第8話 繋がる心
唇を重ねるだけのキスから次第に深くしていく。
俺のはもう充分反応していて小林さんも気づいているはずだ。部屋着のTシャツの中に手を差し込み、左手で小さな突起を指の腹で撫ぜると身体を震わせた。
「ここ、いいですか?」
乳首を軽く摘みながら擦ってあげると半分枕で隠した顔を左右に振った。
口内を犯しながら下半身を押し付けるとお互いの固くなったものが擦れて気持ち良く、自然に腰が揺れてしまう。あまり持たないかもと小林さんのスウェットの中に手を滑り込ませ、下着の上から握り込むとじわりと濡れていて、緩く勃つ性器をそのまま扱くと固さを増していった。
「一度抜きますか?」
「ダメ…ヤダ」
「楽になりますよ」
下着を下ろすと先走りで既にトロトロになった性器が露わになった。手で扱くつもりだったが思い直して口に含んだ。暴れる小林さんの脚を押さえて奥まで一気に咥えると敢えなく射精をした。
「バカ、バカいちか!変態バカ!」
フェラされたことと早くにイってしまった恥ずかしさからかバカを連呼しながら蹴りが飛んでくる。
蹴られながら力ずくで抱き竦めるとそのまま後孔に指を伸ばす。口に残る精液をローション代わりに指に取って探ると大人しくなった。指を充てると中からトロリとローションが零れる。驚いて小林さんに
「自分でしたんですか」
「うるさい」
恥ずかしかったのかやっと聞こえるくらいの小さな声で言った。
指は二本直ぐに入ったが、やはりキツくまだ解す必要がありそうだった。少しずつ中を広げていきながらリラックスできるように話掛ける。
「今日するって思ってたんですか」
「……」
「やり方、調べてくれたんですね。嬉しいけど俺がやるつもりだったのにな」
「面倒臭えだろ」
「これも前戯ですよ、面倒な訳ないじゃないですか」
ローションを足して更に解していく。指が三本入る頃には真白さんはだいぶ疲弊していた。
後ろから抱き抱えていたが良さそうなので小林さんを寝かせて脚の間に座る。
「おい、さっきから俺だけ恥ずくない?」
「痛くないですか?」
「うん、多分」
「そろそろ挿れます」
指を抜く時に前立腺を掠めると小林さんの腰が跳ねた。
「ひ!何?今の?」
「小林さんのいいところですよ。後でまたたくさん可愛がりますから」
「お前スケベの時、ドSじゃね?」
「こんなに優しくしてるのに」
ローションと一緒にコンドームも用意されていた。
箱を開けて一枚取り出すと丁寧に装着した。
キスを落とすと小林さんの方から舌を絡めてくるので唾液を零すとコクンと喉を鳴らして飲み込んだ。
それを受け容れる合図のようにそっと充てがう
「痛かったら言ってください」
指が三本入ったとはいえ、やはりキツい。怪我をさせないようにゆっくりローションを足しながら亀頭部分を埋めていく。
「苦しいですか?」と聞くとはあ、と大きく息を吐きながら
「大丈夫、ぜんぶ、いれて」
快感で気を散らせるようにと小林さんのペニスを扱きながら腰を進める。根本まで入ると小林さんは少しだけ吐精した。
「挿入りましたよ」
耳元で囁くと枕に顔を埋めて
「ヤベェ」と呟いた。
ゆっくりと腰を揺らしながら中を擦っていく。ローションが溢れじゅぷ、といやらしい水音が結合部から漏れた。四つ這いの体制だったがぐらぐらとし始め、腕で支えきれなくなってきたので、繋がったまま仰向けにしてそのまま奥を突く。
小林さん、と呼ぼうとすると
「名前、呼んで」と涙目で喘ぎながら訴えた。
名前を呼ばれるのがてっきり嫌なんだと思っていたので、驚きと共に何だか特別になれた気がして嬉しかった。
「好き。真白さん、ましろさん」
耳元で囁きながら少しずつ抽送を早めて快感を高めていく。浅いところをしつこく攻めると真白さんは激しく乱れた。およそ無意識に腰を揺らしながら自ら快感を拾いに来るのは愛おしくもっと見たいとつい焦らしてしまう。バテてきたところで深く挿入しながら乳首を吸うと仰け反って「あ――」と高い声をあげて三度目の射精をした。ビクンと絞られるように強く締まると一気に射精感が訪れた。
