留学編 5章

第201話 帰国前に・・・

最終章です!

この章は最後まで絶対に読んでください!



―――




叔父との勝負も終わり、雪解けの近い三月。


僕は遂に帰国することになった。


やっとこの忌々しい腐った民主主義の国から離れることができる。


前世を思い出すような嫌な一年だった。


と言っても、僕としては有意義な時間でもあった。


新しい情報を得たり、こちらでの協力者を確保したり。


それなりに収穫があり、無駄とは思っていない。


何より、イキがっている民主主義の野郎どもに、己れの自己欺瞞的な有様を分からせることができたのだ!


それだけで僕の笑いは止まらない。


「ルイ様、相変わらず酷い顔をしていますよ」


人が思い出に耽っているところに突然声をかけるレーナ。


相変わらず、とはどういうことだ!


いつも通り、と言え!


「今は思い出に浸っているんだ。邪魔しないでくれ!」

「・・・仕事を早く済ませてください」


僕の言葉を聞き流し、無言の圧力をかけてくる。


「仕事なんて知らん!」

「いいえ、あります」

「そもそも僕はまだ十四だぞ!」

「でしたら私は一歳違いの十五です。アルスとテラに関しては十三ですよ」

「でも、お前らは部下だ」

「ええ、そしてルイ様は次期当主様です。仕事はしっかりしてください」


どうやら逃れることは難しいようだ。


貴族社会では当主の息子が小さい頃から仕事を手伝うのは当たり前で、むしろ帝王学だとされ奨励されている。


そう。そもそも労働基準法なんていう人権尊重の発想がない。


こんな世界、誰が来たがるんだ?・・・・あ、僕か!


「ルイ兄様。仕事の手が止まっています」


アルスが近くのテーブルで書類を書き込みながらこちらを見る。


この世界の…と言うより、貴族社会の事務仕事はおおよそ次の三段階に分かれている。


まずは軽めの書類は、【コピー】と魔法を唱えて簡単にできる。


要は同じような文章をコピペしても構わない書類を、楽して片付けるのだ。


テラやメイドなど、下っ端がやる事務仕事だ。


二つ目はアルスやレーナ、セバスといった、ある程度知識があり、それを活用して処理することのできる人材が行う事務仕事。


これらは重要度が中ぐらいのもので、当主の許可も不必要な事務仕事だ。


基本的に魔法に頼らず手書きでするため、常に手首に【ヒール】をかけながら仕事をしている。


そして最後が、僕や父などしか捌くことのできない重要な書類。


これらには僕の署名、許可、裁決が必要となる。


所謂、面倒くさい仕事だ。


やりたくないのだが・・・残念ながら解放はしてくれない。


「て言うか、何でこんなに仕事があるんだ!出発まで後五日しかないんだぞ!」

「それをあんたが言うのかニャ!!!」


ヒーヒー言いながら必死で仕事を捌くテラが、悲鳴混じりに叫ぶ。


「おい、馬鹿猫!喧嘩売ってんのか?」

「ルイ様、やめてください!それに、テラの言うことは正しいですよ」


今度はセバスが割って入ってくる。


「どうしてだ?」

「今こなしている仕事は、全てルイ様が撒いたものですよ。お忘れですか?」


僕は手元にある書類の束を眺める。


学園に戻るための手続き。


大臣たちへの賄賂の隠蔽。


血の契約をした生徒たちへの指示。


ダンジョン消滅事件についての始末書整理。


ルイ領でのたまりにたまった仕事・・・


うん、忘れてる。僕に覚えは無いぞ!


「「「「しらばっくれないでください!!!!」」」」


全員から一斉に睨まれる。


ぐっ、数的不利だ。


「まあ、ルイ兄様を責めるのはここら辺にしましょう」


アルスが目線を書類に移して言う。


流石、我が弟!グッドタイミング、助け舟!


「こんなこと、いつものことじゃないですか?」


ん???おいおい、兄を救うんじゃなかったのか!!!


「確かにいつものルイ様です」

「ははは、すっかり忘れておったよ」

「これがいつも通り、って・・・・ニャーはついていないニャ」


だめだ。アルスも結局、向こう側か?


もういい、知らん。


「僕は意地でも仕事をしないぞ!これは主君命令だ!」


レーナがジトッとこちらを見て、すぐに視線を逸らす。


「何だ?何か言いたいことがあるなら、はっきり言え!」

「・・・ルイ様。もしこのまま仕事が終わらなかったらどうなると思います?」


そんなの知ったこっちゃない。


「二日後のお買い物が中止になりますよ」


・・・・・・おいおいおいおい、待て待て待て待て!その買い物は我が妹アンナへのお土産だぞ!


「どうします?」


クソっ!こいつらの口車に乗せられるのは癪だが、可愛い天使アンナの為なら・・・



二日後、何とか仕事を終わらせた僕は買い物へと出かけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る