれまして……」
「む? それはどれのことだ? 報告書にあるか?」
辺境伯は渡されていた報告書を捲りながら聞く。
「は。実は教会の不祥事に関することでして、まだ記録には残しておりません。閣下にご相談してからにすべきだと判断しました」
「教会か……あまり関わりたくはないのだが……簡単に聞かせてくれ」
「は。彼のステータス確認に立ち会ったイスマルク司教が数々の不正を行っていたことが明らかになりました」
「……領地を持たない王都の貴族どもや神官が不正を行うのは習性のようなものだが、何故そのタイミングで明るみに出たのだ? ヤツラは奸智に長けた化け物だ。そうそう尻尾を出すまい」
「それは、魔法で……」
「また魔法か。一体どんな……いや、それはどうでもいい。どうでもよくはないが、まずは何故魔法まで使って罪を暴いたのか、経緯を説明してくれ。今後気まぐれで誰彼構わず秘密を暴かれても困る」
「は。それでは説明いたします。先の神聖魔法の件ですが、彼はドラゴンで騒がせた詫びのつもりで都市全体に効果を広げたそうです。ですが、その魔法には後遺症があることを失念していたそうです」
「後遺症? 神聖魔法にそんな物があるとは信じられんが、失敗とは違うのだな?」
「神級の実際の効果が知られていないのは仕方ありません。話しぶりでは彼も初めて使ったようですから。その神聖魔法、《聖域》というのですが、効果は強力な結界を張ることと、その内部の人間を癒し、ステータスを一時的に上げることだそうです。病人、けが人は完全に身体が癒え、健康な者は更に健康になります。私も古傷がなくなり、10年若返ったような、生まれ変わったような気分になりました。その後遺症、或いは代償が、身体を修復した分エネルギーを補充しなければならないことだそうです。つまり、空腹になるのです。私も若干感じました」
「なるほど。聞けば道理だ。空腹を後遺症と呼ぶのは大袈裟に感じるが、街全体でそんなことになったら騒ぎになるのも無理はないな。それで、教会とはどう繋がるんだ?」
「はい。その騒ぎを鎮めるため、彼は炊き出しを提案しました。費用は彼がいずれ払うと言って。私と教会の代表の一人は賛成したのですが、イスマルク司教が強硬に反対しまして、費用を今すぐ出せと彼に食って掛かりました。そこで魔法の餌食となったのです」
「餌食とは言い得て妙だな。団長の気持ちがよくわかる」
「は。お恥ずかしい限りです」
「ふむ。しかし、それではそやつが気まぐれで魔法を使うのかどうか、判断できんな。どちらかというと、肯定したくなる。団長はどう考える?」
「……私見ですが、彼は自分のことなら何を言われても一切気にしない性格だと思います。司教の件は罪を暴くのが目的ではなく、自分のせいで空腹に苦しんでいる者たちをこれ以上待たせるのが忍びなかったので、彼の邪魔をする司教を排除しただけなのかもしれません。気まぐれで自分勝手であることは残念ながら否めません。ただ、彼には彼なりの規範があると……」
「ふむ。規範か……実感が篭っておるようだが、何かあったのかね?」
「は。彼に遣り込められまして……」
「その件も聞いてみたいところだな。だが、それは酒でも酌み交わしながらにしよう。魔法の件は一応理由があったということにする。それからどうなった?」
ヒックス団長の報告はまだまだ続く。クロスがやらかす限りは。
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