推し殺害事件

@tunemura_ichi

「始まり」

推し殺害事件

 最高だね。推しのライブって言うのは。推しと同じ空気を吸ってるんだって思うだけで、発狂しそうになる。もちろん良い意味だよ。

 

 私の推しは、桜ちゃん。ν・rhythm(ニュー・リズム)の現センターで、めっちゃかわいい。日本の「かわいい」の最上級と言っても良いくらい。

 

 ν・rhythmは、五人組のアイドルグループ。毎年のようにヒット曲を出す売れっ子のグループで、今日はその両国のライブなのだ。


「みんな、いくよ~!」


 マヤちゃんの声で、会場のボルテージが一気に上がる。サビは、みんなで歌った方が楽しい。


 サビを歌うときは絶対に、桜ちゃんがセンターだ。

 スポットライトが、メンバー一人一人に当たる。

 少しだけ、一瞬だけ、桜ちゃんの陰が揺れる。段々、桜ちゃんに当たっている光が強くなる。

 

 桜ちゃんは、上を見上げた。

ライトが、頭上から落ちてきた。桜ちゃんは避けられなかった。

桜ちゃんは、トマトが潰れるような音を立てて、ライトに潰された。その音は、手持ちのマイクが拾い、会場全体に響いた。

すぐ隣だったカナメちゃんが、悲鳴を上げる。

さっきまでの熱気が嘘のように消し飛んだ。私の脳内で、グルグル思考が駆け巡る。


 警備員の人が、慌てて桜ちゃんに駆け寄る。


「おい警備は何やってる」

「早く医者を、医者を!」

「いや、演出なのに何でこんなに焦ってんの?」

「え、待って。これ絶対バズるやつじゃん」

「桜ちゃん……?」

「ν・rhythmも終わりだな」

「早く助けろ!」


 会場は、混乱を極めた。

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