第8話 杏花の部屋

 ――後日。


 杏花と一緒に、俺は杏花の部屋の前にいる。


 ここに来るのは……小学生の頃以来で緊張する。


「大翔のオタクルーム見ちゃったからさ? 私も……自分の部屋、見せようと思って。でも……ヤバすぎて引かれるかもしれない……」


 急に杏花は部屋を見せることを躊躇い始めた。


「えーなんだよ、誰のファンなんだよ」


 そう聞きつつ、覚悟を決めた杏花に手を引かれ、ドアの中に入ってみると……


 杏花の部屋の壁に貼られていたのは、俺の写真だった。しかもポスターサイズ。しかも、何種類も。


「え……」


「あ、待って!! 引かないで!! 違うの!! 最初はね、理恵から大翔の写真買ってたんだよ。ほら、みんなが私の写真買うのと同じ感覚で!! でもさ、だんだん理恵が大翔の写真くれるようになって、それがだんだんポスターサイズになって……で、せっかくもらったら……飾るじゃん? イベントの度に増えてくじゃん?? で、こうなった……」


 恥ずかしそうに俺の顔をちらちらと見てくる杏花の頬が、ほんのりピンクになっていて可愛い。


「全く、高見のやつ……」


 確かに高見は、俺にも写真の販売許可を取りに来たことがあった。けれど、誰にでも形式的にしている事だと思っていた。まさか杏花の部屋に飾られていたとは。


「理恵はね、ずっと……私が大翔の事好きなの知ってて応援してくれてたんだ。それでね……」


 杏花が高見について話し始めた。


 高見は、……そもそもは杏花に俺のいい写真をあげようと俺の試合を追いかけてくれていたらしい。そして、俺の好みなどの情報を引き出すために、俺に手伝いをお願いしていた。


 そんな日々を送っているうちに、だんだん高見は俺の事を好きになってしまった。杏花を応援している気持ちは本当なのに、自分の感情も抑えられなくなって、誰にも言えずに苦しんでいた。……でも、杏花の好きな人なのに好きになってしまってごめんねと、あの後謝って来たとのこと。


 そして、俺のところにもしっかりと『好きです。ください』と、わざわざ振られに来た。


 どこまでも律儀で、親友想いないいやつだと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る