1993年12月大宇陀から飛鳥へ

18日今年の山納めに大宇陀から飛鳥へ歩いてきた。よく冷えた晴れの天気だったけれど、風が少々あり動いていないと寒く感じられる。

大宇陀から宮奥まではアスファルト道。下宮奥で剣主神社に詣でた後、なだらかな登りをどんどん山際へ進んでいく。最後の集落手前に別れ道の道標がある。左手に道を取る。渓流沿いのコンクリート道に変わる。湿気の多い道を辿ることしばし、神社への石の階段がある場所に到着。神社に足を運び、山に入る挨拶をする。なんの神様をお祀りしているか定かではないが、境内はきちんと整備されている。階段を下りると、談山神社方面へと左手の細い山道を辿っていく。所々道が荒れていて、有名な山ばかり登っている人にとってはルートファインディングが難しいと思う。植林された杉と檜の中の尾根筋を辿ることが多く、変化に乏しい。それでも、雪の白と木の葉の濃い緑と木の幹の茶色のコントラストは美しい。陽だまりの所には、紫色したすみれの花も咲いている。シジュウカラかな、私の口笛に誘われて姿を現し、どこに同胞が居るかとキョロキョロ頭を動かしていた。

どんどん歩いて、竜在峠から談山神社に着いたのが、13時過ぎ。今日は談山神社には詣でず、外からお辞儀だけするに留める。

飛鳥への眺望が良い場所で、遅い昼食を取る。コッヘルで湯を沸かし、インスタントスープと総菜パンを食す。ぼんやり景色を見つつ静かにしていると、頭上の木々にたくさんの小鳥(たぶん、カラ類)がやって来てかしましい。木の下に座っている私のことを、珍しいとうわさしているのかも。

食後、飛鳥へと下って行く。辿り着いた飛鳥は、以前歩いた時より立派な道標があちこちに立っていて、観光地化が著しいと思いつつ歩く。それでもまだ、段々畑は美しいし、亀石の顔はユーモラスだ。

駅への道のりを、夕焼けの名残りの光が辺りにうっすらと広がり、未だ夜の闇は訪れていない薄明かりの下歩いて行く。まだ、かわたれ時ではない。木立陰から鳥が鳴くのを耳にすると、妙に物悲しく、空を振り仰げば、西に白く輝く三日月が掛かる。星は未だ現れぬ中、えもいえぬ空の色の中、女王のごとく空にある三日月の美しいこと。なんといって良いのか、言葉に出来ない。

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