二十三年 五月  漂うミズクラゲ

 今回のお題は、青い水槽の中に風船のようなクラゲが何匹も漂っている写真でした。水母くらげ海月くらげは夏の季語です。さて、クラゲは数年前から何度もブームになっていて、種類が豊富なので検索すると楽しいですから是非調べて頂きたいと思うのですが、今回のクラゲは認知度の高い至極普通の「ミズクラゲ」です。見ているだけで癒やされる、という感想をよく耳にしますが、運命に逆らったことなんか一度もないんじゃないかと思える幸せそうな見た目が、ある種の羨望の的になっているように思えます。しかしこれらは人間が根拠も無しに勝手に拵えたイメージであって、本来のクラゲの姿を確かめてから作句するべきではないかと思います。例えば、ミズクラゲは遊泳能力に乏しく、多くの魚やまさかの同族のクラゲたちの栄養源です。本人は主食の動物性プランクトンや小魚は触手のでブチブチ刺して麻痺させると粘着性の刺糸でネバネバにまとめて口に運んで食べています。そんな食物連鎖の渦に巻き込まれている切なさがわたしに詠めるのでしょうか。


☆ 月の道水母くらげの大群粛々と


 季語は「水母」です。「月」ももちろん季語ですが、筆者はどうしても海原を照らす「月の光の道」を粛々と進んでゆく水母の大群が描きたかったので、季重なりは無視して作りました。月に憧れて、泳ぐのが下手なのに、数え切れないほどの水母がモシャモシャチャプチャプと月夜の海を泳いでゆくのです。ちょっとムーミンのニョロニョロに似てしまったかな? 並選でした。


☆☆ 月光の海みずくらげ透きとおる


 だから。どうしても水母とお月様が詠みたかったの!

 主なる季語は「みずくらげ」で脇役の季語が「月光」です。

 静かに凪いだ夜の海です。満月の光が水底まで突き通すように刺しています。その光を全身に浴びたみずくらげは、まるで宙に浮いたような気がしました。その柔らかな姿は月光に溶け込み、跡形もなく透きとおるのでした。

みずくらげはやわらかさと繊細さを表現するために平仮名にしました。人選でした。

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