【完結】女が勇者で何が悪い!?~魔王を物理的に拘束します~
かずき りり
第1話
目の前にいる聖女様と呼ばれている腰までの綺麗なサラサラとしたアイスシルバーのストレートロングの女性は、綺麗な細かい刺繍が散りばめられた白いローブ服を美しく着こなしている。
しかし、綺麗な顔は真っ青で、切れ長の大きな青い瞳を見開いている。
「……ロアナ様?」
お手伝いをしていた女の人が、目の前に居る綺麗な聖女様へ呼びかける。それが名前なのだろうか。
聖女様は、ハッとした顔をして再度私に向き直ると、唇を震わせながら口を開いた。
「……あなたは、【勇者】です」
「……は?」
その言葉に、今度はあたしが呆気にとられた。
勇者……勇者?
……あたし、女ですけど?
疑問符が頭の中を駆け巡っている中、一拍置いた後に周囲が騒めき始めた。
「どういう事だ……?」
「ただの農民じゃないのか……?」
「辺境の村に、まさか……?」
うん。あたしもそう思う。
レテルシア国にある辺境の村。現在の地点はそこで合っている筈だ。
あたしは村の外に出た事もなければ、実際この村で現在執り行われている鑑定の真っ最中だ。
……夢かな?
思わず頬をつねるが、鈍い痛みがある事で、今が現実だと思われる……多分。
レテルシア国は……というか、この大陸全土はハレアド教の信仰が根付いている。
大陸全土といっても、この大陸は大きな4つの国から成り立っているだけだ。
その全てはハレアド教の教えに従い、ハレアド教を称えている。
全ては神から授かり、神の元へ。神に決められた自分なんて全くもって理解出来ない事だが、国のお偉いさん方はそれを信じているというのだから鼻で笑うしかない。
こっちは日々食べるものの為に必死で、神に祈る暇があるなら畑を耕していた方が効率良い。働かざる者、食うべからず!というか、働かないと食べる物がない。
そして今日は……適正職業を見極める鑑定の日である。
人々は適正職業というものを15歳で神から与えられていると言い、その年に全ての人が聖女様の鑑定を受けるとされている。
その為に、こんな辺境の村までハレアド教の聖女様がやってくるのだ。
「……ん?」
ふと前を見ると、聖女様が身体を小さく震わせて、怯えにも似た目であたしの事を見ている。
「あなた…………」
か細く震えた声が耳に届く。
周囲の人達にも聞こえたのか、固唾を飲んで続きの言葉を待つ。
「…………本当に、15歳になったの……?まだ10歳くらいじゃ……?鑑定がおかしいこともあるわよね……?」
「聖女様!それはっ!」
プツンッ
同じ村の人達が聖女様に声をかけたけれど、もう遅い。
認めたくないように、後半は呟くような声になっていたけれど、それも関係ない。
「あたしはっ!!18歳だーーーー!!!!」
「えっ!?18!?15じゃなくて!?」
「ふざけんなーー!!!!」
ぶち切れて上げた怒声に、別の意味で聖女様は驚く。
というか、どう見たらそんなに幼く見えるんだ!確かに身長は低い!まだ149cmしかないが伸びる予定だし!
十分大人の女として見られるだろう!どう見たら子どもに見えるんだ!
あたしが切れて床をドンドンと踏み鳴らしていると、奥の方から神官っぽい服を着た人が出てきた。
「……18?鑑定は15で受けるとされていますが……?」
……やらかした。
疑惑の目を向ける神官様に、頭を抱える村人達。
……盛大に自分からバラした事に、やばいという事を理解し、怒りは急速に萎んでいった。
……だって、仕方ないじゃない。こちとら、日々生きる事で精一杯だったんだから。
「……諸事情がありまして」
目線を少し反らしながら、小さい声で濁しながら言う。村の人達の溜息が聞こえる気もするが、諸事情で何とかならないかな?
ハッキリ言ってしまえば、適正職業を鑑定する日なんざ忘れていたと言うのが正しい。
幼い時に両親を亡くしたあたしは、自分で畑を耕さないと食べる物がないのだ。幸い、辺境の村という事で広大な畑を両親が残してくれていた為、自分1人くらいなら何とかなる。というか、作物を多少売る事だって出来る。
色々生きていく上での知識や手助けは村の者達がしてくれるし、自分の食い扶持は自分で何とか出来たのは本当に有難い事だった。
そんな感じで日々仕事しながら生きていたあたしは……。
――15歳、本来受けるべき鑑定の日を忘れて、私は一日畑仕事をしていた。
――16歳、村の人達に念押しされていたものの、朝起きたら習慣的に畑に出て一日畑仕事をしていた。
――17歳、この日は朝から村の人に言われていたけれど、少しの時間だけでもと畑に出たら、そのまま没頭してしまった。
今回は朝から拉致同然の状態だったから教会に来る事が出来たけれど、村の人が監視してくれなかったらまた忘れていたと自信を持って断言できる。
というか、今までだって少しくらい声かけてくれても良いんじゃない!?畑に居る事は分かってるんだからさー!
村の皆で探してくれていたようだが、いつも見つけられなかったと言われた。どこをどう探したんだって思う。
……小さすぎて見えないわ!って言った奴は問答無用で殴り倒したけれど。あたしはそんな小さくないわ!いや、小さいけれど……大きくなる予定なんだ!すぐにでも!
「諸事情……ですか」
神官は少し訝し気にコチラを見るも、あたしの服装を上から下まで見ながら、その視線を手に向けた。
神官の視線が気になり、あたしも自分の手を前に持ってきて見る。……うん、ただの手だ。
毎日の畑仕事で汚れてマメも出来て固くなってきている普通の手だ。
そこへ別の神官らしき人が、あたしの目の前に居る神官へ近づくと耳元で何かを告げた。
「……なるほど」
神官が呟きながら、納得したかのように頷いた。
「ロアナ様。確かに鑑定で勇者と出たのですね?」
「え……でも……この子は女の子では……?」
「勇者と出たのですね?」
女の子と言われる辺りに、まだ幼子だと思われてる感が出てイラッとする。そんなあたしの心境を知らず、神官が聖女様に圧を込めて再度言葉を放っている。
「……はい」
観念したかのように肯定の言葉を聖女様が吐くも、その顔は更に真っ青となっている。
何故だ。解せぬ。
そんな血の気が引くような事なのだろうか。しかしあたしとしては、やはり畑仕事に長けた職業の方がよかった。
生まれつき持ってるとか、15歳になるまでの経験だとか能力によるとか色々と聞くけれど、やはりこれから生きて生活する為に畑仕事は大事なのだ。
……勇者って、畑仕事にどんな得があるの?剣?剣よりは斧とか使える方が良いんだけど?
「……せめて木こりだったらなー。森の開拓とか別の事業で収入を得られる事も……いや、狩人とか!お肉が食べられる!」
「……え?」
「もう一度!もう一度鑑定させて下さい!」
あ、声に出てた?
呆気に取られた神官と、その神官を押しのけるよう、あたしの前に出てくる聖女様。
返事を待たず、再度あたしに鑑定をかけただろう聖女様は、そのまま膝から崩れ落ちた……。
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