第211話 転生 (◯✕視点)
大学キャンパス前に着いた私は構内まで徒歩で行こうとした。
何も変わらないいつもの普通の道。
でも、どこか不穏な気配も感じていた。
が、急いでいたこともあり気にせずに進む。
休日だからか人通りは少なく、スムーズに前に進む。
どーーーん!!!
突然、爆音とともに砂煙が舞い上がる。
驚いた私は目を瞑ってその場にうずくまる。
しばらくその状態でいたが、中々煙が消えない。
不穏に思い、立ち上がったその瞬間、何故か背中の辺りが急に苦しくなった。
ヒリヒリとした今まで感じたことのない激しく焼けるような痛みが私を襲う。
背中を触ろうとすると、ねっとりとした液体と鋭利な刃物の感触がする。
恐る恐る触った手を見ると、真っ赤に染まっていた。
「さ、刺れた・・・?」
どうして?何故?
頭を回している暇もなく、視界が暗くなりその場に膝から崩れ落ちる。
意識が朦朧としていく中、仰向けのまま顔を上に向けていると、一人の男が私を睨みつけていた。
「この特権階級の人間が!俺等の苦労も知らずに、のうのうと生きやがって!!」
そう言葉を吐き捨てると、視界から消えた。
男の顔には見覚えがあった。
両親が経営する会社が経営難により大量解雇をした際、不当解雇だと言って強引に家に押し入ってきた、その時の男の顔だ。
私は恨みでも買ったのか?
私はこのまま死ぬのだろうか?
兄さんと一つだけ分かり合えないことがあった。
それはどうしてあんなにも家柄や身分に拘っていたのか?
そんな兄とは真逆に、見ず知らぬ人に恨まれたり憎まれたりする立場、身分に生まれたことが私の唯一の苦悩だった。
どうして、何故?それを毎日、繰り返し、私は自問していた。
もしかしたらこれは男女の違いによるのかもしれない、と私は考えている。
この社会では払拭されつつあるが、男は働き女は嫁ぐ為に生まれてきた、という一昔前の考え方が私の家にはいまだ残っていた。
女の私はあくまで一族の政治の道具であり、交換財であり、大学卒業と同時にお見合いをさせられるのは目に見えていた。
家では昔から私は雑に扱われてきた。
学校でどんなに良い成績を取っても、どんなにいい子にしていても両親は全く私を見ていなかった。
それでも私は従順にしてきた。
それが私の生き方だと、幼い頃から教え込まれてきたから。
私がこのまま死んでも、◯▢がいるから大して悲しまれないだろう・・・
あ、そうだ。兄さんの形見をどうしようか?
兄さんが自殺した時、何故か私宛に十二巻もある小説のシリーズが送られてきた。
特に手紙も無く、ただ「読め」、という兄からのメッセージなのかどうかも分からなかった。
とりあえず、読んでみるとそれは流行りのライトノベル。その中でも異世界系と呼ばれるものだった。
本当にどうしてこれが私宛に送られてきたのかさっぱり分からなかった。
でも、死んだ兄の残した唯一の形見だし、いつか甥っ子に渡そうとちゃんとしまっていた。
もし、また兄さんと出会うことがあればぜひ聞いてみたい。
はぁ〜〜〜、私は本当に死ぬのね。
体は動かず、視界も真っ暗。
でもどうしてか意識がある。
「――ア!マリーア!マリーア!」
???自分の名前では無いはずなのに誰かに呼ばれている気がして目を開く。
死んだ時の視界とは違い、綺麗な中世の屋敷のような大理石の床に私は座っていた。
「マリーア!大丈夫か?」
マリーア?それは私のこと?でも、私は―――
そこで大量の別の人間の人生の記憶が流れ込んでくる。
「怪我はしていないよな?」
ぷっくりと出た大きな腹を揺らしながらこちらに近づいてくる人は、恐らく私の父。
「大丈夫よね?」
化粧の濃い、年齢に似合わない派手めな格好をしているのが母。
「マリーア?本当に大丈夫?」
もう一人、駆け寄ってくる少女だけは私は知っていた。
いや、この世界自体を私はすでによく知っていた。
フランシーダ帝国、エヴルー男爵家、姉リリス。
つい先程まで私の頭の中で考えていた、兄さんの形見として受け取った小説の設定と酷似していた。
「マリーア、大丈夫?」
可愛らしく首を傾げるリリス。
もし、もし私が彼女たちが言うマリーアだとしたら。
私は、私は悪役令嬢に転生したとでも言うのか!!!
この日から私は、マリーア・デ・エヴルーとして生きていくことになった。
―――
留学編、終わりました!
『異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜』をご愛読いただきありがとうございます!
遂にルイの前世の妹を出すことができました!
ここでいつもなら少し長い後書きを書いていますが、ここで投稿は終わりはしません。
明日は登場人物一覧を投稿します。
そして、8月1日に100万PV記念に三話番外編を投稿します!
その時にまた長い後書きを書きますので、ぜひ読んでください!
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