第34話 セッティング
第34話 セッティング
次に各被害者に対する犯行準備行動であるが、先ず高田ケンタロウは『星夜の誓ムーヴィ』の上映会を行って、星夜の誓グッズに潜ませた『デス』の配布も同時に行うことを計画していたが、都合の良いことに、D512グループの結成が行われて間も無く、プレルームチャットでオフ会を呼び掛けるコージというニックネームの存在を知った。
ケンタロウは『どこの人?』と問われ、『東京だ』と答えると、『六月下旬の三連休の真ん中で、お昼に東京でオフ会があるから参加しないか?』と訊かれた。参加者は結構いるらしい。ケンタロウはオフ会への参加を決めた。
ケンタロウは、オフ会でムーヴィの上映会をすることが一番好都合と考え、東北北海道地区と、関西地区で自らオフ会を企画しようと考えた。そして、あらゆる時間帯のプレルームチャットを、キャラクターとニックネームを変えて覗いた。
このチャットルームは、自分の顔を出さなくても良いのだ。参加したチャットルームではたいてい先客がいて『君はどこの人?』と問うコージがいた。
この時ケンタロウは、たぶん青森とか札幌とか答えたのだろう。するとコージは『仙台でオフ会をやろうと思うので来ないか?』と訊く。参加予定者も結構居ると云う。
そんなことを繰り返している内に、このコージが仙台、東京、大阪、福岡の四箇所で、三連休四レンチャンで熱心にオフ会を企画していることがわかった。それもかなりの人数が参加する。
ケンタロウはコージのオフ会を全面的に利用することにした。
実はこのハンドルネーム=コージが、先ほどの泉谷コージ君だった。
一つ目の仙台で、コージとケンタロウは初対面をした。その席で、オフライン版の旧『星夜の誓』のオリジナルムーヴィを作ったので、皆に見てもらいたいとケンタロウが申し出る。泉谷君が断る理由は無かった。
それを見た参加者は、異常なほど盛り上がったと云う。作品の出来は悪くなかったが、その興奮は、サブリミナル効果を利用したイメージが挿入された為だと推定される。
短期的に擬似神経過敏症になった参加者達は、ムーヴィから受ける刺激を連鎖増幅させたに違いない。そして、その中にキーワード、あるいはキーキャラクター、またはキーサウンド(キーノイズ)を見たり聞いたりすると、瞬時に擬似神経過敏症に戻るという『後催眠』の暗示が仕組まれていたのではないか。
そして、それは恐らく『デス』が特定条件下で発する超音波ノイズだろう。
デスの分析結果からは、目的のわからない、超音波ノイズを発する発信子が見つかっているからだ。
ムーヴィが終わると、ケンタロウは親戚のメーカーが作ったと云う『星夜の誓』限定グッズを、参加者全員にプレゼントした。
何種類かあって、どれもゲーマーなら傍に置いておきたいものばかりだった。勿論、この中には『デス』が埋め込まれていたのだ。
次の東京のオフ会にもケンタロウが現れて、泉谷君は非常に驚いたらしいが、結局全部のオフ会で同様のことが行われた。
結果として、ムーヴィを四回見た泉谷君は、何となくそのムーヴィの興奮に引っ掛かっていて、それが何かを目的とする、サブリミナル効果を使ったものではないかと疑うことになったのだ。
泉谷君のオフ会名簿を調査した所、十人の害者全員がオフ会に参加していたことがわかった。東京のオフ会には、ケンタロウのターゲット、黒川アンナも参加していた。
アンナをオフ会に強く誘ったのがケンタロウであることも、泉谷君の話でわかった。
泉谷君は一つ年上の美人のアンナが、とても気になったらしく、ムーヴィの時、アンナをちらちらと見ていたそうだ。アンナが外の人たちと同じ様に興奮していた時、最後部にいたケンタロウが、そのアンナを見て不気味に笑っていたことを覚えているという。
さて事件の当日であるが、この日黒川アンナは、オンラインゲームに参加して、『光線剣』をどのように掴まされたのだろうか? 何故、始めにアンナを殺害しなかったのか?
後の方の問いに対しては、私はこう考える。憎きドクター黒川の娘には、単純な死ではなく、人を切り刻ませることで、脳外科手術するドクター黒川に、彼女をなぞらえさせてから、十分に苦しませて殺すことを選択した。
罠に嵌ったアンナは、九人を殺してから、最後の十人目の被害者となった。
これを裏付ける傍証として、ジョディ黒川すなわちアンナの母は、当日の夕刻まで外出するように仕組まれたようだ。
その数日前、ジョディの友人宅に、ブロードウェイからやってきた大ヒットミュージカルの、ペアチケット招待券が送られて来た。
ジョディの友人は無頓着な人で、それがどこから送られて来たかは、さほど気にならなかったと言う。ただ彼女が思いついたのは、ニューヨーク出身の友人、ジョディと一緒に見れば、本場ミュージカルを十分楽しめるだろうということだけだった。
勿論友人の誘いに対し、ジョディは二つ返事でOKした。またドクター黒川も、早くから医師連主催のゴルフで、当日は不在であることがわかっていた。
そして『光線剣』の方だが、石倉の光線剣メモには『ムラサメ』という文字があった。
ゲームプログラムの武器アイテムで、聖剣ムラサメと云うものがあり、ゲーム上で光線剣を手にしたものは、ムラサメと誤認して使用可能なアイテムとして認識される。
この武器の攻撃を受ける相手方には、ムラサメと認識させた上で、その場で相手プログラムを短期的に書き換える。そのような仕組みだろうとケンタウルスの永塚恵一は言う。
但し、オンラインサーバーを通して、相手のプログラムを書き換えることは絶対にできないとも、彼は言う。
そうなると、プログラム書き換えウィルス入りのメールなどによるものか、直接被害者宅に出向いて工作したのか、という問題点は依然として残るが、それは一応ここでは保留して置く。
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