第9話 イメルダ・ベネディクト① ~ベネディクト伯爵家 後妻~
義娘は、いけ好かない女だった。
そして夫の関係者は彼女に同情的で、私は認められなかった、
ライリー・ベネディクトと知り合ったのは、彼が結婚して少し経った頃の夜会だった。
私は実家の男爵家から離れ、部屋を借りて夜会のコンパニオンを手伝っていた。
その夜会に、ベネディクト伯爵は、疲れた様子で結婚相手とうまくいっていないと、給仕をしていた私に話しかけてきた。
詳しく聞くと相手は自身の家で領地経営のイロハを学んでいたことから、ベネディクト家の領地経営にも口を挟まれ、ストレスが溜まっていたという。
私にとっては幸いにも、彼らの夫婦生活はもともと冷え切っており、仲の良かった双方の両親同士だけで決めた結婚であったし、娘が一人で来てからは夜の生活も一度もなかったという。
しかし、妻の実家の援助でベネディクト家を建て直さなければいけないため離婚もできないと悩んでいた。
その日…彼は家に帰らず、私の部屋で一夜を過ごした…。
それからしばらく彼とは会わなかったが、その間にジェニーを身ごもったことが分かり、出産した。
実家の男爵家で出産したが、両親は伯爵に見初められたことで、愛妾になれるのでは?と思っているようだったが、それから数か月後に、本当に彼は私を探してくれた。
折り合いの悪かった夫人が亡くなり、私を後妻として迎えてくれたのだった。
屋敷につくと、小姑…愛する夫の連れ子・カトリーヌ・ベネディクトがいた。
第一印象は母を亡くしたばかりでけなげに微笑む美少女だった。
ジェニーは多少友好的にふるまっていたようだが、私に対する態度は硬かった…それは何も彼女だけではなく、使用人のほとんどが私を「よそ者・腫物」として扱っていた。
だからこそ、ジェニーにカトリーヌとの付き合いをやめさせ、使用人も私の言うことを聞くものは残し、そうでないものは徹底的に排除することにした。
残ったのは、先代伯爵から契約でやめさせることができない執事のレイモンドと、カトリーヌの母の遺産で雇い入れている侍女の二人のみで他は私の協力するもののみが存在を許された。
だからこそ、やりすぎたのかもしれない。
私はカトリーヌを嫌悪していた。
普段から見ていたわけではないのだが、数週間に一度は伯爵執務室で何やら書き物をしているらしい姿を見てはいた。
姿を見ることすら嫌だったので、何をしているかなどは知らないが、少なくとも伯爵家の仕事をいくつかさせられているのはわかった。
ある日、執務室から困ったような顔で出てきて私の顔を見るなり、逃げようとしたことがある。
「…!」
「待ちなさい。
何よその顔は?」
本人が困っているだけならともかく、伯爵家の仕事で困っているのであれば私にも関係がある。
そう思って声をかけたのだが…。
「…申し訳ありません…なんでもありません」
返ってきたのはそんな返事だけ。
「…ふーん。
伯爵家の仕事についてはよそ者には伝えられないってわけ?
…フン、腹が立つわね!」
その日初めて私は彼女に手を出した…頬を張ったのだ。
「…申し訳ありません」
向こうとしても顔を合わせれば嫌味を言われると思っているのか、私を避けていることもあり、執務に関して困っていても相談しては来なかった。
それが無性に悔しい…16の小娘にわかって、20を超えた
その日はそれで終わりだが、それ以降私は気に食わないことがあると彼女に当たるようになった。
そしてそんな生活をしている先妻の娘を見て「恵まれた環境に生まれ何不自由な育った女よりも私のほうが幸せな生活をしている」と実感していた。
日に日に彼女への暴力はエスカレートし、その暴力の度に優越感も大きくなる。
さらに使用人を使って虐げることでも同じような優越感を得ていった。
そして、それは、麻薬だった…。
カトリーヌや、彼女を通して先妻に対する優越感に浸る。
それだけで私は生きている実感があった…恵まれた環境で生まれた小生意気な女よりも、何もわからなくとも愛される女。
彼女よりも学はなくとも幸せに生きている…そう思いながら生きることができた。
当初カトリーヌの顔を見るとイライラして嫌味の一つでも言っていたが、一度手を挙げてからはカトリーヌの顔を見ると体の見えないところに折檻してストレスを解消するようになり、次第に私はストレスがなくなっていた。
私はカトリーヌより幸せ…そう思い過ごしていた。
しかし一年ほど前から、カトリーヌ、そして最後まで私に反抗的だったカトリーヌの侍女の姿を見なくなっていた。
カトリーヌの顔を見ることもなく、ストレスがたまることもなかった。
そんなある日、しばらく旦那様である伯爵が不在だった。
戻ってきた彼にどこへ行ったのか尋ねると、領地に、とだけ言って部屋に戻ろうとした。
「待って…カトリーヌはどこにいるの?
領地に行っていて連れ戻すのではなかったの?」
私はいつの間にか、あの子がいないとストレスの持っていき場がなくなっていた。
「…何?」
信じられないものを見るような顔で、旦那様は私を見た。
「…知らん、すまんがつかれている。
しばらく一人にさせてくれ」
そういって私の手を振り払い、旦那様は自室へと向かっていった。
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