第7話 ライリー③ ~ベネディクト伯爵家 当主~
翌日、昼前に臨時代官として何人かの人間を任命し、例の文官に統率を依頼した…期限付きの管理職なので彼も何とか受けてくれた。
ついでに次の代官については腹は決まっている、先代の代官である先代男爵に相談しようと思っている。
そういえば以前、先代男爵から長男は男爵家の跡取りで、次男は領地経営などできそうもないので、隣国の貴族家の次男だか三男を代官補助で雇いたいと言っていたのを思い出した。
しばらく仕事はしていたはずなので、その人物を雇えばいい。
ついでにカトリーヌを領内で探させたが、どこにもいなかった…どこにいるのか見当もつかない。
そうなれば行方を知っていそうなのはレゼドの爺だけなのだが、彼と仲のいい人物―先代ベネディクト伯爵、私の父の元に先に行くことにした。
彼は今、レゼド侯爵領の隅にある彼の建てた別荘に隠居生活をしている。
いきなりレゼドの爺に説教を食らうより、父に話を聞いて気合を入れてからレゼド侯爵邸に向かった方がいいと思ったのだ。
「…で、貴様は
「…は?」
ようやく重い腰を上げて父のもとに来ると開口一番そんなことを言われた。
「領地経営の問題か? それともあの売女がやらかしたか? よもやカトリーヌのことを尋ねに来たのではあるまい?」
「…父上?」
どうやら父は何かに憤慨しているようだが、私には心当たりがない。
「…カトリーヌが領地に行ったまま帰ってこないのです。
しかも領地ではみていないというし…」
「…カトリーヌのことか…であれば、貴様に話すことはない。
レゼドに聞け…話は以上だ」
そういうが早いか、私は家の守衛につまみ出された。
「…チッ…せっかく頼ったのに…ジャック、仕方ない、レゼドの爺のところに行くぞ」
「…はい」
レゼド侯爵領内にある父の住む別宅からそれほど時間はかからずに、レゼド侯爵邸へとたどり着いた。
門番にベネディクト伯爵であると伝えると、エントランスまで通され、そこで待つように指示された。
「…」
なんで伯爵の私をエントランスなどで待たせるのだ。
そんな憤りもあるにはあったが、領地の文官や父の表情を見るに、ここに来なければカトリーヌの居場所はわからないと思い、おとなしくエントランスで待つことにした。
「…フン、どの面下げてきた?」
父といい、レゼドの爺といい…私の顔を見れば開口一番憎まれ口だ…まぁ、レゼドの爺は娘を嫁に出して彼女が早逝したのが私のせいだと思っていることもあるのだろう、カトリーヌとレイモンド以外の伯爵家の者をレゼド侯爵家には寄せ付けなかった。
「…申し訳ございませんな、このような顔で」
嫌味の一つも言ってやりたい気持ちもわかってもらえるだろう。
「…で、要件は何だ」
応接間にも通さず、エントランスで話だけ聞いてやるという態度を崩さず、元義父を私は見た。
「いえ、領地にいるはずのカトリーヌの姿が見えませんで…侯爵様の家にお邪魔していないかと思いましてな」
「…ハッ、見ての通りだ。
あの子がこの屋敷に滞在しているなら貴様に伝えんわけはないだろう…いや貴様には伝えないかもしれないな。
しかし貴様の父には伝えるだろうからな」
「…」
なんだろうこの言い方。
まるで「屋敷にはいないがどこにいるかは知っている」と言わんばかりの態度ではないか。
「…フン、何もわからんといった様子だな。
当たり前だ、貴様は愛人にばかり構って、わしの娘と孫娘のカトリーヌには何も与えてこなかったのだからな」
「…そのような…」
「そうか…では、なぜカトリーヌが虐待されていることに気づかなかったのだ?
それとも貴様が虐待の実行犯か?」
「…虐待…?」
穏やかでない言葉が目の前の相手から出てきたことに私は驚いた。
「カトリーヌには全身…特に目立たないところに無数のあざと切り傷があった。
日常的に虐待されていないとあんな傷はできんぞ」
「…なんですって?」
いや、カトリーヌには手を出したことはない…
先妻のルイーザにも…出したことはない…そして流行り病で亡くなった後、レゼドの爺が遺体は引き取ると言ってこちらの墓地に入っているはずだが、そんなことは言われたことがない。
「貴様ではないのか、日常的に殴るけるしていたのは」
「と、とんでもない…!!」
「…フン、その様子では貴様ではないのか…そうすると貴様の愛人のあの売女だな。
しかも結構ひどい痣もあった…貴様でないのなら、あの売女は使用人にも殴らせていたようだな」
「…な、なんという…」
「そんなことを今更なぜいう?
今まで気づかなかったくせに」
鼻を鳴らし、不愉快そうにレゼド侯爵はこちらを見た。
「…か、カトリーヌが、虐待を…」
「あぁ、あの子はそれをだれにも相談しなかった…強い子だったからな。
そして愛人の娘と婚約者が二人でいるところを目撃し…領地に向かっている途中、ここに寄った。
その時にもけなげにふるまっていたよ」
「…」
何も言えなかった…確かに前妻の娘ではあるが、私にとって娘は娘だ…しかしイメルダにはそうでなかったようだ。
「…仕方がない…ここまで来た以上、貴様にだけは教えておこう。
本来は告げぬつもりだったが…」
「…?」
侯爵はそういうと、後ろにいた執事に「おい、例の場所へ」と指示を出す。
「ついてこい、お前だけな。
後ろの男は自分の家の馬車ででも待っておれ」
訳も分からず、私は侯爵の後ろにつき、馬車に乗せられる。
執事のジャックを侯爵家の前に止まっていた馬車に戻らせ、私は侯爵家の馬車に乗る。
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