船上試験開始 前日

第5話 会場を出て歩く①

 話を戻して、現在に至る。


 ルール説明を聞き、阿鼻叫喚になっている会場を後にして、博人は自分の持ち物の確認をした。


「(持ち物は……手首から外れないリストバンドと……金属製のカード……だけか。)」

 

 銀色のリストバンドに触れてみるが何も起こらない。重さも特に感じない。

 金属製のようなカードはなめらかな肌触りだが、それだけだ。

 ICカードのようにも見える。


――よく見てみると裏面に『HIROTO SAEKI』 と書かれている。個人に割り当てられるカードのようだ。


 そこまで確認を終えると博人は船内を探索することにした。


「手始めにこの階から見て回ろう」


 誰に伝えるでもなくつぶやくと、あたりを見回しながら進んでいく。

 そして、ようやく吹き抜けになっている場所についた。


 手すりから眺めるに、今いるのは3階部分。

 そして、1階の吹き抜け中央は商業区画のようだ。中央に大きな店があり、そこに続く道沿いには露店のようなものが立ち並んでいる。


「あとで見に行くか」


 まずは予定通り3階の探索を続けることに決め、また狭い通路を進んでいく。


 すると、番号と名前の書かれた扉があった。

『001 KOUTARO TACHIBANA』 『002 HIKARI SENNJU』


「これは、部屋の番号と名前……?」


 次のドアには見慣れた文字があった。『003 HIROTO SAEKI』。

 扉のノブに手をかけるが、ピクリともしない。もう一度扉を見てみると、カードをタッチする機械が取り付けられていた。


「本当に何も教えてくれないんだな」


 小さくつぶやき、ポケットに入れたICカードを扉にかざす。

 

 カチッ。

 

かすかな音を合図に、博人は扉を押して中に入った。



 そこには、生活に必要最低限のものが置かれていた。


 まずはベッドだ。

 学校の病室に置かれているような形のベッドだが、クッション等はなく固い。

 寝られはするが、これから30日間はとても耐えられそうになかった。


 次に机だ。なぜ机があるのか分からないが、子供の勉強机くらいしっかりしている。

 ベッドと品質逆だろ。

 心の中でツッコミを入れて、机の上を確認する。




『部屋に入ったら必ず読もう☆上』と書かれた紙1枚と消しゴム付き鉛筆1本のみがぽつんと置かれていた。


「まずは読んでみよう」

 紙に目を落とすと、こう書かれていた。



『部屋に入ったら必ず読もう(上)


 ベッドのクッションは部屋☆の中にありません。

 洗面台の水は飲んで、☆いいよ

 机の上にある鉛☆筆は、部屋からそーっと持ち出して使うのは

 ぜったいにやめよう

 ☆夜は外に出ても出なくてもよい☆』



 博人はその紙だけを机に置き、自分の部屋から出た。




 ※ご覧いただきありがとうございます。

 ちょっとでもいいなと思ったら、☆や♡をいただけると、励みになります!

 ぜひ、書き方のアドバイスもください。待ってます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る