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 翌日、小川が考えていたほど田島から塚田については聞かれず、今後のことをそれとなく話すだけに留まった。校長は自分が年度末までのはっきりとしない仕事を依頼したことで、小川に何か負担を掛けたのかもしれないと思っている様子だ。終始申し訳なさそうに話していた校長に、小川も不義理を働いたような気分になり、もうこの校長とも会うことはなさそうだと感じていた。

 しかし、それから三週間後の秋雨が窓を叩く夜、田島の口から小川に思わぬことが告げられた。

「塚田実莉みのり先生って、あの先生だよね?」

 教育委員会からの一斉メールで知ったと前置きをし、食器を洗いながら、何でもないことのように言葉を続けた。

「亡くなったって」

 それを聞いた小川は、全く驚かなかったし、悲しみも湧いてこなかった。

 塚田と身体を合わせ、それを田島に話した時に、小川は塚田とはもう二度と会わないと心に誓っていた。たったそれだけのことで、ただの知人ではない塚田が死んでも微動だにしない心が、小川自身不愉快だった。

 塚田はどうして死んだのか。いつ死んだのか。そんなことも小川には全く気にならなかった。

「そっか」

 小川から返ってきたその短い返事に、田島は胸を撫で下ろしていた。

 田島は、塚田がいつ、どこで、どういう風に死んでいったのか、全てではないにしろ知っている。

 小川の家では新聞を取っていない。田島が職場で読んだ新聞に、塚田の死が短い記事だったが書かれていた。

 ――自宅マンションの浴室で、死後二週間から三週間経過した教員の遺体が、隣人からの苦情を受けた管理人によって発見された。部屋に残されていた遺書と、遺体発見時の状況から自殺とみられる。

 塚田の短い人生を閉じたのは、見逃してしまいそうな短い文章だった。

 その記事を学校で見つけた田島は、小川とのことが関係しているのではないかと怖くなっていた。

 無関心な小川の反応を見て安心したのもつかの間、自分が死んでも、小川は表情ひとつ変えないのではないかという疑念が、田島の心にひとつ影を落とした。

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