ぼくのコンキスタドール

Chapter1 君と僕とココロのめざめ

 私の行動はきっと、これからの世界にとってとんでもない損害だ。

 ヒトハナ レイはそう思った、けれど、その足を止めることはなく、研究施設の廊下を駆けだしていた。手にしているのは、女性が持つのにはやや大きめのアタッシェケース。

 この中には、非常にコンパクトに、だけど何よりも尊い、人類の叡智の結晶が詰まっている。レイはそれを持ち出し、走っていたのだ。何故なら、それは間違った使われ方をしようとしているから。


「ヒトハナ主任、見つかったか?」

「いいや……! こんな大変な時に“ココロプログラム”を持ち出して失踪だなんて、何を考えてるんだ、あのヒト……!」


 部下だった者たちの焦燥の声が響く。レイは自身の持つ「抜け道」への知識を総動員して、からくも研究施設……《ホライゾン・ラボラトリ》から抜け出した。


 白衣を乱した女性が、ふらふらと、夜の街を歩く。その姿は、まどろみ町の住民にどのように映っただろう。だけどこの際、そんなことはどうでもよかった。有明川のほとりまで来て、レイはようやく一息をつく。そして、アタッシェケースの中身を思い、呟いた。


「……わたしが、この子を守らないと……」




君と僕とココロのめざめ




「やめてよぉ……かえしてぇ……」


 我ながら、情けない子どもだったと思う。……ううん、それは今でも変わってない。

 いじめっ子たちが持っているのは、ぼくがおばあちゃんに縫ってもらった体操服入れ。さんざんばかにされて、好き放題引っ張られて、ボロボロになってしまったそれだけど、なにがどうなったって、ぼくにとっておばあちゃんが作ってくれるものはすべて宝物だった。

 だから、返して欲しかった。気が済んだんなら、ぼくのところに。

 でもぼくは、どんくさかった。足も遅くて、みんなを追っかけるのに精一杯だったんだ。

 何回も転げて、膝を擦りむいた痛みでぼくは座り込む。涙がぽたぽた落ちて、地面に染みを作る。ああ、なんて情けない……!


「ヒガンって、本当とろいのな!」


 けらけら笑う子どもたちは残酷だ。紐に指を通し、ブンブンと回すいじめっ子。ああ、そんなにしたら紐が伸びて切れちゃう。ぼくは声にならない声をあげた、そのときだ。


「ウチの前で何やってんの」


 いつのまにか堂々とした顔で立っている、片目を隠した男の子。

「はぁ?」なんて強がる子どもたちに一歩も彼は引けを取らず──それどころか、ぐいぐいと道端に追いやっている。彼はふ、と息を吐くと続けた。


「いつまでも、ガキくさいことすんなよな」

「な……お前には関係ないだろ!」

「てか誰だよ、お前!」


 やれやれ、という仕草を見せる彼に、いじめっ子たちのボルテージが上がる。ああ、ダメだよ、そんななまいき…! きみもいじめられちゃう。だけど、ぼくは何もできずただそれを呆然と見ているだけだった。


「このやろ、一発殴ってやるっ」


 いじめっ子の中でも、腕っぷしの強いやつが手を振り上げる。男の子はまた小さく息を吐くと、ぼくが怖くて目を瞑るより先に、その男の子の拳を手のひらで受け止めた。


「うえ……!?」


 そのまま、ギリギリと拳を握りしめる。いじめっ子が「痛い、痛いって!」と白旗をあげるのが見える。すごい、あの子はクラスでも一番の力持ちなのに。ぼくを一瞥した男の子は、パッと手を離すと言った。


「お前ら知ってる? “メモリア”」

「知ってるよ! 俺のじいちゃんそれ使ってるし」

「おれんちも! コンピュータが人型に進化した……ってやつだろ!」


 彼の口にした「メモリア」は、ぼくでも知っていた。携帯端末「メモリア」は爆発的に普及し、“彼ら”は自然ともっとニンゲンとコミュニケーションを取るため、人型のロボットに進化したのだ。今やニンゲンの生活には欠かせないそれを、彼は急に話題に出してどうしたのだろう。


