異世界ファンタジー短歌 幻翼抄

辻原僚

幻の翼

――これは人々の願いがもっと叶っていたころのお話。


心ゆくばかりに深くこもれびは見ているものをうつくしくする



下草を踏みしめながら暑い日は暑さに耐える理由がほしい



だれにでも見える姿で現れてだれに呼ばれたはじまりだろう



水をやる呪文はなぜか教わったときのゆかいな風をよびこむ



さっきからわたしの腹は鳴るけれど神々に言うことではないね



ふりむいて確かめたのは夏の川の、放った声が帰ろうとする



湖の迂回はひとを眠らせる 遠さ近さが黄昏れている



起き抜けのにぶいまなこで中空に沈みはじめた天馬を追えば



空耳と抱擁 どうして、はじまりの雨のにおいは言い尽くせない



男神おがみ女神めがみの区別もつかず牛の目のようにしずかに暮らすのでした


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