【魅了】スキルとかただの洗脳じゃねえか! ~神様から【魅了】スキルを貰ったけどただの洗脳としか思えないので【魅了】が効かない運命の相手を探します~
びたさん
プロローグ①
仮面が落ちる。
凡ミスだ。急いでいたとはいえ、素顔を晒してしまった。
【魅了】してしまう。
最低最悪の洗脳スキルが発動してしまう。
「仮面落ちてますよ、今拾いますね」
しかし、少女は何事も無かったかのように仮面を拾った。
僕の顔を見ても、一切魅了されることなくいつも通りだった。
黒く、長い髪が夕日に照らされ光り輝く。
その日、僕は運命の相手に出会った。
*****
今日は良い天気だ。
起床した僕は、まず洗顔をしてから寝ぐせを直し、歯磨きを終えると――
――化粧水を使ってスキンケアを始める。
さらには強すぎない柑橘系の匂いの香水を軽く付けて、一張羅に袖を通した。
モテるための努力というのは、朝からもう始まっている。
鏡の前で自然な笑顔の練習を挟んだ後、僕は身だしなみが完璧であることを確認して部屋を出た。
「よう美男子、相変わらず朝早いな」
そう声を掛けて来たのは、幼馴染であり女友達の『ソフィア』だ。
赤い髪を雑にポニーテールに纏めているのが特徴で、男勝りな彼女の性格には見合っているが、もうちょっと真面目にオシャレしたらこの街でトップクラスの美少女となるだろう素材を持っている。
異性だが、サバサバとした彼女の性格はとても接しやすく、家が隣なのもあって昔からの友達だ。
「おはようソフィア、でもその呼び方はやめてくれよ恥ずかしい……」
「ははっ、悪いな『レクス』。それより早く行こうぜ、もう待ちきれねえよ」
「僕は少し不安だよ……外れスキルじゃなきゃいいけど……」
この世界では年に一度、満15歳を迎える少年少女に神様からの『スキル』を与える儀式が執り行われる。
スキルの力は強大で、剣を今まで一度も振るったことが無くても『剣術』スキルを与えられれば魔物と戦える程の剣術を扱えるようになるし、料理をしたことが無い人でも『料理』スキルを与えられれば即座にレストランで働ける程の料理技術・知識が身に着くのだ。
故に、スキルは僕たちの今後の一生を左右する大事なモノということである。
中には外れスキルと呼ばれる何の役にも立たないようなスキルもあるらしいし……うう、怖い。
「なぁに、レクスは顔が良いんだからいざとなったら男娼でもすればいいさ」
「嫌だよそんなの……僕は物語のような大恋愛の末に、好きな人と結ばれる予定なんだから」
僕が毎日きちんと身だしなみを整えるのだってそれが理由だ。
いざ運命の人と出会った時、容姿や清潔感を理由に振られるのは避けたい。
「……っと、着いたぜ、『教会』だ」
駄弁りながら歩いていたらいつの間にか着いたようだ。
神様に一番近い場所――教会だ。
この街が
いつ来ても圧倒される……王都に住んでいると言っても
中に入っても、ステンドグラスや大きな女神像なんかに気圧される。
聖歌隊がこの日を祝うように歌っているし、なんか、そわそわしちゃうな。
「もうそこそこ集まってるな」
「ひいふうみい……というか、僕たちで最後なんじゃない?」
教会内で儀式が始まるのを待っているっぽい若者が整列している。
数を数えると、丁度僕たちを除いてこの地域に住む満15歳の若者が揃っているようだった。
皆楽しみにしていたのか不安だったのか、目の下に隈がある人もちらほらいる。
入口近くに居た僧侶のおじさんに身分証を見せて、集まっている若者たちの中に混ざる。
そうして待つこと数分、教会の奥から法衣を身に纏った、如何にも偉そうなおじさんが姿を現した。
枢機卿だ。教会でも実際かなり偉い人で、神様に祈りを捧げ、僕たちにスキルを与えてくれる人である。
「皆様、祝福の時が来ました」
枢機卿の演説が始まった。
ソフィアが退屈そうに欠伸をし始めたので肘でどつく。
全くこいつは……もう少し女の子らしくしてもいいのに。
「――――では、演説は以上とさせて頂きます。長らくお待たせしました、先頭の子から順に、儀式の間へと入ってください」
スキルの付与は、枢機卿と二人きりの部屋で行われる。
スキルとは個人情報なので、誰がどんなスキルを持っているかを他の人に簡単に漏れないようにするためだ。
枢機卿が儀式の間に入ると、整列している若者の先頭から僧侶に呼ばれ、部屋に入っていく。
ガッツポーズをしながら部屋から出てくる者、落ち込んだ様子で部屋から出てくる者、首を傾げながら部屋から出てくる者。
スキルを貰った人の反応は様々だ。
首を傾げている人は多分、聞いたことのないようなユニークスキルを与えられたのかな?