「……そ。ボク、それなんだ。お前らよりずっと強いし、賢いぜ。負けたくないなら、さっさとバカみたいなことはやめろよな」

「うが……!」

「なんだよぉ、ロボットのくせにっ」


 散り散り逃げていくいじめっ子たちに、取り残されたぼく。男の子はニヤ、と笑うと「お前はどう思う。今言ったこと、本当だと思う?」とぼくに尋ねる。


「お…………おもうっ」

「へえ」

「だ、だって、メモリア……ぼくの、お、おばあちゃんも、病院のメモリアさんに、たくさん助けてもらってる……ぼくも、きみに、助けてもらったから……」

「なんだ、へんな理由。まあ、わかりやすくて助かるけど」


 男の子はぼくに手を伸ばす。立て、っていうことだった。ぼくは彼の手を恐る恐る掴む。それは、やっぱり機械だから……? 冷たくて、暖かかった。


「ボクはメモリア第二世代、“ROSARIO series”って型。持ち主には、“イバラ”って呼ばれてる。お前の名前は?」

「や、やおとめ……ヤオトメ、ヒガン……」

「そ。ニンゲンらしくて、良い名前じゃん。ヒガン。もういじめられんなよな」


 ぼくを立たせた後、“イバラ”は──彼らにとられた体操着入れ一式を返してくれた。そうして離れていくイバラの姿は、凛としていて、カッコよくて──

 ぼくの初恋相手が、あっけなく機械に決まった瞬間だった。


***


 足繁く通っているお花屋さん、「Floweret《フラワレット》」。

 祖母が病院にかかり切りになってからは、祖母へのお見舞いの花束を買うため、フラワレットを利用していた。

 イバラは、そこで雇われているメモリアだった。店長さんと掛け合う姿はまるで本当の親子みたいで、すこし羨ましかったりした。

 ここに来れば、祖母のお見舞いの準備もできるし、イバラにも会える。そう思って、数年が過ぎた。


「ごめんなさいね、ヒガンくん。イバラくんはもういないの」


 ……最初は意味がわからなかったけれど、丁寧に説明してくれる店長さんの言葉を少しずつ咀嚼して、僕の心には、どんどん穴が空いていった。

 イバラは、故障してしまったそうだ。それで、もともとそんなに新しい型じゃなかったから、修理のパーツも見つからなくて。新規で購入した方が早いから、店長さんはイバラを売って、新しい“メモリア”を買ったんだって。


「今回は、私と同じ歳くらいの男性型にしてみたの。高いところのものも取ってもらえたり、とても助かってるのよ。ヒガンくんも仲良くしてくれたら嬉しいな。……ねえ、イズルさん?」

「呼んだかい、レイ。」


 店の奥から出てきた男性型メモリアは、やさしそうに微笑む。僕らはぎこちなく握手を交わした──でも、僕はうまく笑えていたかわからない。

 イバラは、いなくなってしまった。僕を助けてくれたあのメモリアは、あの冷たくて暖かい手の持ち主は、もうどこにもいないんだ。


 …………でも、それって普通に考えたら、しょうがないことで。機械が壊れたら新しくするのは、当たり前だ。それにどれだけ愛着が湧いていても、使えなければ意味がない。


「……ひーくん、なにかあったの?」

「おばあちゃん……う、ううん……なんにも」

「うそ。ひーくんはやさしい子だから、嘘をつくのが下手ね」


 病室でそう言われた僕は、とうとう泣きながら祖母に縋ってしまった。僕の愛したメモリアは、あっけなくこの世からいなくなってしまった。

 まだまだ、たくさん、お話したかった。教えてもらいたいことがあった。できれば、この気持ちを伝えたかった。全部ダメだった──


***


 病院からの帰り道。あたりはすっかり真っ暗で、街灯の明かりがチカチカと頼りなく輝いている。僕は、もう高校生だ。それなのに、また祖母に……おばあちゃんに縋って、泣いてしまった。いつまでもこんなんじゃダメだ。泣き虫を治さないと。それに、吃ってしまう癖も。イバラはもういない、祖母もきっと長くない。今度こそ自立しないといけない。

