第209話 決闘④ (マリーア視点)



私が綺麗に尻もちを付き、同時に手が地面につくとリリスが手を前に出して目を一瞬瞑る。


今まさに【ウォーレールド】が唱えられたところだろう。


そう頭で理解した瞬間、リリスの目の前から渦巻く濁流のごとく早く回転する水と白く光り輝く稲妻が混ざったそれが生み出される。


そしてこちらへ向けて飛んでくる。


体は動けない。


いや、実際には避けることは可能だけど私はそれを選択しない。



この精霊術は特殊な条件でないと出来ない。


まず、術者と放つポイントが離れていること。


そして、放つポイントである相手が地面に手と足、尻をつけていること。


この精霊術は水と雷の術を渦でかき混ぜた不安定なもの。


周囲へ強電流を撒き散らし、簡単に人を気絶させる。


そして食らった時に電流が逃げるための道を作らないと、放った術者に返ってしまう奇妙なデメリットが存在する。


それも精霊術の特徴だ。


この強力な術だが、実は人を殺すことは出来ない。


でも、確実に気絶をさせる。


そんな強力な術が、今まさに目と鼻の先にあり―――



ドッ



当たる。


・・・全てがシナリオ通り、いや小説通り・・・・



???そうか、意識がある以上気絶はしなかったらしい。


体中がヒリヒリして指先までピクリとも動かない。


本当に呆気なくやられた。


本来はもう少し手負いの状態で食らって気絶するわけだが・・・まあ、終わったことは仕方がない。


何より、私マリーアが負けることが重要である。


そうすることで、リリスとアレックス、他二人との中が深まっていく。


何とかここまで繋げることが出来た。


自分の体を犠牲にしてでも。



しばらくすると体からの痛みがスッと引く。


目を開けると真っ先に飛び込んできたのは審判をしていた教師の軽蔑の眼差し。


敗者に向けるこういう人たちの目はいつもこうだ。


他人を見下すだけで、自分は大して実力もない。


だから最後には必ず負ける。


それは歴史が証明してきたことだ。


「私は・・・」


ぬくりと起き上がる。


遠目の方で、美男子たちに囲まれているリリスの姿が分かる。


それを見て私は安堵をする。


が、すぐにマリーアの仮面を被る。


「マリーア嬢、あなたの負けです」


審判の冷酷な声に過剰に反応する。


「そ、そんなこと認められるわけないじゃない!私はまだ戦えるわ!」


と、私が言うと周囲から冷ややかな目線が来る。


「実力もたいしたことないじゃない」

「やっぱり、男爵家風情だわ」

「まずまず、アレックス殿下と付き合っていばりちらかしていてざまぁないわね」


「あんたたちは私に付いてきたじゃない!私を見限るの!」


そんな負け惜しみの言葉に誰も耳を貸すはずがない。


「マリーア、あなたは決闘に負けた。それ以上は恥をかくわよ」


リリスが私の叫びを聞いて、ゆっくりと近づいてきて答える。


それに私は立ち上がってこう答える。


「ふざけんじゃないわよ、平民の分際で!私に楯突いて!勝負は無効よ!」

「それは決闘を愚弄することになるよ!」


と、リリスに返される。


もちろん原作通り。


「負けは負けだ」

「認めなさい」

「意地を張るな」


周囲から強い言葉が投げられる。


「い、嫌よ!私が負けるはずないわ!こんな、こんな精霊じ―――」

「それ以上言うな。死にたくなければ」


精霊術士のことを言おうとする私へ、一瞬で距離を詰めて喉元へと剣を突きつけるアレックス。


「な、何なのよ!なんで殿下はあんな女の味方なのよ!」

「それは、友達だからだ」


その返しに私は踵を返しながら大声で叫ぶ。


「いつか、覚えときなさい!!!」


そのまま冷ややかな視線に見送られながら走って入場口へと戻っていく。


何とか一段落は付いた。


多少は思い通りにいかなかったが、それでも原作通り。


これでいい、これでいいのだ。


私は従順に生きる。そう決めたのよ。


この異世界という私の住んでいた場所とは違うところを決して荒らさない。


それが転生者としての私のするべきこと。


でも、もし叶うなら。


「兄さんに会いたい・・・」


私は誰にも聞かれない声で呟いた。



―――


明日は二話投稿、最終話です!

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