第2話 怪しいパンフレット



 ハルカはダンジョン配信者である。

 美少女といっても過言ではない容姿と若くしてCランク冒険者になれる程の実力を持っている優秀な冒険者だ。

 それらを兼ね備えたダンジョン配信者ということで、話題となり、現在では30万人ものチャンネル登録者がいる人気配信者となった。


 そんなハルカだが、現在モンスターの群れに囲まれ、危機に陥っていた。

 負けじと応戦しているが、多勢に無勢。限界が近づいており、命を失うのも時間の問題だろう。


 “ハルカちゃん逃げて”

 “誰か早く救援来て!?”

 “救援まだかよ!?”


 ハルカはコメントを見る余裕はないが、推しの命の危機にコメント欄では阿鼻叫喚となっていた。


 そして――モンスターに向かって振るった剣がとうとう折れた。


「あ……終わった……。」


 “ハルカちゃん!?”

 “嘘でしょ!?”


 最期だと目を閉じ、来るであろう激痛を恐れたハルカだったが、その瞬間は訪れなかった。


 ――代わりに起きたのは、呼び掛けだった。


「あのー。大丈夫ですか?」


「え……?」


 聞こえるはずのない人の声に目を開けると、そこには少年が立っていた。

 平凡な見た目の少年だ――筋肉ムキムキの歴戦の男という風ではない。


 ハルカは助けが来たということで希望を持ったが、一瞬で砕かれてしまった。


「そんな1人だけ……。モンスターの群れがいるんです!1人だけじゃ無理です……。私が時間を稼ぎます……その隙に逃げてください」


「ん?あー、1人じゃないですよ。それにもう終わったみたいですし」


「何を言って――――え……?」


 焦るハルカだったが、異変に気づいた。

 ――聞こえないのだ。

 先程までたくさんあったモンスター達のうなり声が。まったくとして。


 そこで初めて周辺を確認し――

 辺りには群れどころかモンスターの一匹すらもいなかった。残っているのはモンスター達のドロップアイテムだけだった。


「そんな……いったい何が!?

 あなたが倒したんですか!?」


 ありえないのだ。さっきまでこの青年は目の前にいた。モンスターを倒している素振りは見せなかったはずだった。ハルカが、ベテランの域に入りつつある自分ですら目で追えないほどの速さで倒したのかと青年の実力に戦慄していると――


「なんか勘違いしてません?俺がやったんじゃないですよ。」


「じゃあ、誰が……?」


「私」


「うわっ!?」


 後ろから突然聞こえた声に驚き、振り返ると。

 ――灰色の髪の少女がいた。

 手にはモンスターの紫色の血が付いた剣を持っている。


「あなたが助けてくれたの……?」


「そう」


 灰色の少女は口数少なく、すぐに会話を終わらせてしまった。話す気がないということだろう。



「いやー、本当に間に合って良かったですよー。」


「……」


 のんびりとした青年の言葉でハルカは改めて、自分が助かったことを認識できたのだった。


「はぁ……助かったぁ。

 あの……ありがとうございます。おかげで助かりました。」


「いえいえ。では、もうモンスターもいませんし、失礼しますねー」


「……」


 もうこの場に助けは必要ないと判断し、ダンジョンの先へと進もうとする青年と少女。


「ちょ……ちょっと待ってください」


「はい?何ですか?」


「お名前を教えてください。私の事務所でお礼をしたいんです……!」


「事務所?」


「はい!私、ダンジョン配信者をやっているんです!」


「そうなんですか……うーん……」


 青年は少し迷い


「別にお礼は良いですよ。代わりに、このパンフレットを受け取ってください」


「はい……?パンフレット……ですか?」


「はい。お店を開く予定なので、宣伝みたいなものです」


「はぁ」


「それにしても配信かー。今度やってみようかな」


 青年はパンフレットをハルカに渡すと、少女と一緒に用は済んだとばかりにさっさと行ってしまった。


「なんでパンフレット……?まぁ命が助かったんだしいっか……」


 

「あ、そういえばコメント欄見てなかった」


 “ハルカちゃん無事で良かった!!”

 “あの二人ナイスすぎる!”

 “あの灰色の髪の子可愛い”


「あ、みんな心配してくれてありがとう!なんとか助かったよ!」


 “パンフレットが気になりすぎる”

 “てか、何でパンフレット渡したんだ?”


「たしかに何のパンフレットか気になるね」


 折り畳まれたパンフレットを開くと、そこには――


『ダンジョンアイテムガチャ屋』

(もしかしたら、伝説の武器が手に入るかも!?)


 続きには、ラインナップについて書かれていたが、あまりにも怪しすぎるパンフレットだった。


「何これ……怪しすぎる」


 “こんなの誰も行かないでしょw”

 “それな!”


「でも、命を救われたし、行かないのはなぁ」


 “やめといた方がいいって”

 “絶対危ないやつ”

 “あいつら名前名乗らなかったしな”


 ――こうして1人のダンジョン配信者の命は救われた。命を助けた代わりに渡されたのは、怪しすぎるパンフレット。

 だが、この出会いにより、ハルカの未来は大きく変わることになるのだった。


 それから少ししてハルカを助けた青年と少女がこれまでの常識を壊す、とある配信を行ったことで――――


  


 


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