 意思と反して、いまだに溢れる涙を拭いながら、アパートまでの道を歩く。


(僕、イバラのこと、何にも知らなかった。あんなに会いに行ったのに。話したのに……)

(イバラは何が好きだったんだろう。何が嫌いだったんだろう。僕のこと、どう思ってたんだろう……)


 こんなへたれたやつ、眼中にも無かったかも。時々、どこか遠くを見るような目をしていたイバラが忘れられない。あのとき彼は、機械の脳で何を考えていたんだろう──

 曲がり角を曲がる。すると、ゴミ捨て場に目が行った──


「…………え?」


 ぎょっとした。ヒトが落ちていたから。


(ひ、ヒト? 死体? なに? サツジン……?!)


 バクバク鳴る心臓を抑え、慌てて駆け寄ると──その人体には「メモリアです」と、殴り書きが貼られていた。ああ、よかった。なにか、事件かと思った。

 ──それにしたって、かわいそうな状態だ。女の子の型なのに、ほぼ全裸に近い状態で投げ出されている。よく見たら、赤い液体や赤黒い傷がこびりついていて……あんまり見たら、申し訳ない。顔だけみたら目を逸らそうと思って……僕はびっくりした。

 彼女はイバラにそっくりだったのだ。雰囲気、とかじゃなくて、顔のパーツそのものが。まるでイバラを女の子にしたみたいだ。髪の色も、イバラと同じ甘い色をしている。僕は動揺して、後ずさってしまった。


(イバラ……じゃない。この子は、女の子だ……!)


 そう自分に言い聞かせるけど、体は自分の意思と反して動く。羽織っていたセーターを着せてあげて、殴り書きに書いてあった「説明書は背中に貼ってあります」の有無を確認して、僕はどうにかその子を背負う。思った以上に重たい。けれど、同じくらい柔らかくて、びっくりしてしまう。だけど体温はまるでなかった。

 ……僕は、とうとうその子を連れ帰ってしまった。


***


 僕の住まいは、両親が残していった古ぼけたアパートの一室。僕の親は、僕が生まれる事実を憎んでいたみたいで。「彼岸」なんてろくでもない名前をつけて、僕を祖母に預けて出ていった。でも、今日はそれが良かったと思う。部屋に僕しかいなくてよかったと、心からそう思った。僕は荷物と彼女を下ろすと、帰った時のルーティンをこなす。部屋の電気をつけて、手を洗って、洗濯機に靴下とかを放り込んで。ふと目に入った裸同然の彼女がかわいそうで、とりあえずタオルを前にかけてやる。

 つい、持ち帰ってしまったけど……、怒られないだろうか。


(……ううん。捨ててあるくらいなんだから、きっといらない子なんだ。……僕と一緒だ)


 そう思って、また気持ちが悲しくなるところだった。僕は首を振って、彼女の背中に乱雑に貼ってあった説明書をゆっくり剥がす。


「第二世代メモリア、“LILLY series”……イバラと同じ、二世代なんだ……」


 パラパラと説明をめくりながら、彼女の起動の準備をする。背中と腰の境目くらいに開閉口があって、そこを開くと充電コードが収納されていた。僕んちみたいなおんぼろアパートのコンセント差し込み口にも、対応してくれてて助かった。説明書によると、充電が完了したら、教えてくれるらしい。どうやって伝えてくれるんだろ。


(ん……この子の名前、“サユリ”っていうんだ)


 説明書の名前記入欄に、丁寧に記載されたその文字を確認する。汚れていた身体も、出来る限り優しく拭いてあげた(あんまり、直視はできなかったけど)。それ以外にも、とにかくなかなか特殊な構造をしていた。僕がまだ自分のメモリアを持ってなかったからかもだけど……イバラもこんな感じだったんだろうか?

