不幸を招く子羊

第17話 グレンド伯爵

グレンド伯爵ウェール・クレンギは当初は千年王国での伯爵ではなかった。彼はかつて人間の貴族であり、不老不死を信じて自らを不死化させようと試みた愚かな人間であった。その結果として陽光に当たって死んだのだから笑い話ではあるが、少なくとも約200年はその狭い領地内で好き勝手にやれたのだからまあ大往生と言って差し支えはないだろう。当時のオルブレルは大爆笑したが。


そしてその笑劇へのおひねりとして、オルブレルは彼を復活させ、同名の領地を定義して彼にそれを与えた。ちなみに彼は千年王国内で最初の貴族であり、以後しばらく続いた叙勲ブームの火付け役でもあった。


当時のオルブレルは道化としての彼を寵愛した。彼に政治活動を許し、彼が望む元老院制というものを作り彼をそれに列した。そして元老院に自分への意見や批判を許したのである。グレンド伯爵はオルブレルの期待に良く応え、しばしば人間世界の知識や常識を持ち出して都度失敗した。


──そなたの存在自体が私への貢献である

オルブレルはグレンド伯爵をそう言って褒め称えた。その言葉は全くの本音だった。オルブレルにとって全ての政治課題は真剣に取り組むべきクイズだったが、どのような存在でも、自分が作ったクイズを自分で解いて楽しむのは難しいのだ。


従ってオルブレルがピーター・シールドになる時に、グレンド伯爵を元老院首席に指名して事実上後任に据えたのは、クイズ制作者にペンと紙を与えただけである。そして誰がそのクイズを解き明かすのかを見極めるつもりだったのだ。


──どうしようもない時は連絡しなさい

オルブレルは固辞しようとするグレンド伯にそう言った。グレンド伯爵はその言葉に安堵の笑みを浮かべて元老院首席の座を引き受けた。しかしどうやらここで両者に認識の齟齬があったようである。


オルブレルにとってグレンド伯爵はただのクイズ制作者ではない。レクリエーション係でもあり、打倒されるべき生贄の子羊でもあった。しかしグレンド伯爵は素直に助言に従い、週に二回も彼を頼る手紙を書いたのである。

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