放心している真白さんの前髪を避けると目があった。
「以千佳ちゃん、セックスってこんなんだっけ?」
「もっと良くしてあげられますよ」
「お前は?」
「え?」
「良かった?」
「むちゃくちゃ良かったです」
「はあ、そっか。なんか、疲れたな…」
真白さんはもう限界だったようでそう譫言のように言うと気を失うように眠ってしまった。
三回もイカせたのはキツかったかなと涙の跡の残る寝顔を見つめる。身体を繋げられた幸福を腕に抱いていつまでも離したくなかった。
目が覚めると腕の中で真白さんが寝息を立てていた。
額にキスを落とすと薄く目を開けた。
「何時?」
スマホを手繰るので身体を起こして時計を見ると午前三時を回ったところだった。
「すいません、起こしちゃいました。身体、キツくないですか?」
「キツくないですか?じゃねえよ。腰痛えし、ケツの違和感半端ねえし」
「すいません、ムリさせました」
「でもさ」
「はい」
「…出来るもんだな」
意外な一言に思わず顔を見たが、恥ずかしいのか壁側に寝返りを打ってしまい、どんな表情をしているのか分からなかった。
「真白さん、愛してます」
うなじにキスをすると
「バーカ」
小さい声が聞こえた。
シャワーを浴びて戻ると先に出た真白さんはシーツを変えているところだった。
「真白さんアイス食べません?」
声を掛けると
「忘れてた、食べる!俺ヘーゼルナッツ!」
いつもと変わらない無邪気な真白さんにホッとする。
「真白さんて名前で呼ばれるの嫌なんだと思ってました」
「俺はさ、そこらの奴にはいわゆるモブっつーか、某小林の方が居心地が良いんだよ。でも以千佳には“某”じゃなくてちゃんと存在を認めて欲しいから名前で呼んで欲しい。あんなんでもそれなりに気に入ってんだ、自分の名前」
「ましろさん、て呼んでると真白さんになってきますね」
「何言ってんだお前、プレゼンなら超ダメ、全然ダメ!」
俺のピスタチオのアイスにスプーンを突っ込みながら
「あと、会社で名前呼びしたらタダじゃおかねえからな」
「いいですよ、なんか内緒っぽくてそう言うの好きです。真白さんも二人の時はさっきみたいに呼び捨てにして下さいね」
「呼び捨てした?」
「しました。チンコにギュッときました」
「お前ほんとバカ」
「もう少し寝ます?」
「うん。眠くはないけど、横にはなりたいかも」
ベッドに潜り込むとどちらともなく身体を寄せる。
「真白さんいい匂いなのあのシャンプーなんですね」
シャワーを浴びた時に借りたシャンプーは見たことのない英語のラベルのものだった。
「うーん、何でもいいっちゃいいんだけど。そんならよかったわ」
翌日は遅くに起きて二人で少し遠出した。
車でのんびりと鎌倉の海に向かい、テラス席で日没を見ながら今日最初の食事をした。
「なんで以千佳ちゃんまでノンアルなん?」
「真白さんとなら飲まなくても楽しいですよ」
「じゃあ俺飲もうかな」
「え!俺免許持ってきてないですよ」
真白さんは「嘘だよ」と言って笑った。
食事をしている内にすっかり日が落ちて夜が訪れる。静かな海を見つめる真白さんがなんだか哀しそうに見えた。
「真白さん、大丈夫ですか?」
「え、なに?何が?」
「後悔していないかって思って」
俺自身ノンケと付き合うのは初めてだった。引きずり込んでなし崩しのまま、戻れない関係になるのは嫌だった。
「そんな顔してた?」
真白さんの手がテーブルに置いた俺の手に重なる。
「俺はさ、自分の感覚とか直感には素直に従うことにしてるんだよね」
真白さんが重ねた手から目線を上げると俺と目が合った。そしてニッと笑うと
「だからそう言う事」
重ねた手をぽんと叩いた。
その日は鎌倉で一泊した。
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