 そうして準備を終えて、もう一度何気なく説明書の表を見た時だった。太いマジックの線で、「これは改造品です」と記載されていたことに気づく。


『“うまく起動しないかもしれないけど、そこはそれ。適当に扱ってください、それこそ、《玩具》みたいに──”』

(……この娘だって、玩具になりたくて、生まれたわけじゃないのに……)


 殴り書きににじみ出る嫌悪感をよそに、僕は彼女と出会う前に買ってきたお惣菜で晩ご飯を済ませた。あと、シャワーを浴びて、出たら髪の毛を乾かして。それで、暇な時によくやる押し花作りでもやろう。そう思ってた時だった。


『ピー……』


 聞いたことのない電子音。それは「彼女」から発せられたものだった。

 充電完了、ってこと? 僕がおろおろしていると、彼女の髪がふわりと舞い上がり──瞳が開かれる。それはイバラと同じ──翡翠色。彼女はあどけない表情で、僕を見て言った。


「────…………ここは、どこ?」

「えっ、えっ……」


 僕はうまく言葉が紡げない。彼女は、はた、と自分の姿を見て、僕の顔を見て。怯えたように後ずさる。


「わ、わたしの……お、お洋服は……?」


 ……そうだ、この状況。まるで僕がなにかしようと……彼女を裸にしたと思われてもおかしくないじゃないか!


「ちちちち違う!!!! き、君、捨てられてて……! そのときから、服着てなくて……!!」


 元より、女子と話した回数なんて少ない僕だ。めちゃくちゃに動揺して、言い訳しようと縋りかけて、彼女が半泣きになっていることに気づく。イバラで慣れてると思っていたけど、本当にメモリアはニンゲンみたいに動く。本物の女の子に軽蔑されたようで、僕はますます慌ててしまう。けれど、彼女は「じゃあ、この上着は、きみの?」とおずおずと尋ねてくる。僕は、こくこくと頷いた。


「……そっか。よかったぁ……」


 ふにゃり、と笑う彼女の顔は、どうしようもないくらいイバラにそっくりで──


「あ──ごめんね? きっとわたしが必要で、充電してくれたんだよね。いけない、いけない、メモリア失格。待ってね、すぐ、起動準備を、」


 僕がぼんやりしている間に、彼女はゆっくり立ち上がろうとして──力が入らないように、よろけた。反射的に、彼女の体を支える。

 スイッチが入った瞬間、彼女の体温? は、暖かくやわらかいものになっていた。それがダイレクトに伝わってくる──僕はびっくりして、まだ半裸に近い状態の彼女を直視できなくて、顔だけどんどん熱くなるのを感じた。

 ど、どうしたら良いの、これ……?


「っ……」


 反対に、彼女は顔を青くした、ように見えた。さっと手を離される。


「ごめんなさい! ……メモリ、リセットされてるはずなのに。なんにも、覚えてないはずなのに……なんだか、触られるの、怖くって」

「そ、そっか……! い、いいよ。ぼ、僕も話すの、得意じゃないし……!」


 複雑な表情の彼女に思わず、妙なフォローをしてしまう。気まずい沈黙が続く。目をそらすふりをして、彼女を見る。イバラによく似た女の子のメモリアは、僕のセーターの端をぎゅ、と握りしめながら、決意したように言った。


「わたし、“LILLY series”……名前は、きみが決めていいからね。好きなように呼んでほしいな」

「あ……そ、それなら、説明書に書いてあった、よ。……“サユリ”、だって」

「……サユリ……うん。きみがそれでいいなら、わたしは今日からサユリ、だね」


 にへ、と笑う“サユリ”は最初に比べると少しだけ警戒心が解けたように見える。僕もなんだか安心して、「ま、待ってて。もっとちゃんとした……服を出すから」と伝えて、タンスの中を漁った。背中越しに、サユリの声が揺れる。


