第21話 ガチャ第2弾 雷の魔剣ガチャ開催




 雷の魔剣の配信から時が進み、ガチャ第二弾の販売日となった。

 

 早朝――――今回もまた田中と灰華は、店内でのんびりと会話をしている。


「ついに、ガチャも第二弾か。今回はどれくらい来るかなー?」


「多いといいね」


「そうだな。紹介配信も結構人が来てたし、前回以上の人が来るのも期待してもいいかもしれない……そうなればガチャを爆死する人も増えるし最高だ」


 客に多く来て欲しい理由が、利益面からではなく、より多くの人にガチャ爆死して欲しいからという店長は、田中を除きこの世にいないだろう。 

 いや――意外と探せばいるのかもしれないが…………少ないことは間違いない。

 

「……あれ?」


「どうかしたのか?」


「なんか……外からたくさんの声が聞こえる」


「声……? こんな時間に? まだショッピングセンター自体開いてないぜ? 」


「……」


 灰華は無言で店内にある窓――室内から外が見れる窓へと近付き、カーテンを開いて外の様子を窺った。


「……これは」


「どうしたんだ? 外ってことは、もしかして早めに来た客でもいた? 俺達のガチャ屋目的とかだったりしたら面白いな」


「……自分で見た方が早い」


「分かったよ、窓から外を見ればいいんだな? 一体何なんだ……?」


「交代」


 灰華の言葉に従って田中も窓へと近付き、灰華と場所を交代して外を見ると――


「え……? マジかよ……」


 早めに来ていた客というのは違いはなかった――だが、人数という点において、田中の予想を遥かに超えたものだった。

 



 田中達が窓から見た光景――開店時間前にも関わらず、ショッピングセンターの入口にはたくさんの人々が集まっていた。

 何故そうなったのか――それを説明するためには、まず冒険者達が第二弾ガチャをどう思っているのかを語らなければならない。

 

 前回の第一弾ガチャの時――魔剣の存在を疑う者も多く、そうした者達がまわしに来ることはなかった。だが、魔剣を手に入れた者達によって命を救われた者や活躍を見た者など、ほとんどの冒険者は魔剣の存在を実際にその目で確認し、魔剣の性能についても誰もが知るところとなった。

 

 では、魔剣の有用性を知った者達がどう行動するだろうか?

 そう――魔剣を是が非でも手に入れようとしたのだ。田中達が正規販売していないので、持っている者達にお金を払って譲ってもらうか、ネットで転売されている物を購入するしかなかった。


 しかし、魔剣を所持している冒険者達は万が一の時の保険として使うために、手放したがらない者がほとんどだった。

 そして、転売されている魔剣も本物かどうかを見分けることが出来ない――目利きをしようにも見た目で判別が出来なかったからだ。

 それも当然――田中達がリサイクルショップで購入した剣であるため、見た目もバラバラで統一されている訳もなく、そして名剣というわけでもないので判別不能である。

 

 故に、冒険者達の多くは魔剣が喉から手が出る程欲しくてもリスクを避けたのだった。もちろん、我慢出来ずにそれが本物の魔剣であることに賭けて、購入した者もいたが……。

 

 彼らが短慮に走らなかった理由として、再びチャンスが訪れることが分かっていたというのもあるだろう。本命ともいえる田中達のガチャが再び行われるのを待てば良いと考えたのだ。

 田中達のガチャは、魔剣が当たるかどうかは運次第ではあるものの、当たりさえすれば確実に本物を手に入れることが出来る。

 

 そう――――冒険者達は、この第二弾ガチャが行われるのをとてもとても待ち望んでいたのだった。


 

 そんなガチャ目的に集まった冒険者達は、さながら福袋の初売り――いや、それを優に越える人数が並んでいた。

 評判になってるし、前回より客が増えるかな?――ぐらいにしか考えていなかった田中の予想はいい意味で裏切られることとなった。

 

 同時に――事前に用意したカプセル数では、普通に人数分に行き届かないという問題が起きることが確定してしまう。



 

―――――――――――――――――

 


 

 ある日、冒険者用ショッピングセンターにかつてないほどの人数の冒険者達が訪れた。


 この日を待ち望んでいたのだろう――――冒険者達は皆、夢にまで見たガチャを前にして大興奮している。


 だが――――――


 

「あぁぁぁぁぁぁ…………そんな……俺の希望が……」


「おかしい……絶対おかしい……。キーホルダーばっかりなんて……あんまりだ……」


「前回はSR魔剣を当てれたのに、今回はキーホルダーとポーションだけ……? しかもなんかキーホルダーがやたら出てる気がするよぉぉ……」



 田中達によってちゃっかりキーホルダーの確率が高くなっていること。

 そして――――――


「……え? 強化パーツ当たったけど、私……魔剣持ってない……。これどうすればいいの……??」


「強化パーツだけって一体どうしろって言うんだよ!? 」


「引き換え券が出た時、俺の時代来たなって思ったのにぃ……強化パーツなんて魔剣がある奴だけが必要になるものだろうがぁ……」



 今回から追加された、単体では何の役にも立たない、強化パーツの邪魔によって夢見る冒険者達は絶望に陥ってしまう。



 魔剣をガチャで当てて、大活躍して一目置かれるような高名な冒険者達の一員になりたい。


 もしかしたら、魔剣と一緒に強化パーツまで当たるかもしれない。

 

 そんな根拠のない、彼らの淡い夢はソシャゲから逆輸入された悪魔のガチャシステム――――闇鍋ガチャによって容易く終わりを告げた。


 闇鍋ガチャという最悪のガチャシステムを乗り越え、魔剣を手に入れる者は一握り。

 ガチャ爆死者の屍の上に立つ勝者となるために、冒険者達が出来る唯一のことは一心にガチャの神に祈ることだけだった。

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る