第38話 順調に進む者達と脱落寸前の者



 一斉にダンジョンへと潜っていった、冒険者達。先着順というわけではないが、早く中層に着くに越したことはないため、魔剣を求めている者達は普段のダンジョン攻略以上のスピードである。

 基本、どこの場所でも激戦だったが、とりわけ先頭集団は激しいデッドヒートを演じていた。

 

 もちろんダンジョンであるため、モンスターはいくらでも湧く。しかし、湧いたモンスターが幾度も進行方向に現れるものの――、


「邪魔だぁぁぁぁ!!」


 剣ですれ違い様に切り刻む者。


「ウォォォォォォォッ――!!!」


 走っている勢いのままに殴り飛ばす者。

 

「うおっ……!?」


 モンスターの攻撃をかわして、スルーする者。



 ――各自、スピードを落とすことすらせずに、様々な方法でモンスターを容易く対処していった。


 どうやら先頭集団の冒険者達のほとんどが、実力に裏付けられた自信を持った者達のようで、上層のモンスターを歯牙にも掛けずに倒し、LR魔剣のある中層へと他の者よりも一足でも早く辿り着こうと、進んでいく。



  

 そして――この先頭集団には、


「待っててくれ、朱寧あかね!! 朱莉の親友として、必ずお前を助けてみせる!!」

 

 新たな女の子?の名前を叫びながら、爆走する魔法好き好き戦士がいた。

 なんだかんだいっても彼は、腐ってもBランク冒険者の一人。最近鍛え直していることもあり、迷言を言う余裕が残しつつも、この先頭集団にも付いて行けているようである。


 ところで――朱寧とは、池に沈んでいる二見のLR魔剣のことだろうか?

 ――既に名前を決めている……手に入れる前からというのは、魔法好き好き戦士は少々気が早すぎる。



 さて――他にも、“円卓”のメンバーもいる。イギリスの最強格の冒険者達といわれるだけの実力者だけのことはあった。


「ややペースが遅いかな……そろそろ追い抜いて一番先頭に躍り出るとしようか」


 “円卓”の四人の内、先頭を走っているアーサー二世。背中に羽織っているマントをなびかせながら、颯爽と走っている。

 

 

「とうとうガラティーンが手に入るのか……本物と同じような特別な剣を持ってるって、絶対ちやほやされるに違いない!」


 どこか浮かれているガヴェイン二世。炎の魔剣を手に入れた後の自分を想像しているようだ。


  

「……」


 スマホから目が離せないアグラヴェイン二世。

 歩きスマホでも危ないのに、走りスマホをしている。


 

「みんな強いなぁ……僕……不安になって来たよ」 


 相変わらず、自信の無いモードレッド二世。

 何気に僕っ娘であることが判明した。



 そんな濃い面子が複数いる先頭集団の少し後ろには、ダンジョン配信者であるハルカが、お供を引き連れてなんとか置いていかれまいと頑張っていた。 



 ――実力者が集まったここは、大量の脱落者が続出中のまさに激戦区である。 



 

 ――――――――――――――――――



 

 我先にと突き進んでいく先頭集団もいれば、当たり前のことだがついていけずに置いていかれてしまう者達もいる。

 そうした冒険者達が遅れてしまったのは、ペースについていけずに力尽きたり、モンスターもの戦闘で怪我をして進めなくなったり等、理由はいくつかあるが、主に単純に実力が足りていないことによるものだった。


「はぁ……はぁ……はぁ…………くそっ……先頭の奴ら早すぎるぞ……」


 そして――――そこには、スタート前は元気にイキっていた二見がいた。

 しかし、あんなに元気だった二見は、現在は息切れをして、もはや脱落寸前である。


 その上――トドメとばかりに二見にとって絶望的なモンスターが行く手を遮った。


「マジかよっ……」


 緑色の肌に、尖った耳、成人した人間よりも小さな体の、どのダンジョンにも現れり、且つ最弱候補でも名が挙がる有名なモンスター――――そう、ゴブリンである。


 しかし、一体であれば二見ならば対処可能だ。

 だが、この場には――――


「「ッ――――!!」」


 ――二匹のゴブリンがいた。まさかのゴブリン倍プッシュだ。


 二見は怯んでしまうが……、魔剣の為に覚悟を決めたようで――


「っ……やってやるよ! !」


 その言葉と共に、ゴブリン達へと両腕をぐるぐる回転させながら、立ち向かっていくのだった。

 二見の必殺、ぐるぐるパンチである。



 二見勇気VSゴブリン二匹。


 二見は恐怖しながらも、限界を越えなければ勝てない戦いに挑むのだった。





 そんな中、少し離れた所から話し声が響いた―― 


  

「おいおい……あれは例の追放野郎じゃねぇか……?」


「あー、本当だ」 


 二見は一人で戦っている。だが、この場にいる人間は二見だけという訳では無かった。 

 そう――この場には他に冒険者がいたのだ。しかも、それなりの数の冒険者がいた。 

 最も、二見の味方では無いようだが。

 ――彼等は、二見とゴブリン二匹が戦い始めても一向に加勢をすることはなかったのである。


 二見とゴブリン二匹の低レベルな争いを眺める冒険者達。

 ――彼等は、元々なんとなくで参加したエンジョイ勢だった。魔剣を手に入れるのは、不可能だと“円卓”のメンバーがいたことから早々に諦め、魔剣よりもこっちの方が面白そうだと判断し、観戦しているのだ。


「いいぞぉー、もっとやれぇ!」


「ぷっ、マジでゴブリンといい勝負繰り広げてやがる」


「ここで楽しm……見守らせてもらうとするかねー。若者の成長を妨げるわけにはいかないからな。まぁ最悪負けて殺されそうになったら助けてやるかー」


 二見とゴブリン二匹の戦い。

 ギリギリの戦いではあるが、もし負けたとしても、すぐに救助されるため、命が奪われることはないだろう。

 むしろゴブリン二匹の方がどう転ぼうと殺されるのだから、悲惨かもしれない。


 ――二見は、悪運だけはあった。


 


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