第32話 追放者の失墜



 文章は人によって多少変わるかもしれないが、“人生において、上がるのは大変だが、落ちる時は一瞬だ”というようなニュアンスの言葉がある。

 


 さて――何故この話をしているのか。


 それは――最高レアの魔剣を当てたことを皮切りにハーレムパーティー(?)も得た、自称最強の魔剣士の二見にある悲しい事件が起き、人生という坂道を転がり落ちているからである。

 


 

 二見の幸運な日々の終わり――それは突然訪れた。

 それは、ある日いつものハーレムパーティーを引き連れ、水系ダンジョンの中層に挑んだ時のこと――――


 

 

 そう――まずここで判断を間違えている。 

 あの水系ダンジョンである。二見の持つ炎の魔剣とは、どう考えても明らかに相性が良くなさそうなダンジョンだ。 

 実際に、水系モンスターには炎の攻撃では効果がどうしても薄くなってしまうのだが……、


「俺の魔剣は、たとえ相性が悪い水系のモンスターだろうと瞬殺出来る!! 炎の魔剣の力を嘗めるなよ!!」


 という、二見のアホな考えでこのパーティーは挑むことになったのである。

 

 おそらく、二見的には相性を気にしない俺ってカッコいいー!! とでも考えているのだろう。

 パーティーメンバーに自分をカッコつけることしか頭に無いようだ。


 ――ちなみに、この格好つける相手というのは、三人のメンバーの内の誰か一人という筈もなく、当たり前のように、全員に向けて行っている。

 「三人共愛してるから、俺には選べないぜ!」というのが、二見の談である。

 

 もちろん、この行動をパーティーメンバーは良く思う者はおらず、二見をカッコいいと思う者も皆無だった。


「わざわざ炎と相性の悪いダンジョンに挑むとは……もしや馬鹿なのか?」


「前から馬鹿だったわよ……」


「まあ、魔剣が強いからなんとかなってるようだけど……」



 


 そして――遂にその時は訪れた。かなりデカい池を迂回して進んでいる時に――――


「へっ! こんなもんかよ呆気ないな! 俺と魔剣はまだまだ余y――――」

 

 ピュンッ

 

 池の中を泳いでいた魚系モンスターが口に水を含んで、まるで水鉄砲のように、二見に向けて放った。

 死角からの不意打ち。もちろん、二見はそれに気付くことは出来なかった。不意打ちに反応出来るような実力が二見にあるわけがない。

  

「――――うおっ!!?? …………あ、あぁぁぁーー! 俺の魔剣がぁぁ!?」


 水中の敵からの水鉄砲のような狙撃により、二見本人には当たらなかったものの、魔剣に当たってしまい、手から離れて池にドボンっと音を立てて落としてしまう。


 二見は慌てふためき、パーティーメンバー達もまた呆然としていた。


「そ、そんなぁ!? ヤ……ヤバい!! 俺の魔剣が湖に落ちてしまったぁ!?」


「そんな……嘘でしょ……?」


「……っ!? こうしちゃいられないわ! 早く取り戻さないと……!」


「やめて! 無理に決まってるでしょ!?

 水中の中にもモンスターはたくさんいるのよ! 無謀過ぎる!

……悔しいけど私達の力では、取り戻すのは……不可能よ……」


 早くも魔剣については諦めようとする、二見のハーレムメンバー達。魔剣が自分の物ではないからというのもあるのだろう。

 しかし、持ち主である二見は諦めきれないようで――、


「諦めれるわけないだろ……!! あの魔剣は俺の運で当てたんだ! お前ら拾ってこいよぉ!」


 がっくしと膝を着きながらも、未練がましく魔剣の落ちた池を見つめている。


「はぁ……」


「とりあえず、魔剣も無いし一旦ダンジョンから出ましょう」


「撤退しか無いわね」



 ――こうして、二見は引きずられて地上へと連れ帰られ、LR魔剣は池に沈んだまま放置されてしまうのだった。




 だが、不幸は連鎖するものであり、魔剣を無くしたことは始まりに過ぎなかった。


 それから数日後には、


「すまない、パーティーを辞めてもらえないだろうか?」


「魔剣はもう無いし……」


「もうパーティーに入れておく意味は無いよねー……。せめて本人の性格がもう少しまともだったらなぁ……」


 

「嘘だろ……?? 俺を追放つもりなのか!?

 お前ら全員、俺のことが好きだったんじゃないのかよ!?」


 パーティー追放宣言をされ、悲痛な声を上げる二見。


「特には」

 

「……勘弁して」


「……きもい」


 三人の内、誰一人として満場一致のようである。



 二見勇気――二度目のパーティー追放。それもその筈、本体である魔剣を失ってしまった彼をそのままにパーティーに留めておく理由など何も無かった。


 一応、同情からかすぐにはパーティーを追放されることはなかったのだが、魔剣を無くした二見は大いに荒れており、暴言を吐きまくったのが決め手となったようである。 



――――――――――――――――――




 二見は、前提を間違えていた。

 魔剣を持つだけで最強なら、田中は灰華を仲間に誘うという考えに行き着かない。


 そう、残念ながら魔剣にも一つの弱点があったのである。

 それは――使い手が弱いと、今回のように急な不意打ちなどに対応出来ずに、魔剣が手から離されてしまう場合があるという点だ。

 他にも不意打ちで無く、正面からであっても身体能力に差があれば、魔剣を発動させようとする際の動作途中に、詰め寄って止めて未然に防ぐことが可能だったりする。



 ゴブリン程度の実力者であっても、その圧倒的な火力で高ランク冒険者以上の活躍をすることが出来る魔剣。

 しかし、同じ魔剣を持っているという条件下で、低ランクの冒険者とその何十倍も強い高ランクの冒険者が戦い合わせた場合――

 

 ――ほぼ間違いなく、高ランクの冒険者の方が勝ってしまう。

 もちろん上手く当てることが出来れば高ランク冒険者を倒せるチャンスがあるだけでも、十分反則じみた武器ではある。


 だが、結局の所、元から強い者が持った方が強いに決まっていた。

 ――実力ではなく、運が必要となるガチャでなければ、手に入らないという問題があるので、なかなかそうはならないのだが。



 こうしてあっという間に、ゴブリンに苦戦していた頃に逆戻りすることとなった二見。 

 彼の栄光は早くも終わりを告げるのだった。


 



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