とある廃村の狂人の記録

しき

第1話

 人がいなくなった小さな廃村の焼け落ちた家から見つけ出された1冊の記録。ソノしょは古い記録にもかかわらず綺麗きれいな状態で残っていた。


 この記録が読まれている時には僕はもう死んでいるだろう。それどころか村そのものがなくなっているだろう。それならば何よりも良い事だ。

 世間では僕の事をどの様に評価し、記録に残すのだろうか?全30人の村人を無差別に殺した狂人とでも記録に残すのだろうか?

 まぁ、それも些細ささいな問題だ。実際に僕はくるっていると思う。弁明するつもりは無い。ただ、そうだな僕が死ぬ前に後世に生きる人の為にこの記録、村に起きた悲劇の真実を残したいと思う。


 始まりは海からアレが流れ着いた事から始まった。ソレは黒っぽい玉虫色たまむしいろの不定形な小さなかたまりでテケリ・リ、テケリ・リとく、見たこともない不気味ぶきみな生き物だった。

 皆はソレを海から蛭子ひるこ様が来なさったと言って海岸近くにある洞窟どうくつの中にほこらを建ててまつった。理解しにくい感覚ではあると思うが、貧しい村だったので得体えたいの知らない生き物でもなんでもすがりたかったのだ。


 次第に村人達はソノほこらにおそなえ物をする様になった。すると不思議な事が起きたのだ。ささげた物が倍々になってかえって来るのだ。村人達はこれをご利益りやくだと喜び。今度ソレを恵比寿えびす様と呼ぶようになった。


 僕がソレの異常性に気がついた時にはもうすでに手遅れだった。変化が無いのだ。村の年寄としりは寿命で死ぬ事がなく、いつまでっても子供は大人に成長をする事がない。何もかもが変わらないのだ。

 そしてある日の夜中に僕は決定的な瞬間を見てくるってしまった。アレは物にけてひそかひそかに村にまぎれて村人を食って入れ替わっているのだ。


 最早もはや、何が本当で何がまがい物かの見分けが全く分からい。おのれの身さえ信じる事ができない。



 すべてを終わらせる

















 準備はととのった。今夜こんやさびれている村の神社に奉納ほうのうされていたこの御神刀ごしんとうすべてを切る。そしてアノまわしい洞窟どうくつを自作した爆弾を使って爆発させふさいだのを確認したのちに僕もこの刀で命をつ。

 これがのちの世でどの様に言われても僕はかまわない。どうあれ狂人な凶行きょうこうには違いないだろう。

 最後にこれだけは注告ちゅうこくする。

 この村のモノの一切いっさいを外に出してはならぬ













 廃村から持ち帰ってしまった。ソノしょから



 テケリ・リ、テケリ・リ




 とき声が聞こえた気がした。













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