あるダンジョンでの出来事
Qたろう
あるダンジョンでの出来事
第一章 - 新人冒険者
第001話 幼馴染
「よし、それじゃ最終確認だ!」
大柄な、しかし幼さを残す少年の声に集まる、同じ年頃の三人の少年少女。その世界ではありふれた"冒険者"と呼ばれる存在、その卵たち。
そんな彼らは今、森の中のぽっかりと開けた空間にいる。その片隅には、一見するとどこにでもありそうな洞窟。そんな洞窟が彼らの目的地、ダンジョンだ。
「そうは言っても、あとは装備の確認くらいじゃない」
「何言ってんだ、それが一番大事なんじゃないか。見ろ、俺様愛用のこの斧!」
「…なんか見覚えあるわね、それっていつも薪割りしてるやつじゃない?」
「だから愛用って言ったろ、親父に聞いたら手に馴染んだものが一番だって言ってたからこれにしたんだ。盾は親父に借りてきたやつだけどな」
「あぁ、そう…私は杖と、あとは護身用のナイフしかないわよ。あんたと違ってこっちは魔法使いだもの」
普段からそうなのだろう、魔法使いの少女とガキ大将のような少年の気安い掛け合いを横目に、残る二人の少年は座り込んで装備の確認をしていた。
「あの二人は相変わらず仲が良いね、よく飽きないもんだ」
「こっちは見飽きてるけどな。それよりほら、この剣と盾どうよ!」
「歩いてる時から思ってたけど、いつも素振りしてたやつじゃないよね。新しいの買ってもらったの?その割にはなんか使い古した感じだけど」
「へへ、爺ちゃんが俺たちくらいの頃に使ってたやつなんだってさ。ちゃんと手入れしてるし、頑丈さは実証済みだって。でも酷いよな、大事なもんだから
そう言いながら口を尖らせる幼馴染の少年に、苦笑を浮かべるもう一人の少年の手には一冊のノート。そして腰には護身用らしきナイフが覗く。
四人とも似たような生成りの服で、違うのは
「なら、怪我しないよう気を付けないとね。多少の傷なら僕が治せるけど、大怪我はまだ無理だから気を付けてよ?」
「へーきへーき、それにお前らのことも俺が守ってやるから見とけって。それよりさっきから持ってるそのノート、何が書いてあるんだ?」
「あぁ、これはね...」
照れ臭そうにしながら広げて見せたノートには、ギルドの資料で調べた薬草の見分け方や魔物のことが書いてあった。
これから入るダンジョンに出てくるゴブリンとスライムに重点を置いて調べているらしく、ギルドの掲示板に貼られていたのであろう王都の情報もメモしてあるのはこの少年の性格の為すところだろう。
「僕は戦いじゃあまり力になれないけど、こうやって調べておけば少しでも危険が減らせるんじゃないかなって思って」
「はー…爺ちゃんに、動く前にもっと考えろって言われたけどそういう所かぁ...」
などと言って気落ちして見せるが、すぐにその顔を上げる。その顔は『冒険が待ちきれない』と、これ以上ないくらい雄弁に語っていた。
「君は昔からずっと剣ばっかり振ってたからね。まぁ、調べ物って結構時間掛かるし仕方ないよ。それに僕の場合、身体を動かすよりも本を読んでる方が好きだったから」
「待ちに待った冒険なんだ。気にするのは次からにして集中しよう!」
—— 冒険者になりたいならまずは四人でやってみろ、そうでなければ許可できない。保護者一同のその声に、十四になってから更に数ヵ月待ったのだ。この気持ちは止められないし、止まるつもりなど端からない。
「君らしいと言うか何と言うか…それじゃ、ダンジョンに入る前に
「そうだな。そこの二人!いつまでもイチャついてないでこっち来いよ」
「「イチャついてない!!!」」
ノートを囲み輪になる四人の背後には、洞窟が静かに佇んでいる。
—— それはまるで、口を広げ獲物を待っているかのように見えた。
——————————
Tips:ダンジョン
元々あった洞窟や廃砦などが魔素により変化したものが多いが、岩壁や草原にいつの間にか開いていた穴がダンジョンだった ―― ということもある。何らかの要因で魔素の濃い場所であることが多く、その内部は元の環境を反映したものが多い。初級、中級、上級と分けられている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます