第30話 とあるガチャ屋の店員


 田中の唯一の仲間にして、ガチャ屋の店員でもある少女――――逢海灰華は『ユニークジョブ』所持者である。


『ユニークジョブ』は総じて、ジョブよりも強力な恩恵をもたらす。

 そして――灰華の『ユニークジョブ』は戦闘に向いたものだった。生まれ持った時からある天性の戦闘センスとユニークジョブの強力な恩恵――それら二つが合わさった灰華の戦闘能力は、一流の冒険者とすら比較にならないほど突出しているものだった。

 

 そんな灰華の過去について――灰華と出会う前のことは、田中ですら知っていることは少ない。

 両親は冒険者だったが死んでしまったらしく、天涯孤独だということぐらいだ。

 だが、本人曰く――「幼い頃のことで殆ど記憶にないので気にしていない。それにダンジョンで親が死ぬことなんて今時、さほど珍しいことでもない」、とのことである。

 

 ――それが本心からの言葉かどうかは灰華にしか分からない。

 



――――――――――――――――

 


  

 前述した通り、冒険者の中でもトップクラスの実力を持つ灰華。

 しかし、灰華は田中と出会う前からダンジョンに潜る冒険者だったが、仲間がいたことはない――いわゆる一匹狼であった。


 始めのうちは何度も勧誘があった。しかし、全てを「やめとく」の一言で済ましてしまったのが原因で悪評が広がったのか、誰にも誘われなくなったのである。

 普通の冒険者なら、致命的な失敗――だが実際問題として、必要としていなかった灰華の冒険者としての生活には何の影響も無かった。


 灰華とて、仲間という存在に憧れは一応ある。だが……

 

 ――仲間とは、お互いを助け合う存在だと認識してる。だけど……勧誘してくれる人達は弱いから、こちらが助けるだけになる。足手まといになるだけの仲間って……どうなの?

  

 そう考えてしまった灰華は、結局一人だけでダンジョンへと潜り続け、五体満足で生きて帰った。そして――『ユニークジョブ』を得てからは、特にその考えはより強くなることとなる。


 さて――ここまで灰華について語ると、とある事が思い浮かぶかもしれない。

 ――過去重いし、弱い仲間がいらないっていう思考もアレだし、なんか闇落ちでもしそうじゃない?、と。

 そう――灰華は最初に仲間になる存在次第で、どちらにも転がりかねない系少女だったのである。

 



 

 灰華のその考えに従うと――田中は大して強くはないので、不適合である。 


 それなのに何故現在では灰華は仲間になっているのか――それは田中が勧誘を頑張ったというほかない。

 もちろん、説得にはとてつもなく難航した。

  

 中国の三国志に登場する、かの劉備が諸葛孔明を迎え入れるために三度訪ねたように――いや、それ以上に何度も何度も何度も菓子折りを持って、勧誘しに行ったのである。


 初めは灰華は話も聞かず、相手にしていなかったが、飽きずに何度も来る田中。持ってくるお菓子は美味しかったので、来ること自体を否定することはなかった。

 また、(話も聞かずにお菓子を取り上げていれば、腹を立てていずれはいなくなるだろう)、という考えもあったようだ。

 

 しかし、いつまで経っても田中は諦めなかった。

 お菓子を受け取り、帰ってもらう――そんな日々を送り続ける内に、自然と灰華としても、何が田中を突き動かしているのかに興味が湧き、話を聞くことにした。

――それが、勧誘成功の第一歩となるのだった。




 田中の話は何もかもが驚きだった。

 なにせ――――、

  

「夢を叶えたいんだけど、危険な目にあうかもしれないから、俺を守って欲しいんだ」


「……は?」


 田中の話は出だしからおかしかった。共に戦おう――なら何度も言われた。必要ないので断ったが。

 しかし、初めから自分を守れ、は想定外にも程がある。


 灰華は、その酷すぎる要求に、当たり前の疑問を田中へと尋ね返す。


「それ……私に利点が無い」


 正論だ。

 そもそも灰華にとっては、何故自分が守らなければならないのか、これがわからない。


「……俺は絶対役に立てると思うぜ!」


 ドヤ顔で言う田中。灰華は、田中の顔を殴りそうになったが、我慢した。何故ならば、


「そんなに弱いのに?」


 田中が弱々だからである。怒りに任せて殴ったら、大変なことになってしまう。


「そうなんだよ、残念なことに俺は弱いんだよなー。たぶんこれから鍛え続けてもCランク冒険者になれるかも怪しい。でも――その代わりに他の誰にも出来ないことが出来る」


 田中はじっと灰華を見つめる。自信があるのだろう、またもやドヤ顔をしている。

 続きを話さないのは、灰華がそれが何なのかを聞くのを待っているのだろうか?

 話を打ち切って帰ることも一瞬考慮したが、ドヤ顔をしていることからよほど自信があるのだろう、と考えて期待はしていないが、一応聞くことにした。


「……何が出来るの?」


「なんと―――― 俺は魔法武器が作れる!! 」


「魔法武器……? それは創作の存在……冗談? 全然面白くない」


「いや、冗談じゃないんだけど……」

 

「……帰る」


「待って、待って!」


「待たない」


 

 その日の話し合いは終わってしまったものの、次の機会に魔剣を実際に持ってきて使ってもらうことで自身の有用性をアピールすることに成功した。

 ――すぐには結論を出さなくていいから、仮の仲間になろう!

 と田中が言い、灰華はしばらく悩んだが、仮なら、と了承した。


 悩んだ理由としては、田中本人は弱いが、田中が作る魔法武器は強かったためである。 

 灰華は、自身と実力が近い仲間というのを考えていたので、田中の強さの種類が異なっていたために、どう判断すべきか迷ってしまったのだ。




 

 そして――――仮の仲間になってから、月日が流れ、ガチャ屋計画の準備がほとんど整ってきた頃、田中は再び勧誘を行った。


「で……どう? 正式に仲間になってくれない?」


「正式な仲間? あ……そっか。……いいよ」


「あー……また駄目だったかー……ん? あれ今良いって言った?」


「うん、言った……(まだ仮の仲間だったってこと、すっかり忘れてた)」


「お……おぉぉぉぉ!! やったぞ、 とうとう正式な仲間だ!!」


「……そうだね」


 すこし顔を逸らして、気まずそうな灰華。 

 田中への返答を返すのを忘れていたようで、田中と認識のすれ違いが起きていた。


「ちなみに決め手はなんだったんだ?」


「あなたが作った物は、私を何度も助けてくれたから」


「なるほどな、あれらが助けになって良かったよ。じゃあ――改めて、これからよろしくな!」


「よろしく」

 


 ――時間を掛けて、歩み寄った田中と灰華。彼らはこの時を以て正式な仲間となるのだった。 



 こうして――白にも黒にも成り得た一人の灰色の少女は、ガチャ屋のお手伝いというよく分からない方向へと不時着した。

 果たしてこれが良いことなのかは誰にも分からない。だが、灰華は今、仲間と共に毎日を楽しく過ごしていることだけはたしかである。


 

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