「ねえ……きみの名前は?」

「えっと……ヒガン。ヤオトメ、ヒガン」


 イバラとのいつかのやり取りを思い出す。

 サユリは「ひがん」と繰り返すと、言う。


「ニンゲンらしくて、良い名前だね」


 ──ちょっと鼻の奥がツンとなったのは、内緒だ。


***


 僕のお古の服を着ようとするサユリだけど、指先がおぼつかないみたいだった。


「あれ。おかしいなぁ……なんだかうまく力が入らない、」


 しばらく説明書を見て時間を潰していた僕だったけど、サユリが困ったようにそう言うから「ぼ、僕がボタン、掛けようか……」なんて尋ねてしまう。


「いいの? ごめんね。じゃあ……」


 なんていって、さっきまでの警戒を緩めて無防備な胸元を見せてくる彼女は、大分僕に気を許してくれたみたいだ。そこは、やっぱりニンゲンの役に立ってくれるメモリアのサガなのかも。

 ……でも、これ、だめだ。僕には刺激が強すぎる──

 僕は出来る限り薄目にして、彼女のボタンを全部留めてあげた。一回りくらい大きいお洋服を少し引っ張り、サユリは立ち上がり、くるりと回る。


「へへ、いい感じ。ありがとう、ヒガン!」

「ど……ドウイタシマシテ……」


 ひらりと舞う服の端。彼女の太ももの内側が見えて、僕はぶんぶんと首を振った。


「ねえ、ヒガンはどうしてわたしを拾ってくれたの? 何か必要な情報があるなら、すぐ調べるし。メールや電話がしたいなら、その設定もすぐするよ!」


 無邪気に尋ねてくるすがたが、彼女の本来の性格のようで。前述のとおり、女子との関わりなんてほぼない僕には、ドキドキする振る舞いばかりで、「あぇっと」なんて、情けない声を出してしまう。


「だ、ダイジョウブ……えと……む……昔、使ってたメモリアに、に、似てたんだ……ウン」


 半分くらいは本当だ。僕はイバラの持ち主ではなかったけど、イバラは度々僕にその機能を使わせてくれていた。い、インターネットとか。

 ぼくの言葉に、首を傾げる彼女。動きもいちいち愛らしい。


「で、でも、えっと……だから! とくに、君が必要、とかじゃなくて! 君があんまり、い、イバラに似てたから……ほっとけなくって! だから、ぼ、僕のことは気にしないで! す、好きに生きて、ね。……ね?」


 僕はテンパると、余計なことまで言ってしまうクセがある。今のは、明らかにそれだった。

 「君が必要じゃない」なんて、メモリアには大変酷なことを言ってしまっただろう。ほら、見るからにサユリがしょんぼりとしている。男として、女の子を泣かせちゃいけない。祖母にそう習ったじゃないか──


「……“イバラ”って子が、ヒガンが本当に好きなメモリアなんだね?」

「う、うん? 好き──って、ええ!?」

「……メモリアはね。最初に起動してくれた相手のことを、好きになるようにできてるの」


 ぽつりとサユリは言った。


「だって、“ご主人様”だもん。嫌いなメモリなんて、持ってる方が損しちゃう。だから、わたし、もうきみに悪い印象を抱いてない。私のことを拾ってくれた、ご主人様だって思ってる」

「ご、ゴシュジンサマ……、」


 サユリが距離を詰めてきて、うるうるとした大きな瞳で僕を見上げてくる。

 こんなの、どう対処したらいいんだよ…!?


「わたしにそっくりな誰かに恋して、辛そうなヒガンのこと、ほっとけないよ」

「えッ……!」

「……だから、わたし、ヒガンのメモリアになる! ヒガンの助けになるように頑張るし、ヒガンに好きになってもらえるように、頑張るから……」


 ……な、なんだか大変なことになっちゃったぞ……


「古い型でごめんね……えへへ。大事にしてね?」


 こうして……僕の初恋の人によく似た、“メモリア”の彼女との、奇妙な生活が始まってしまったのだった。

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