第22話 勇敢なる冒険者 VS 闇鍋ガチャ
冒険者――――それは己の命をチップに賭け、ダンジョンへと潜る者達。
冒険者達は、想像を超える未知と想像を絶する脅威に満たされたダンジョンへと、一攫千金という欲望のため、はたまた冒険への好奇心のため――等々、多種多様な願望を抱いてダンジョンに潜っている。
自分の力では敵わないようなモンスターに出会ってしまい、命を落としてしまう結果になるかもしれない――そんなことがざらにある中、生き残っている彼らは、勇気や運を以って死の運命を覆してきた者達なのだろう。
そんな絶望の中でも諦めずに奮い立ち、生を拾ってきた勇敢なる冒険者達の多くは、現在――
――――――膝をついて嘆いていた。
もし、ここがダンジョン内であればそのままモンスターにパクリといかれるだろう。
そう――今まで彼らを救ってきた運は、闇鍋ガチャには及ばなかったのだ。
モンスターにさえ屈しなかった冒険者達は、まるで命運が尽きたかのように膝を屈している。
モンスター以上の絶望――――闇鍋ガチャというガチャシステムは、人の手で生み出してしまった最強のモンスターなのかもしれない。全てが時の運で決まってしまうのだから。
そう――闇鍋ガチャの前では人は皆、ある意味平等なのだ。
どんなに優れた冒険者であっても――
「Aランク冒険者である、この俺様は、これまで命の危険に瀕したことなんて数え切れないぐらいある! その度になんとか生き残ってきたんだ! 俺の強運にかかれば、ガチャ程度で魔剣を当てるなんて余裕に決まってるんだよぉ!!――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――え……まって、これでおわり……? そんなはずがない……まだでてない……魔剣が出てない…………そんなバカなァァァァァァァァァァァァ!!??」
新人冒険者であっても――
「よしっ、俺の順番が来た! この日のために、なんとかお金を貯めれたし、限界までまわすぞぉぉ! 今日は来る前におみくじで運試しをしたけど大吉だったし、なんか魔剣が出る気がする!――――――――――――――――――――――――――――――あれ? おかしいな―――――――――――――――いや、まだお金は半分もあるし、ここからだな!―――――――――――――――――――――あ……あぁぁどうして…………オワッチャッタ」
ランダム且つ、平等に人を絶望させていく、無慈悲なるモンスター“闇鍋ガチャ”
――このシステムを考えた者は人の心が無いに違いない。
――――――――――――――――
こんな闇鍋ガチャなために、運営に意見を言いにくる者も少なからずいた。
大抵は略すと、
「こんなガチャもうやらない! ガチャシステムを見直した方がいい!」
といったソシャゲプレイヤーのよくある捨て台詞を吐いていく帰って行く。
だが、そんなことを言いながらも新ガチャが来たら、
「もうガチャはまわさないって決めたんだ!……だけど……やっぱ欲しいなぁ……ちょっと……そう、ちょっとだけだったらいいかも」
といった具合に、誘惑に負けてホイホイガチャをまわしてしまうまでが人間のガチャに対するお家芸である。
よって――田中達もなんかまた来そうだな、と思うくらいで特に気にしていないし、精神にも何のダメージも無かった。1つを除けばだが。
その1つ――ある人物の運営への訪問は、田中と灰華に精神ダメージを与えることとなったのだ。
そう、それはガチャ屋が開店してから、しばらく時間が経った頃である。
田中と灰華は適当に文句を言いに来る客の相手をしていると、その人物が現れたのだった。
「……すまない、少しいいだろうか? 頼みがあるんだ」
またか、と思いながら応対しようとする田中。
魔剣を普通に売ってくれないか? などを言われるのかと考えていた。
尚、灰華は暴力沙汰になった時の為に、隣にいるだけなので特に喋ったりはしない。
「あー、はい。何でしょうか?」
「……俺の相棒がこんな風になってしまったのだ……。俺が不甲斐ないせいで……ッ……。
なんとか治せたりしないだろうか!? 相棒に頼ってばかりいた情けない男だが、これでも Bランク冒険者。お金なら言い値で払う……必要な物があるならダンジョンに採りに向おう。
だから――どうか……どうか朱莉を治してくれ……! 」
「……はい?」
その男は怒涛の勢いで言葉を紡ぎ、頭を下げた。
両手のひらに大切に置かれている魔剣『朱莉』の残骸を田中達の方へと向けて。
そう――その男は魔法好き好き戦士だった。
何気に田中達とのファーストコンタクトである。
予想していた言葉を全く違っていたため、一瞬固まる田中だったが、すぐに復活し、なんとか聞き返す――
「えっと……治すって、その魔剣の残骸をですか?」
「あぁ! 『朱莉!!』を治してくれ!」
魔剣ではなく名称ではなく、こいつにはちゃんと名前があるのだと、朱莉という名前の部分を言う際に、声量を上げ、強調して伝える魔法好き好き戦士。
「はぁ……なるほど。言い辛いんですけど、一度壊れた魔剣は治せないです……。すみません。」
「………………そうか……最後の希望だったのだが……本当に、残念だ……。」
最後の希望が途絶え、顔を伏せる魔法好き好き戦士。見えないが、もしかしたら泣いているのかもしれない。
田中は話を少ししただけでどっと疲れ、早くどこかに欲しかったので――
「えっと……ガチャをまわしに来たんですよね? 並ばなくていいんですか?」
ボーションもストラップも持っていないことから、まだガチャをまわしていないと判断し、列に並ぶように誘導しようとした。
「いや……今回は辞めておこう。魔法が好きな俺ではあるが、このままでは頼りきりになってしまう。それでは駄目なのだ……。まだ見ぬ相棒達に見合うようになるために鍛えなければ……」
たしかに、魔法好き好き戦士は以前と比べると筋肉の量が増えたのか、さらにゴツくなっていた。鍛えているのだろう。
「はぁ、そうですか」
「それに……ウジウジするなと朱莉は言うだろうが、もう少し感傷に浸りたいのだ。あの黄金のような日々を、な……」
「何言ってるの? この人」
ここで隣で黙って聞かされていた灰華が、思っていたことを口に出してしまった。
「…………君は、配信に出ていた子か。そうか、分からないのか……まぁあのような魔剣の使い方をしているのだから当然か。
……では、年長者として君にアドバイスしよう。君は強い。だが、一番大切な物が足りていない」
「大切な物? 何が足りてないの……?」
「ふっ……それはな――――魔剣に対する親愛だ。まだ君には少し早かったかもな。まずは名前をつけてあげるところから始めるといい、全てはそこからだ」
魔法好き好き戦士は、訳知り顔でそう迷言を言い残した後、宇宙猫顔状態の田中達に背を向けて帰って行った。
魔法好き好き戦士の感動的なアドバイス? は言われた灰華と傍で聞いた田中の心に――――刺さ、らない。
二人とも困惑しているだけだった。
「なにあれ……こわい」
「やべー、なんか深い話? っぽいのを聞かされたけど、全然心に響かないな。というか、ブラックリストに入れるべきか? 危ない奴っぽいし」
こうして、魔法好き好き戦士と田中達、そのファーストコンタクトは終わったのだった。
田中達に精神ダメージを与えた、魔法好き好き戦士が出禁をくらう日も近いのかもしれない。
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