第10話 オンラインゲームにて人身事故発生との報道

第10話 オンラインゲームにて人身事故発生との報道


 暫くしてからタケルが口を開き、何故女兵士がプレーヤーだと思うのか、何故実際に殺したと感じたか、普通のプレーとどこが違っていたか、一つ一つ説明を始め、三人もそれを聴いて検討して行く形になった。


 光線剣で斬った時に女兵士の両腕が飛んだこと、それ自体は競合プレーヤーでは考えられないことだから、CPUが作り出した敵キャラであることの証明のように思える。

 一方で、攻撃されることを本気で恐れていた様子、最後に「もうやめて……」と命乞いしたこと、これらは敵キャラとしては考えられない反応だ。

 かと言って、あれが競合プレーヤーだとしても、そんな命乞いは普通しない筈だろう。

 やっぱり、両腕が切り落とされた痛みとショックが本物だったから、彼女に死の恐怖を与えてしまったのではないのか?

 とどめを刺した時のこと……それを考えただけで、タケルはまた震え出した。


「頭が真っ二つになって、脳みそが流れ出した……アイツの背中には、半分子の顔が、首の皮だけで逆さにぶら下がっていた……」

 タケルは独白した。


「何言ってるの?」

 ヒロシが後ずさった。


 イチローは、意味を理解できないという様にぽかんと口を開け、シンジは事態の異様さに気付いて黙り込んだ。


「そいつ黒くならなかったのか?」とシンジが訊く。


「全然……」とタケルが答える。


「その光線剣どうした?」シンジがさらに質問する。


「あの場に捨てて来た」タケルが答えた。


「どうやらその光線剣に、重要な秘密がありそうだな」

 シンジはタケルを見下ろした目を、ヒロシに向けて止めた。

 ヒロシは「そうだね」と静かに反応した。


「勝手に動くし」タケルが呟く。


 その言葉の意味を問われ、タケルはライフルの銃弾を、光線剣が勝手に反応して弾き飛ばした事を話した。

 そしてあの声のことを話した……(光線剣で、目の前の敵を斬れ!)そう誰かが、頭の中に直接呼び掛けたこと。


「ヒロシ達はあのエリアをクリアしてる筈だから……イチロー、明日、俺達だけで光線剣を探しに行こう。女兵士の死体を確認するんだ」

 そうシンジが提案すると、ヒロシが頼むよと同意した。


「またシュートミーとの対決かよ。俺達二人だけで大丈夫かな?」

 イチローが怖気づくと、シンジがジロリと睨んだ。


「わかったわかった」と、しょうがなくイチローは同意した。


 タケルだけは沈黙していた。


「まあ俺達に任せて、報告を楽しみに待っててくれ。きっと後になれば笑い話になるさ」


 シンジがそう言うと、ヒロシもイチローも一緒になって、三人が右手を重ね合わせ「星夜に誓って」と声を揃えた。


 間も無く四人は、アフタールームで解散した。




 翌日七月三日の夕方……


 某民放TVのニュースで、短いスクープ報道があった。

「最近少年少女の間で、爆発的ブームを巻き起こしつつある、ロールプレイングゲーム『星夜の誓』ですが……

 ゲームソフトメーカー『ケンタウルス』は、このオンラインネット対戦ゲーム版について、一斉点検が終了するまでの間、オンラインサービスを無期限停止すると、明朝正式に発表する模様です。

 詳しい状況については現在の所 不明ですが、複数の人身事故が発生しているという未確認情報もあります。

 本件については、詳しい状況がわかり次第続報をお知らせいたします……さて次のニュースですが……」


 ニュースを見ていたシンジは、「人身事故」と云う言葉が、昨日タケルから聴いた話と、関係が有るかも知れないと気にはなったが、それ以上に、昼に外出したきり帰って来ないネコのミーコの行方も気になっていた。

 妹が過剰にミーコの心配をするのと「大丈夫だよ、明日になれば帰って来るさ」と言う、両親の気楽さが対照的だった。

 シンジ自身は、妹のことを考えると気が気でなかった。


 イチローの家でも、飼い猫のレオが昼過ぎから帰らず、彼は夕食後、近所を二時間ほど掛けて探し回ったが、その甲斐も無く、レオは見つからなかった。



 その翌日、七月四日……

 午前中の授業が終わって午後零時十分には、小学CAFEのテーブルに、タケル、ヒロシ、シンジ、イチローの四人全員が顔を揃えていた。


「昨日の夜のニュース見たか?」


「今朝のニュースの方が詳しいらしいよ」

 ヒロシはテーブルのマイクに向かって「今日のTVニュース」と言った。


 テーブルから小型ディスプレーが立ち上がり、ニュースの項目がずらりと並ぶ。

 ヒロシは「RPG『星夜の誓』で人身事故発生?」という項目をタッチした。

 次いで視聴域制限を掛ける。

 これでこのテーブル以外のメンバーには、映像も見えないし音も全く聞こえない。


「……二日前の七月二日、オンラインRPG『星夜の誓』をプレイ中の、少年少女合わせて十名が突然死しました。

 その原因は不明です。警察当局は、何が起きたのか全力で捜査に当たっていますが、今の所これといった手掛かりは掴んでいない模様です……」


 四人は青くなった顔を見合わせた。


「昨日のTVニュースで言っていた人身事故って、十人も死んだのか?」とシンジ。


「みたいだね」ヒロシは、シンジとタケルを見た。


 タケルは、両手で頭を抱えて俯いた。


「タケルがやった女の子もそれに入ってるのかな?」


「イチロー!」とシンジがたしなめると、イチローは「だって……」と口ごもった。


「オンラインサービスの停止で、俺達の調査はできなかったし、これからどうしたらいいんだ?」

 シンジには良い考えが浮かばない。


「暫く様子を見るしか無いよ」

 ヒロシは、まだ下を向いて頭を上げようとしないタケルに、心配そうな視線を送った。


「警察に連絡した方が良いかな……」

 下を向いたままのタケルが呟く。


「いや、ここはもう少し皆で様子を見よう」

 シンジが皆の目を確認して大きく頷いた。


「そうだね」「俺もその方が良いと思う」ヒロシとイチローも即座に同意する。


「じゃあ、このことは俺達四人だけの秘密だ」

 シンジが宣言する。


「おう!」

 ヒロシとイチローが声を揃えると、タケルは視線の定まらないままで皆の顔をのろのろと見回した。

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