第15話 環境に優しい魔剣作成



 

 ガチャ爆死をたくさん間近で見たことで活力を取り戻した田中は、今日も元気にソシャゲをしていた。


 

 しかし、ダンジョン攻略から帰ってきた灰華が魔剣の合成元の一つのドロップアイテムである各属性の石を田中へと渡し、魔剣を作らなければガチャ屋が出来なくなってしまうと諭したことで、ソシャゲを切り上げて、魔剣の作成を始めることとなる。


「コツコツ作らないと」


「たしかにコツコツ作っとくべきだよなぁ……。じゃあ、剣を店に買いに行くとするかな」


「ついてく」


「手伝いサンキュー」



――――――――――――――――

 


 合成元を仕入れに向かった先は――――冒険者用ショッピングセンターに出店している武器屋――――ではなく、リサイクルショップだった。

 


「灰華、いつも通りある程度使えそうな安い剣を適当に選んでほしい」


「わかった」


 冒険者用のショッピングセンター内のリサイクルショップというだけあって、売られているのは冒険者達が使った中古品ばかりである。


 特に新人用というシールが貼られた装備がたくさん安売りされていた。新人冒険者は、冒険者となってすぐに辞めて売ったり、もっといい装備へと変えたりする者が多いためだろう。

 そうした安売りでも、いつまで経っても売れない装備は廃棄される運命にある。

 

「集めた」


 灰華は大量の剣を選び終え、田中達はリサイクルショップを後にした。


「こりゃ大量だなー、まぁ十分だし帰って作るか」





――――――――――――――――



 こうして、たくさんの中古の剣を購入した田中は、魔剣の作成へと取り掛かった。


「復刻をいつにするかはまだ決めてないけど、炎の魔剣も作っとくか」


 左手に中古の剣、右手に炎の石を持ち、両方をくっつけて、田中はスキルを発動させる――――


「【合成】」


 一瞬白く光り、炎の石は消え、残ったのは剣だけだった。形状などには特に変わりはない。

 変化点としては、剣の抜き身が鋼色から赤色に変わったことだけである。

 作成時間も短く、あまりにもあっさりしているのだが、これで魔剣は出来上がりである。

 作成時間がやたらと掛かるのであれば、ガチャの商品にするような大量生産など、出来るはずもない。

 ――――とはいえ、ガチャの景品とするのに必要な魔剣の数は量が多すぎるため、コツコツと作らなければならないのである。

 


「レア度はどう? 」


「【眼識】……SRの魔剣だな」


 田中は、床にSR魔剣を置き、次の魔剣を作り始めた。


「第二スキルの【眼識】…… 相変わらず便利」


「そうか…?戦闘には使えないからなぁ」


 喋りながら、田中は魔剣の合成と仕分けを凄い勢いでこなしていく。


 田中が【合成】の次に、しばらくして手に入れたスキル【眼識】――――どれくらいの価値があるかをなんとなく見分けることができるだけのスキルである。

 ただ、魔剣のレア度分けには、とても役立っている。このスキルを使い、田中は3つのレア度に仕分けしていた。

 すなわち、ガチャでのレア度、SR・UR・LRである。

 


「【合成】――【眼識】――SR。【合成】――【眼識】――SR。【合成】――【眼識】――SR。【合成】――【眼識】――SR。【合成】――【眼識】――SR。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。【合成】――【眼識】――お……これはURか。」

 


 

 同じ作業をひたすらに繰り返していく田中。目は死んでいる。無心で作業を行っているようだ。 

 狙ったレア度の魔剣を作成は出来ないので、

ここでもガチャ要素がある。


「……大変だね」


「作業ゲーで鍛え上げられてるから、なんとかいける。ただ、寝そうだから喋り相手になって」


 今までゲームで培ってきた経験が実を結び、田中を助けていた。それでも、寝落ちしてしまいそうになるのはどうしようもないようだが。

  

「わかった」


「ありがとな」


「うん」


「……」

 

「……」


「なんか喋ってよ……」


「考え中」


「お、おう……」


「……質問がある」


「答えれる質問だったら答えるよ」


「何でリサイクルショップで買うの? 合成元の質は大切って言ってたのに」


 田中の合成は、合成元の質が高ければ高いほど、合成後の物の出来が良いものとなる確率が高くなるのである。

 しかし、田中は新人の装備――――しかもお古を合成元にしている。これでは、最低質のSR級の魔剣は作れても、UR級の魔剣すら滅多に作れない有り様だった。まぁ最も数が必要なのはSR魔剣なので、問題はないのかもしれない。


「俺が環境のことを考えてる男だから――」


「何言ってるの?」


「――は冗談として、武器は鍛冶屋の職人が作ったものだからな……新品を魔剣に変えてることがバレたとして、自分で使ってる分には買った物なら、どう扱おうが個人の自由とか言えるのかもしれないけど、ガチャとかの販売?行為でやったら、猛批判をくらうかもしれない……」


「鍛冶屋さん、怒るの?」


「分からん。自分の作品を汚したなってキレるかもしれんし、強くしてありがとうって言ってくれるかもしれない」


 前例が無いために、田中には職人がどんな対応をしてくるのかは分からなかった。


「……リサイクルショップの武器だったらいいの?」


「だって安売りされて売れ残ってるのは、いずれ廃棄処理されるんだし、さすがに大丈夫だろ……」


「それでも怒られたら?」


「……廃棄される前にゴミ置き場で回収するとか……かな……?」


 魔法による遠距離攻撃が基本の魔剣で直接斬り合う――――ということはあまり無いのかもしれないが、切れ味がとても悪そうである……。



 

 ――――売れ残って、廃棄されるのみの中古の剣を魔剣へと変えて冒険者達へと提供する、田中。

 案外、リサイクルの観点から見ると、魔剣作りは環境に優しいのかもしれない。


 


 

 



 

  


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