第15話 マチルダ② ~カトリーヌ・ベネディクトの侍女~
「…は?」
意味が分からず、カトリーヌ様は目が点になる。
「どういうことですか、侯爵様!!
いくらお嬢様が冷遇されていたとはいえ、なぜ!!」
「…マチルダ?」
思わず、冷遇され続けてきたカトリーヌ様が信頼している侯爵様からでた信じられない言葉に私は思わず感情的に叫んだ。
カトリーヌ様はそんな私を見て、手で制する。
「…侯爵様、その説明では何も伝わりませんよ」
苦笑しながらタフィ様が侯爵様を制する。
「カトリーヌ、君は今まで頑張ってきていた…侯爵様も僕も、マチルダさんもそれは見ている。
しかし一向にベネディクト伯爵は認めようとする気配がない…それをずっと僕や侯爵様は気に病んでいたんだ。
そして今回、君がここに来て、行方をくらますといった…これは僕にとってチャンスだと思ったんだ」
「…チャンス?」
「そう…僕はずっと君を見てきた。
僕は帝国で将来貴族になる立場なんだ。
だから優秀な嫁が欲しいし、僕は君をとても気に入っている…それは今もね。
君にはすでに婚約者はいるが…君の父は最低の人間だと僕は思うし、義妹に目を奪われた婚約者を連れてくるような男だ…そう考えて、君を連れて逃げていきたいと思っていたんだ。
そう考えていたときに、君が行方をくらますなんて言って来たら、連れて行くしかないじゃないか!」
「タフィ…」
タフィ様の言葉にカトリーヌ様が驚いた顔をする。
「そして…実は数日前、レゼド侯爵領からベネディクト伯爵領の間を結ぶ乗合馬車が事故を起こしてね。
その事故で唯一犠牲になった女性が、身元不明遺体で侯爵領の領地公邸に安置されている。
彼女に協力してもらおうと思うんだ」
「…と、言いますと?」
カトリーヌ様はじっとタフィ様を見つめる。
「彼女を【事故死したカトリーヌ・ベネディクト】として届け出る。
そして同じく、君は侯爵様の養女として届け出て、ベネディクト伯爵とは無関係になって僕と帝国へ向かう」
「…それで、カトリーヌ様は死んだことに…」
思わず私が声を出した。
「そういうことだよ、マチルダさん。
帝国では僕の家で奥さんとして過ごしてほしい。
カトリーヌ・ベネディクトは死んでいるわけだから、婚約者もいないし、ベネディクト伯爵との親戚関係もない。
唯一、この王国とのつながりは、養実家のレゼド侯爵家のみ、というわけ」
そういってタフィ様はカトリーヌ様に向き直った。
「カトリーヌ…いやカトリーヌ嬢、行方をくらますなら、どうか僕と帝国で結婚してくれませんでしょうか」
そういってカトリーヌ様の前でタフィ様はひざまずいて手を差し出した。
「…タフィ…」
「…カトリーヌ様」
目の前にひざまずいたタフィ様に、カトリーヌ様は考え込む。
婚約者が義妹と仲良さげのシーンを見せられて落ち込んでいたカトリーヌ様も、こちらを見たので、私はうなずいた。
それを見て、カトリーヌ様は微笑み、タフィ様に向き直った。
「…よろしく」
「ありがとう、カトリーヌ!
うれしいよ!」
タフィ様はそういってカトリーヌ様をお姫様抱っこして喜んだ。
「あぁ、マチルダさん!
もちろん君も来てね!
カトリーヌの侍女として、僕の家で雇ってもらうから!」
「…ありがとうございます、タフィ様…」
「マチルダまで一緒に…ありがとう、タフィ…」
おろされたカトリーヌ様はそういって、最上位の敬意であるカーテシーを決めた。
そこからタフィ様とカトリーヌ様は準備を整えている間、私は侯爵様の令息様夫妻と手分けして、ベネディクト伯爵領の代官・先代ミレド男爵夫妻、モンテグロ侯爵夫妻に手紙を書いた、そう「
そしてそれとは別に、ベネディクト伯爵とは政敵の間柄になるライス辺境伯様にも手紙を出した。
その後、レゼド侯爵様は役所で養女としてカトリーヌ様を届け出たが、おなじ名前ではベネディクト伯爵に探されると厄介だというので、名前も変えることにした。
名まえは、ルイーザ・レゼド。
カトリーヌという名前はベネディクト伯爵家でつけられた名前だということもあり、自分がつけたルイーザという名前を付けたい、ということのほかに、カトリーヌ様の母上であるルイーザ様にもう一度幸せになってほしいという願いも込めたらしい。
そして、準備を整えると、カトリーヌ様改めルイーザ様、タフィ様、私は、レゼド侯爵様とともに侯爵家の馬車に乗り、数日後にカトリーヌ様の
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