第53話 配信の反応と光の魔剣ガチャ開幕



 配信から少し時が経った。

 田中は今日もまた、相変わらず掲示板で配信への反応をちょくちょく確認していたのだが――――思い付きで企画したにしては、世間のアーサーをゲストとして呼び寄せたあの配信への反応は、おおむね良いものといえた。最も、単純にアーサーはどうでもよく、ビームの方に興味を持つ者達が多かったのもあるだろう。

 もちろんゲストをボロボロになるまで放置したことについて批判するコメントがあったりもしたが、全員に絶賛されるなんてことは有り得ないので、田中達は気にしない。


  

 また、アーサーが結果的に魔剣を使っても倒されてしまったのは、マイナスイメージに繋がると思われたが、その炎上も最低限だった。

 炎上が最低限だったのに対して、田中も疑問に思い、掲示板で情報を収集し、多数の意見としてあったのが、

 

 ――――まだ理解出来るような戦闘で参考にはなった。


 という意見だ。

 

 今までの壁を走ったりと重力に逆らうような参考にならない出鱈目な動きをする灰華よりも、ただ目にも止まらぬ早さで動くだけのアーサーの方がまだ理解出来る範疇にあり、共感出来るということなのだろう。

 

 店の関係者以外で初となる、魔剣の雑な運用。

 誰もがもったいなくて本来は出来ないような魔剣の運用をゲストにさせる企みは、結果として、案外成功したのだった。




――――――――――――――――――



 そして訪れた光の魔剣ガチャの日。

 この日を――訪れた多くの冒険者達は、いつもの魔剣以上に待ち望んでいたようだ。やはりビームは正義である。

 その分、さぞ待つ時間が長かったので爆発したのだろう。ダンジョンで普段から大暴れをする生活を送っている彼等は、元気が有り余っている様でその有り余る元気を発揮して、朝にも関わらず騒ぎまくっていた。


 そして、その冒険者達の人数自体もまた多い。


「おいおい…………これまでのガチャとは人数が違い過ぎるぞ…………まるでお祭りだな」

 

「早めに来たはずだったんだけど…………俺、むっちゃ後ろの方じゃん!? 先頭がまるで見えない! ……これ魔剣とかが当たるとかそれ以前にガチャをそもそも回せない可能性あるぞ…………」

 

「なんか……冒険者とは思えないような体型をした奴等もそれなりにいるんだけど……どうなってんだよこれ……?」


 第一回の炎の魔剣ガチャから、第二回の雷の魔剣のガチャの来場者数の差も相当なものではあったのだが、ここに来ての第三回の光のガチャ屋では、さらに今までとは比べ物にならない数の来場者が訪れていた。

 

 二回のガチャ屋の開催で知名度を上げたというのもあるが、実は現在日本で活動している冒険者の総数が増えているのも関係していた。


 冒険者の活動者が増えたのは、かつてあった中二心を擽られた者達が、光の魔剣への権利を取るために取得したというのが、この日本の冒険者が増加した経緯。 

 何故なら――――田中達が店を開いているショッピングセンターは冒険者専用であるためだ。このショッピングセンターには冒険者として証明しなければ入れず、一般人は入れない。

 普通のショッピングセンターで武器などを取り扱える店などがあるわけがない。一般人に切れ味の良い武器を持たせた所で用途として、普通の日常で必要性もなく、使われたとしてモンスターではなく、人に向けられることとなるだろう。 

 冒険に憧れ一攫千金をしたいと思いながらもダンジョンの危険性を考えて冒険者になることを今まで躊躇していたような者達もまた、今回覚悟を決めて冒険者登録を行ったのである。


 また、冒険者として登録はしていても、怪我などで冒険者の仕事から一旦離れていたような復帰者も第三回ガチャ屋に並んでいる。

 部活などでいう幽霊部員的な人的な彼等ではあるが、極上の餌(光の魔剣)に釣られてホイホイやってきたのだ。


 そういった経緯を以て、第三回ガチャ屋の来場者数は爆増したのである。


 

――――――――――――――――――



 

 光の魔剣を求める者達――――つまりは、ガチャ屋の客達の殆どが、そわそわしながらも嬉しそうにしているのに対して、未だシャッターが開くことのない開店前の田中達の店は沈黙が流れていた。

 お客が増えるのなら、本来は喜ぶべき事柄である筈なのに、だ。


 


「……………………」


「……………………」


「…………多くね……?」


「……前よりも遥かに多くなってる」



 ここまで増えたことに驚いたのは、田中にとっても意外なことだった為だ。田中の予想として、爆死に嫌気が差してもう来なくなる人もそろそろ出始めてくるだろうなと考えており、魔剣が世に広まってから数ヶ月も経っているので、さすがに話題性も落ち着いて来たこともあり、一回目から二回目のような客の増加はさすがにもうないと予想していたのだ。

 人気の出そうなビームを出せる光の魔剣をこのタイミングで出したのは、マンネリ化を避けれるかと期待してのことだった。

 まぁといっても、「ビームだしいつもより客が来てくれるだろー」ぐらいの期待に過ぎなかったが。

 そしてその結果がこれだ。想定を上回る客の数。田中は、人々のビームに対する情熱を甘く見ていたのを少し後悔した。


 

 田中が今抱いているのは、どうしてこうなった? である。もはや売り切れないことへの心配はもうしていない。心配事は他にある。

 それは何よりも重大な問題――――――――、ガチャの中身が単純に数が足りていないのだ。



「………………………………前回よりも数を増やしたけど……………………これでも普通にまだまだ足りないよなぁ……」


 ――――以前より、ガチャの量を増やしたというのに、それでも全然足りないというのが現実だった。


「足りないね…………明らかに。」


 外にうじゃうじゃといる冒険者達を見ながら、返事を返す灰華。


 

「だよなー……。

 まさか、前回来た人数分だけ増やしていってるのに、最高客数を遥かに越える人数が来るほどとは……」


「……商売が繁盛してるのはいいけど、人数多すぎるのも問題」


「そうだな……

 で、どうしようか……? これ……また列に並んだのに、一回もガチャに回せない人が大量に出るぞ…………?」


「今からじゃどうしようもない」


「それもそっか……次からは頑張ろうな……」

 

 次からは頑張ろう、という信用ならない言葉を呟き、今回のことはさくっと諦めた田中達。 

 問題を抱えたまま、ガチャ屋はとうとう開店するのだった。


 

 

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