「次、ソフィアさん」
「はいっ!」
ようやくソフィアの名前が呼ばれ、待機している若者は僕だけになった。
他の若者は、既に教会を立ち去っている。まあ全員のスキル付与が終わるまで待っている理由も無いしね。
数分して、ソフィアが部屋から出て来た。
その顔には笑みが浮かんでいる。悪くないスキルだったようだ。
「次、レクスさん」
「あ、はいっ!」
ソフィアに声を掛けようと思ったら、もう名前を呼ばれてしまった。
仕方ない。ソフィアに目配せすると、待ってるね~とジェスチャーをしてくれた。
儀式の間に入る。
中は、案外狭い。
窓一つない、壁に無数の奇怪な紋章が入った部屋で、枢機卿がその立派な髭を撫でながら待っていた。
「ようこそ、ええっと……レクスくん」
「よ、よろしくお願いします!」
き、緊張する。
偉い人と二人きりっていうのもあるけど、これで自分の人生の方向性が決まると考えると緊張しない方がおかしいだろう。
「早速始めるね」
「はいっ!」
枢機卿が古い本を開き、何か詠唱を始める。
それと同時に壁に描かれた紋章が蒼く光り始め、僕の身体を包み込んでいった。
「――彼の者に神の祝福を」
詠唱が終わり、蒼い光は僕の身体に吸収されていく。
それと同時に、何か大きな力が僕の中にあることを感じた。
これが……スキル……不思議な感じだ、まるで生まれた時から備わっていたかのような感覚がある。
「枢機卿様、このスキルは一体……?」
「ふむ、これは……」
枢機卿が古い本のページを破り、僕に渡してきた。
どうやらこのページに僕のスキル名や効果が記されているらしい、覚悟を決めて、僕はそのページを見た。
「スキル名、【魅了】……効果、顔面を見た異性を魅了し、好意を寄せられるようになる………………は?」
頭が真っ白になって、固まる。
このスキルを見て、やったー! ハーレム作り放題だー! なんて手放しに喜べる程馬鹿じゃない。
「まあ……何と言うか……刺されんようにな、少年」
枢機卿のそんな慰めっぽい言葉も今の僕には届かず、お礼を言うのすら忘れ僕は儀式の間を出る。
【魅了】。
ほぼ無条件で異性に好かれるスキル……だって?
それはつまり――洗脳ってことでは?
他者の意思を強制的に操作し、弄ぶ最低最悪の卑劣な行為なのでは?
ていうか……仮に僕がこの先運命の人と出会い、結ばれたとしても、それは『スキルのおかげ』になってしまうんじゃないか?
モテようと早起きして身だしなみを整えたり、話術を磨いたり、女の子には優しくしたり……そういう努力も、全部無意味だったことにならないか?
最悪だ……最悪中の最悪のスキルだ……。
い、いや落ち着け、魅了ったって効果は大したことない可能性だってある。
ちょっと女の子からの好感度を稼ぎやすくなっただけかもしれない。
「やぁレクス! どうだった? アタシは何と【治癒魔法】のスキル、を――――」
儀式の間を出ると、待っていてくれたソフィアが駆け寄ってきた。
幼馴染で、それこそ一歳の時から一緒の時を過ごしてきた女の子。友達というより家族のような距離感で、お互いに恋愛感情なんて欠片も無い筈なのに。
彼女は、僕の顔を見るなり一気に頬を紅潮させた。
「ふぇ……? な、なんかレクス雰囲気変わった……?」
「…………」
今まで、見たことのなかった幼馴染の『雌の顔』に戸惑いながら、僕は頭を抱える。
魅了の効果が強すぎる……! 一目見ただけで十年来の悪友が即落ちするのかよ……!
試したくも無いことだが、もしかしてこれって人妻とかにも有効なのか……? だとしたら面倒事に巻き込まれる可能性大じゃねえか! なんだこの糞スキル!
「お、落ち着けソフィア……僕はどうやら【魅了】のスキルを貰ってしまったようだ……その気持ちはスキルのせいであってお前は僕のことを好きでも何でもなかった筈だ」
「スキル……そう、成程……で、でも、その……胸がどきどきしてしょうがないし……その……」
ソフィアは、男勝りな性格が何処へ行ったのやら。
瞳にハートでも浮かんでいるんじゃないかという蕩けた表情で僕にもたれかかる。
「この後お前んち行っていい……♡?」
「駄目っ!」
僕は走って逃げ出した。
これ以上変わり果てた幼馴染の姿を見たくなくて――これ以上、僕のせいで幼馴染を変えてしまいたくなくて。
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