第6話 杏花の涙

 次の日、俺は複雑な気持ちのまま登校した。


 校門そばにある掲示板には人だかりが出来ていて、昨日の学園祭の学内新聞が張り出されていた。


 一番のメイン記事は、YOU☆Do knowのステージ。その中でも杏花の写真がひときわ大きい。


 けれどそれは、そのステージで最も盛り上がった瞬間のはずだったあの写真、俺の部屋に貼られていた写真ではなかった。


「はーい、一枚100円だからねー!! まとめ買い大歓迎だよ!」


 掲示板のすぐ横には簡易テーブルが置かれていて、いつもの如く高見が学園祭で撮った写真を売りさばいている。


 その見本写真の中にも、“あの写真” はなかった。


 おかしいな。高見はあの写真を撮った瞬間、『よし、杏花ナイス!! 今ばっちり良い写真撮れたわよぉおお!!』と興奮していたのに。


 実際、最高にいい写真だった。売ればバカ売れ間違いなしだと断言できるほどだったのに。



 昼休み。不思議に思って高見に声を掛けた。


「なあ、高見ー。昨日、“ばっちり良い写真撮れたー” って喜んでた時の写真は? なんであれ売ってなかったんだよ」


「え? ああ……杏花が好きな人にだけ見せたいって言ったから。でも、プリントして杏花に渡したよ? 大翔君まだもらってない? あ! 待って、口が滑った! 今のなし」


 高見は口元を押さえて“しまった” というような顔をしている。


「ん、ああ」


 俺もまさか俺の部屋に貼り付けられてたなんて言えなくて、言葉を濁した。すると唐突に質問をぶつけられた。


「大翔君は……杏花の事、どう思ってるの? ただの幼馴染みって感じ?」


 けれどそれは、今の俺には触れて欲しくないこと。


「んー。うん。そうだよ」


 だから適当に肯定した。


「……ただの幼馴染み、かあ……。じゃあ、私……は?」


「え?」


 なんだろう、この空気。高見の、俺を見つめる瞳。冗談ばかり言い合う仲だと思っていたのに、急に……高見は女の子なのだと感じた。


 その時、あたりがざわめき始めた。


(なんだ??)


 周囲の視線の先を辿ってみると、そこにいたのは……杏花。いつの間にか俺たちのすぐそばにいた杏花が、唇を震わせながら……涙を流していたのだ。


「え、時枝!?」


 俺が杏花の涙に気付いた時、杏花はさらに涙で顔を歪ませ、勢いよく教室から飛び出して行った。


「ちょ、待って!!」



――『大翔君は……杏花の事、どう思ってるの? ただの幼馴染みって感じ?』


『んー。うん。そうだよ』


『……ただの幼馴染み、かあ……。じゃあ、私……は?』――


 もしも杏花が本当に俺の事を好きだとしたら……


 今の会話を聞かれたのは、完全に、まずい。


 俺は必死に杏花を追いかけた。

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